日刊鹿島アントラーズニュース
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2016年10月29日土曜日
◆本山雅志、プロ19年目で初体験の“プレッシャー”。故郷・北九州で挑むJ2残留争い(フットボールチャンネル)
http://www.footballchannel.jp/2016/10/28/post181917/
通算19シーズン目を迎えたプロサッカー選手人生で、37歳の大ベテラン、MF本山雅志は初めて経験する“プレッシャー”の真っただ中にいる。
高校サッカー史上で初めてとなる三冠獲得の勲章を引っさげ、東福岡高校から鹿島アントラーズに入団したのが1998シーズン。神様ジーコが礎を築いた常勝軍団で5年目から栄光の背番号「10」を託され、前人未到のリーグ戦3連覇を含めた14個ものタイトル獲得を経験してきた。
一転して、今シーズンから完全移籍で加入したJ2のギラヴァンツ北九州は、残り5試合となったリーグ戦で最下位に甘んじている。このままシーズンを終えれば、J3降格の憂き目にあう。ひとつ順位を上げて21位になっても、ホーム&アウェイ形式で行われるJ3の2位との入れ替え戦が待つ。
これが20位に滑り込めば残留を果たせる。現時点で21位のFC岐阜との勝ち点差はわずか「1」で、20位のツエーゲン金沢とは「3」。ツエーゲンと勝ち点36で並び、得失点差でわずかに上回るカマタマーレ讃岐が19位につける。痺れるような状況に、百戦錬磨の経験をもつ本山も苦笑いを隠せない。
「後がない感じは優勝争いと似ているかもしれませんけど、頂点へ向かっていくときに感じるプレッシャーと、下に落ちるかもしれないというプレッシャーは、やっぱりまったく異なるものなので。その部分では難しいですけど、だからこそモチベーションをどれだけ上げられるか。(優勝争いと)似たような感じだと言い聞かせながら(プレッシャーを)いい方向に変えて、目の前の試合で自分のプレーをしっかりとすることだけを考えています」
「1試合、1試合がめちゃくちゃ疲れます」
アントラーズ時代で唯一、「降格」の二文字がちらついたのは本山が加入して2年目の1999シーズンくらいだろうか。この年は開幕から低空飛行が続いた末に、セカンドステージ途中でゼ・マリオ監督を解任。ジーコが総監督として急きょ指揮を執り、最終的には年間総合順位を9位で終えた。
当時の本山はまだ途中出場が多く、リーグ戦におけるゴールも記録していなかった。それだけに、37歳にして初めて経験する残留争いは、逆の意味で新鮮に感じられるのだろう。1試合を終えたときに覚える感覚が「まったく違いますね」と、再び苦笑いしながらこう続ける。
「1試合、1試合がめちゃくちゃ疲れます。勝った試合ももちろんですけど、負けたらどこが悪かったのかをすぐに考えるので。何よりも『勝たなきゃいけない』という状況が、やっぱり疲れますよね」
昨シーズンはわずか6試合、合計139分間のプレーに終わった。先発出場はセカンドステージ第5節のサガン鳥栖戦だけ。リーグ戦終了後にフロントと話し合いの場をもち、退団が決まった。当時のアントラーズのオフィシャルサイトには、本山のこんなコメントが綴られている。
「今後を考えるうえで自分のキャリアを振り返ったとき、いろいろな情景や感情が沸いてきました。しかし、最後には『まだピッチに立ち続けたい』という気持ちが残りました。試合に出場して、チームに貢献したい。プロ選手としてあるべき姿を追い求めたいという願いから、退団を決意しました」
いくつかのオファーを受けたなかで真っ先に声をかけてくれて、柱谷幸一監督が茨城県鹿嶋市へ足を運んで熱意も伝えてくれたギラヴァンツを選んだ。カテゴリーがJ2となることに、何も不安もなかった。むしろ北九州市で生まれ育ち、サッカーを始めた本山は原点に戻る思いを胸中に募らせていた。
「10」番を背負うことも状況次第では可能だった
たとえば背番号。今シーズンはチーム内でもっとも大きな「43」を背負っているが、これは登録が遅れたからではなく、本山自身が望んでつけたものだ。ギラヴァンツ側は当初、アントラーズにおける本山の功績に敬意を表して、背番号に関してこんな言葉をかけてきた。
「10番をつけたいのならば、コテに聞いてみて」
コテとは大分トリニータから加入した2013シーズンから、背番号「10」を託されてきたMF小手川宏基。アントラーズ時代に続いて「10」番を背負うことも状況次第では可能だったが、本山はギラヴァンツへの移籍が決まったときから「43」しか考えていなかった。
北九州市立二島中学校から、全国の猛者たちが集まる名門・東福岡高校へ進んだ1995年。練習試合に臨むために手渡されたユニフォームに記されていた番号が、実は「43」だった。
「東福岡は僕が飛躍したチームでもあるので。そこで付けた最初の背番号のもとで、原点に戻ってサッカーをやりたいな、という気持ちですね。なので『10』に関しては何も考えていませんでした」
迎えた今シーズン。昨シーズンはJ1を戦ったモンテディオ山形をホームの北九州市立本城陸上競技場に迎えた2月28日の開幕戦で、ギラヴァンツはJ2に加盟して7シーズン目にして初となる白星発進を果たす。本山も後半24分から途中出場し、歓喜の瞬間をピッチのうえで味わった。
