日刊鹿島アントラーズニュース

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2018年2月16日金曜日

◆カギ握る内田篤人。アントラーズが取り戻すべき“鹿島らしさ”。まさかの無冠からの逆襲へ(フットボールチャンネル)




前人未踏のリーグ3連覇を知るDF内田篤人(前ウニオン・ベルリン)が、7年半ぶりに復帰したことでオフの注目を集めた鹿島アントラーズ。上海申花(中国)と1‐1で引き分けた、14日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループリーグ初戦では内田が移籍後初の先発フル出場を果たした。まさかの無冠に終わった昨シーズンからの捲土重来を期す常勝軍団のなかで、日本代表としても活躍した29歳の右サイドバックは、すでにさまざまな相乗効果をもたらしている。(取材・文:藤江直人)

「内田選手が入ってくるんですか?」



 内田篤人が鹿島アントラーズに復帰するらしい――ドイツ発の未確認情報が、日本サッカー界にも伝わっていた昨年末のある日。アントラーズの強化責任者に就いて実に22年目のシーズンを終えようとしていた、鈴木満常務取締役強化部長(60)は東京都内にいた。

 完全移籍のオファーを出していた、東京ヴェルディのDF安西幸輝(22)との交渉の席。J1最終節で優勝をさらわれた川崎フロンターレを含めて、複数のJクラブが獲得に乗り出していたホープは、鈴木常務取締役にこう問いかけてきた。

「内田選手が入ってくるんですか?」

 ヴェルディ時代の安西は、左右のサイドバックおよびアウトサイドを主戦場としていた。内田が復帰すれば、右サイドバックでポジションがかぶる。ブンデスリーガ2部のウニオン・ベルリンとの交渉が大詰めを迎えていたなかで、間もなく発表されるであろう事実に対して曖昧な答えは返せない。

「そのときは『多分』という話をしました。ネガティブな言葉が帰ってきたらどうしようと思っていたら、安西は『ぜひ獲ってください。一緒にプレーしたいんです』と言ったんですよ」

 小学生年代のジュニアからヴェルディひと筋で育った安西は、ジュニアユースの卒業を間近に控えていた2010年に、サイドハーフからサイドバックへ転向している。潜在能力を見抜いたのは、炎の左サイドバックとして日本代表に一時代を築いた、ヴェルディOBの都並敏史氏だった。

 そのときから、アントラーズから移籍したブンデスリーガの古豪シャルケと日本代表の両方で輝きを放っていた内田が、安西にとっての憧れの存在となった。だからこそポジション争いが激しくなり、たとえベンチに座る時間が多くなっても、アントラーズへ移籍することを決めた。

 同じ思いを、静岡学園高校から加入して6年目のシーズンを終えようとしていた伊東幸敏(24)も抱いていた。2017シーズンは24試合、1036分間とともに自己最多をマークした右サイドバックは、高校時代から同じ静岡県出身の内田の背中を追いかけてきた。

憧れのレジェンドがライバルに変わる

後半途中から右サイドバックに入り、努力の賜物として精度をあげてきたクロスをアントラーズにもたらす。それまで右サイドバックを務め、攻撃センスに長けた西大伍(30)を一列前にあげる攻撃パターンも確立されたなかで、憧れのレジェンドがライバルに変わろうとしている。

「2、3年前の自分だったら確実に逃げていたと思う」

 人見知りが激しい自身の性格を踏まえながら、いま現在は違うとばかりに伊東は笑顔を浮かべる。年末に行われた契約更改の席上で、安西と同じニュアンスの言葉を鈴木常務取締役の前で発している。

「正式に発表される前から、(内田)篤人さんが移籍して来ることは何となくわかっていたけど、それでも引き続き鹿島でプレーしたいという思いは1ミリも変わらなかった。篤人さんという大きな壁ができましたけど、自分にとっては絶対にプラスになるはずなので」

