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サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第165回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、内田篤人について。先日のガンバ大阪戦を最後に、32歳にして現役を引退した内田篤人。宮澤ミシェルは、彼のプレーを初めて見た時のことを振り返り、「目が釘付けになった」と当時の驚きを語った。
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内田篤人が8月23日に現役を引退したけど、ひとつの時代が終わったような感じがするな。
彼がJリーグにデビューしたのは2006年。清水東高から入団して間もない選手が、"あの"鹿島アントラーズで開幕戦からスタメンで起用された。初めて彼のプレーを見たときの驚きは、つい昨日のことのように思い出せるよ。
当時のアントラーズは、内田が入団する前年の2005年はG大阪と浦和レッズに押され気味でリーグ戦は6位だったけれど、Jリーグカップは準優勝で、天皇杯もベスト4。
高卒ルーキーの開幕戦スタメン起用が弱小クラブでのことなら特別な驚きはなかったと思うけど、Jリーグ屈指の強豪クラブでのことだったからね。初めてそのプレーを見たときから目が釘付けになったな。
どこに惹かれたかと言ったら、プレーする姿がカッコよかったんだよな。ウッチーのルックスがいいという話ではなくてね。
高卒ルーキーで体も今よりは細くて、当然だけどパワー不足。だけど、それが気にならないくらいスピードと柔軟性があってさ。自分が現役選手として持っていなかった能力でもあったらか本当に羨ましかったんだよね。
なにより憧れたのが、ボールの置き方。内田はパスを受けると自分の体の正面にボールを置くんだよ。いろんなサイドバックを見たらわかることだけど、その位置にボールを置ける選手はあまりいない。
理由はSBがトラップしたボールをそこに置けば、相手に晒すことになるから、相手のプレッシャーを受けたときに奪われるリスクが高まるからなんだ。
それなのに内田がそこにボールを置けるのは、プレッシャーをかけられたらポンッとボールを動かせば相手をかわせる感覚を持っていたからだし、それができるスピードがあったから。解説席から内田のプレーを見て、「あのスピードが自分にもあればなあ」と何度も思ったものだよ。
だけど、内田のすごさは、そうした特別な才能を持ちながらも、常に向上しようとしたとこだろうね。
2010年のW杯南アフリカ大会はメンバー入りし、チームはベスト16まで勝ち進んだけど、試合に出場できないまま終わってさ。W杯後にその悔しさを持ってシャルケに移籍して、チャンピオンズリーグのベスト4を戦った唯一の日本人選手になった。
右サイドを駆け上がる内田の勇姿には、いつもワクワクさせられたよな。
2014年W杯ブラジル大会は試合に出場できたけど、今度はチームが惨敗。きっと「次こそは!」っていう思いを強くしたなかで、右ヒザを手術することになって。現役生活の後半は ほとんどが右ヒザとの戦いになっちゃったよね。
2018年にJリーグに復帰したときは、キャンプに内田を見に行ったんだよね。強度の高い練習は外れたりしていたけど、全体練習はできていたし、個別にスタンドの階段を上り下りをガンガンやっていてさ。
その姿を見たときは、もしかしたらW杯ロシア大会のメンバー入りも大逆転であるかもなと思ったほど。結果的にメンバー入りはできなかったけど、W杯はウッチーのサッカー人生にとっていつも転機になったという印象があるな。
それにしても、まだ32歳だぜ。日本代表で同じ時代を戦った同世代の本田圭佑や岡崎慎司、香川真司はまだ現役でやれていることを思えば、ウッチーだってもっと現役でやれたはずだし、もっと彼のプレーを見たかったよ。
もちろん、本人がそれをできなかった悔しさは一番強く持っているのはわかるんだけど、それでも悔しいよな。どうしたって右ヒザさえと思っちゃうもの。
ウッチーが引退後はどうしていくのかわからないけど、やっぱりサッカー界に戻ってきてもらって、現役時代の経験を後進に伝えてほしいよな。
ヒデ(中田英寿)にしろ、俊輔(中村)にしろ、本田にしろ、香川にしろ、ほかの日本選手たちが経験できなかったチャンピオンズリーグでのベスト4の戦いという財産を、ウッチーは持っているわけだからね。
ヒデのように引退後は自分のやりたいことに向かう可能性はもちろんある。だけど、ウッチーはあの甘いマスクの裏にはサッカーへの熱い想いを秘めているから、きっとサッカー界に戻ってきてくれると期待しているんだ。
まずはしっかり休養を取って、しばらくは家族孝行をしてから決めればいい。
ウッチー、14年間おつかれさまでした!