しかし、J3から初めて昇格したレノファ山口に初勝利を献上した第2節を境に、風向きが大きく変わる。第13節のFC町田ゼルビア戦まで実に11試合も勝ち星から見離され、松本山雅FCに苦杯をなめた第16節終了時には2010シーズン以来となる最下位に転落した。
本山自身も後半途中からの出場が多くなった。しかし、自身のコンディションと、何よりもチームが置かれた状況と戦力とを考えたときに、それが指揮を執って4シーズン目となる柱谷監督の考えうるベストの戦略だと受け止めて、与えられたチャンスでベストを尽くしてきた。
「けが明けという時期もありましたけど、チームとして守備を重視する戦い方が多くなってきたので、その部分で後半に勝負をかける途中交代だったと思っています」
ベテランの自問自答。いまの自分に何ができるか
アントラーズ時代に培った濃密な経験と、Jクラブのなかでも希有な強さを誇る「勝者のメンタリティー」を、生まれ故郷に産声をあげたギラヴァンツに伝授したいという思い。なかなか勝ち星をあげられずに、もがき苦しんでいる現実。そのはざまでいまの自分に何ができるかを、本山は自問自答してきた。
「もちろん勝つための試合をしたい。けれども、鹿島とはまた違った色があるチームなので、そこは監督がやりたいサッカーや、みんなができるサッカーというものに準じていかなきゃいけない。その部分では難しい部分がありましたけど、前半戦に比べればそういう状況にも慣れてきましたし、もっと違う部分も出していけるのかな、と思っています。
やっぱりこのチームは前からボールを奪いにいくというよりは、(自陣に)引いてボールを奪ってカウンターという形が多いので。引いてボールを奪ったときに、しっかりとボールをつないで起点になる、あるいは自分たちがボールをもつ時間を長くすることが僕にはできると思うので。そういうプレーを、もっとやっていきたいですね」
厳しい状況に置かれても泰然自若としているオーラを発しているのは、アントラーズ時代の経験がなせる業なのかもしれない。コンディションも上がり、8試合連続で先発に名前を連ねた23日の清水エスパルス戦。敵地で0‐2と苦杯をなめ、5試合ぶりに黒星を喫しても、後半23分にベンチへ退いた本山の口調は穏やかだった。
「勝ち点1でも取って帰ろう、というプランで臨んだんですけど。先に点を取られて、それでも粘り強く攻めていくなかでチャンスを作れればと思って試合を進めていきましたけど、向こうがボールをもつ時間が長くなってくるにつれて難しい状況になりましたね。僕自身のコンディションはいいですよ。今日もまだまだできる感じだったので」
J1昇格プレーオフ圏内につける京都サンガ、首位を快走する北海道コンサドーレ札幌とスコアレスドローにもちこんで勝ち点1を稼ぎ、前節では残留を争うカマタマーレに3‐0で快勝。ツエーゲンに代わって最下位を抜け出したが、1試合で逆戻りしてしまった。
どうしても残留したい理由。新スタジアムのオープン
残りは5試合。ギラヴァンツにはどうしてもJ2に残留したい理由がある。悲願でもあった新スタジアムである、建設中の北九州スタジアムが来年3月12日に正式オープンすることが決まったからだ。
JR小倉駅から北へわずか500メートル、徒歩約7分に位置する、いわゆる「街中スタジアム」は約1万5000人収容の球技専用で、J1規格をも満たしている。2014シーズンには5位に食い込みながら、現在の北九州市立本城陸上競技場の不備でJ1ライセンスが付与されなかったがゆえに、J1昇格プレーオフに出場できなかった。
念願がかなって、今年9月には来シーズンのJ1ライセンスが交付された。人口約96万人を抱える北九州のサッカー界にとって、新スタジアムのこけら落としとともに新たな歴史が幕を開ける2017年。象徴をなすギラヴァンツがJ3で迎えるわけにはいかないと、本山も力を込める。
「僕たちにはもう(J2に)残留するしかないので。(来年は)J1へはいけないので、残留に向けてしっかりやらなきゃいけないので。結果が伴ってくれば、北九州市は人口も多いので、どんどんサポーターも増えてくるはずなので。それを目指して頑張っていきたい」
アントラーズ時代の晩年は1年契約を続け、目の前の試合に集中してきた。一転してギラヴァンツに移籍した際には2年契約を結んだ。そこにはチームが待ち焦がれてきた真新しいスタジアムで、新たな歴史を作っていく一員になりたいという熱き思いが込められている。
移籍を決めてからは単身赴任の形で、北九州市内で鮮魚店を営む実家から日々の練習に通っている。実家住まいの37歳のJリーガーという現状に照れ笑いする姿からも、ボールを追いかけ始めたころの原点に戻り、愛してやまないサッカーに夢中になっている本音が伝わってくる。
「僕の部屋ですか? 残っていたといえば、残っていたという感じですね。親と話す時間も多くありますし、本当に“超”がつくほどの地元なので、いろいろな友だちにも会える。懐かしい感覚のなかで、楽しくしています」
30日の次節はホームにFC岐阜を迎える。J2残留を争うチームとの直接対決はこれが最後。勝てば最下位を再び脱出し、ツエーゲンとカマタマーレの結果次第では、一気に19位にまで順位を上げることができる。文字通りの大一番で、自然体を貫く大ベテラン、本山の存在感がますます大きくなる。
(取材・文:藤江直人)
【了】
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