 今オフの大きな注目を集めた、実に7年半もの時空を越えた内田の復帰。ヨーロッパがオフとなる夏に帰国し、茨城県鹿嶋市内のクラブへ顔を出すたびに、内田へ「そろそろじゃないか」と移籍を促してきた鈴木常務取締役は、内田をして「今回は本気だと思った」と言わしめた理由をこう明かす。

「向こう(ドイツ)での状況と、こっちの状況がちょうど噛み合ったのかなと」

 2015年6月にメスを入れた右ひざは完治に近づいていたものの、筋肉系の細かいけがなどもあり、内田は昨夏に移籍しウニオン・ベルリンで出場機会を得られなかった。一方のアントラーズも、右サイドバックが伊東だけになる状況を迎えようとしていた。

 昨シーズンの最終節の前半途中で、右ひざの内側側副じん帯を断裂。全治4ヶ月と診断され、復帰へ向けて懸命なリハビリを積んでいる西は、鈴木常務取締役によれば「今シーズンは前(のポジション)でプレーしたい意向をもっている」という。

内田を呼び戻した理由。求められる役割



ならば、チーム全体の構成を考えたときに、右サイドバックの補強は必然だった。それが鈴木常務取締役の言う「こっちの状況」に当たるが、特に内田の補強にはもうひとつの意図が込められている。

 昨シーズンは勝てば無条件で優勝できた最後の2試合を、ともにスコアレスドローで終えて涙を飲んだ。黎明期から受け継がれてきた伝統でもある試合巧者ぶりを発揮できなかったピッチ上には、キャプテンのMF小笠原満男(38)の姿はなかった。

 成績不振の責任を取って解任された石井正忠前監督(現大宮アルディージャ監督)に代わり、コーチから昇格した大岩剛監督(45)が指揮を執った6月以降で、ボランチのファーストチョイスはレオ・シルバ(32)と、ヴェルディから加入して2年目の三竿健斗(21)になった。

 小笠原の出場機会は激減し、勝負どころの9月以降になると、リーグ戦の10試合すべてでベンチを温めたまま試合終了のホイッスルを聞いている。ゲームキャプテンは11年目のMF遠藤康(29)、あるいは7年目で日本代表にも定着したDF昌子源(25)が務めた。

 選手起用は監督の専権事項ゆえに、鈴木常務取締役も口ははさまない。それでもシーズンの胸突き八丁で“らしさ”を失った原因をフロントとしても解明し、チーム力を低下させる恐れのある“芽”を摘み取って新シーズンに臨まなければいけない。

「(小笠原)満男が試合に出られる機会がだんだん減ってきているなかで、満男の次の世代で鹿島の伝統や、試合をコントールして、チーム全体を見ながらバランスを取るような役割を演じられることも含めて、そういう存在がまだ必要だというのも(内田)篤人を呼び戻した理由のひとつでもあるので」

伝統の継承。そしてもうひとつの相乗効果



 神様ジーコ、レオナルドとジョルジーニョのブラジル代表コンビらがチームの揺るがない幹を形成した黎明期から一転して、Jリーグ全体の合言葉にもなった「身の丈に合った経営」のもと、アントラーズも2000年代に入って日本人選手を幹にすえるチーム作りに転換した。

 そして、歴史と伝統が凝縮されたバトンを受け取ったのが、1998シーズンに加入した小笠原やGK曽ヶ端準(38)の黄金世代だった。当時描かれた青写真には、小笠原たちが30歳になる前後でバトンが次の世代に受け継がれることになっていた。

 しかし、日本サッカー界に訪れた海外移籍の波がアントラーズをも飲み込む。2010年夏に内田、2013年オフには大迫勇也(現ケルン)と、次世代のリーダー候補がヨーロッパへ挑戦の舞台を求めた。

 より高いステージで自分自身を磨きたい、と望む選手たちの思いは否定しない。それでも、かつて一度は海を渡った柳沢敦(現アントラーズコーチ)や中田浩二(現アントラーズフロントスタッフ)、そして小笠原を再び迎え入れたときと同じラブコールは、内田へも送られ続けた。

 まさに機が熟した今シーズン。内田の存在は右サイドバックの補強、常勝軍団に脈打つ伝統の継承に加えて、もうひとつの相乗効果をアントラーズにもたらせている。伊東と安西に見られるモチベーションのアップは、他のポジションにも波及している。

 上海申花(中国)をカシマサッカースタジアムに迎えた、14日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループリーグ初戦で、安西は左サイドバックとして先発フル出場。武器であるスピードとスタミナを生かした積極的な攻撃参加に、鈴木常務取締役も及第点を与えている。

 昨シーズンまでの左サイドバックは、ベテランの山本脩斗(32)が孤軍奮闘していた。ポジション争いを白熱化させる安西は、練習試合やプレシーズンマッチで左右のサイドハーフとしてもプレー。3日の水戸ホーリーホック戦では右サイドハーフでゴールを、右サイドバックでアシストを記録している。

ポジションをめぐるチーム内の激しい火花

 必然的に2列目にもポジション争いは波及する。遠藤、完全移籍に切り替えたレアンドロ(24)、土居聖真(25)、中村充孝(27)、高卒2年目のホープ安部裕葵(19)らがハイレベルな火花を散らす。

 土居と安部は最前線でもプレーできるため、今シーズンから「10番」を背負う金崎夢生(29)、ペドロ・ジュニオール(31)、鈴木優磨(21)、金森健志(23)らが火花を散らす。1‐1のドローに終わった上海申花戦ではペドロ・ジュニオールと鈴木が先発フル出場し、後者がMVPを獲得した。

 昨シーズンは昌子、植田直通(23)の日本代表コンビで戦ったセンターバック陣からは、ブエノ(22)が徳島ヴォルティスへ期限付き移籍。一方で清水エスパルスから犬飼智也(24)が完全移籍で加入し、昨年5月に右ひざの前十字じん帯を損傷した町田浩樹(20)も復帰して2人の背中を追っている。

 J1と天皇杯の二冠を制し、獲得タイトル数をライバル勢の追随を許さない「19」に伸ばした2016シーズンのオフは、レオ・シルバやペドロ・ジュニオール、レアンドロ、GKクォン・スンテ(33)らを、昨シーズンのタイトル獲得を想定した先行投資的な意味合いも兼ねて獲得した。

 果たして、まさかの無冠に終わったオフは内田を再び迎え入れ、空き番としていた「2」を再び託すことにまず注力した。主力としてプレーした選手のほぼ全員が残留し、安西らも加わった結果としてポジティブな変化が、それもいくつも引き起こされようとしている。

 そして上海申花戦では内田自身が、アントラーズ復帰後では初の先発フル出場を果たした。しかも、後半アディショナルタイムには鈴木とのワンツーから相手ゴール前へ抜け出し、相手GKのファインセーブの前にキャッチこそされたものの、右足から豪快なシュートも放った。

「1試合終わっただけじゃ復帰なんて言えない。Jリーグも開幕していないから。でも、どんどんよくなっている。ゲーム体力もボールタッチもくさびを入れるパスも、戻ってきているかな。だいぶ長いことプレーできていなかったから嬉しかったし、楽しかった」

 今シーズンのカギを握る存在、といっても過言ではない元日本代表DFの元気な姿に、鈴木常務取締役も目を細めずにはいられなかった。

「サッカーをよく知っているというか、ポジショニングもいいし、裏へ抜け出すタイミングもいい。だてに7年半も向こうでプレーしていたわけではない、さすがだなと思いましたよ」

 上海申花戦ではピッチに立てなかった小笠原も、もちろんこのまま黙っていないはずだ。両センターバックを除いたすべてのポジションで散らされるであろう、ポジションをめぐるチーム内の激しい火花が、通算20個目の国内タイトルを手繰り寄せる原動力になる。

(取材・文:藤江直人)

【了】

カギ握る内田篤人。アントラーズが取り戻すべき“鹿島らしさ”。まさかの無冠からの逆襲へ


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