コルゲン講話 (Tachibana Shinsyo) [ 東州ケロちゃん ]
鹿島アントラーズ・松村優太インタビュー@前編
1月に行なわれた全国高校サッカー選手権大会では、静岡学園高校の主力として優勝に貢献した。松村優太は高校最後の大会で「全国制覇」というタイトルを獲得し、満を持して鹿島アントラーズへと加入した。
J1開幕を前に行なわれたルヴァンカップでは、高卒ルーキーながらメンバー入り。その名古屋グランパス戦では、81分に途中出場を飾った。
ところがわずか9分後、ペナルティエリア内で相手GKに足の裏を見せる危険なスライディングをしたとして、一発退場。チームも0−1で敗戦し、松村にとってはホロ苦いどころか、大きな痛みを伴うデビュー戦となった。
だからこそ、この話題を避けるわけにはいかなかった。
インタビュー開始早々、いきなりデビュー戦について質問をぶつけた。18歳の若者からしてみれば、避けたい話題だったかもしれない。だが、松村は真っ直ぐにこちらを見ると、しっかりと言葉を紡いだ。
「自分自身にとってはデビュー戦ということ、加えて0−1で負けていた状況だったので、試合に勝ちたいという思いも強く、気持ちが空回りしてしまいました。試合後、(名古屋GKミチェル・)ランゲラク選手には直接、謝罪しました。自分自身に対しても悔しかったですし、勝ちたい気持ちが強かったとはいえ、ああいうことをしてしまったことについては猛省しました」
聞けば、人生初のレッドカードだったという。自身と入れ替わる形でベンチに下がった土居聖真がわざわざ迎えに来て、「恥ずかしがることじゃない。顔を上げて胸を張れ」とかけてくれた言葉が心に突き刺さった。それでも悔しさは拭えず、自然と涙があふれた。
「くくりでいえば、悔し涙になるんですかね。試合に負けて泣いたことはありますけど、自分のプレーに対して泣いたのは初めてかもしれません。イエローカードをもらった経験も、これまで一度か二度くらいしかないんです」
そのプレー以上に悔やんでいたのが、試合結果についてだった。
「自分が退場したのは90分くらい。アディショナルタイムも含めれば時間はまだあったので、11人だったら追いつける可能性があったわけじゃないですか。ひとり少なくなったことで、相手にボールを回されたり、ボールを奪えない状況になったと考えると、チームには本当に迷惑をかけてしまったなと。ただ、今はその悔しさをプラスに変えて、ここから上がっていければと思っています」
松村の言葉と表情からは、過ちを認められる素直さと、勝利にこだわる芯の強さが同時に感じられた。何より、結果について言及するところが、すでに「鹿島アントラーズらしい選手だな」とも思った。松村は現実をしっかりと見つめていた。
「まだまだ足りないところばっかりなんですけど、徐々に自分の特徴というものを、ほかの選手にもわかってもらってきているので、最初に比べたら自分のよさは出せていると思います。
ただ、プロになって感じるのは、判断のスピードが格段に違う。言葉で表現すれば、今までなら足もとで受けて考えてからプレーしても大丈夫だった。でも、今はワンタッチで処理しなければ間に合わないというか。
判断だけでなく、寄せてくるプレッシャーのスピードも早いので、ふたつ先、3つ先が見えていないとダメなのかなと感じています。ドリブルやシュートだけでなく、もっとプレーの選択肢を増やしたうえで、自分の特徴を活かさなければいけないんだなって」
急激に判断力を向上させる魔法は存在しない。それは、松村も十二分に理解している。
「ジュニア、ジュニアユース、高校とプレーしてきて、おそらくここまでは6、3、3という学年が示すように、全員が全員、同じ階段を登ってきた。でも、ここから先は一気にガラッと変わる。これまで6、3、3と一歩ずつだったものを、グンって上げるのは簡単じゃないですよね」
振り幅をイメージしやすいように、松村は思い切り片手を上へと持ち上げた。だからこそ、日々の練習が重要になると力説してくれたが、興味深かったのはその考え方だ。
「まずは『できないこと』のほうが多いので、逆に『できること』に目を向けたんです。できないことばかりを意識してしまうと、自分がアントラーズに加入させてもらった特徴も活かせなくなってしまうので。自分はスピードだったり、ドリブルだったりを評価してもらえたから、アントラーズに加わることができたと思うんです。
だから、まずはそこを出していくことが重要かなと。よさを見せていくなかで、周りから『今のはこうしたほうがよかったんじゃないか』『こうだったんじゃないか』と言われることで、新たな視点も見えてくると思う」
できないことがあれば、そこに目が向いてしまうのが人間というものだ。コンプレックスという言葉や劣等感という意識があるように、それは人間の性(さが)とも言えるだろう。だが、松村はできることに着目することで、自分の魅力を最大限に発揮しようとしている。
「もちろん、できないことを考えはするんですけど、そこばかりを見ていると、できることもできなくなってしまうというか。実際、足りないところは多いですけど、練習試合ではドリブルで仕掛けたり、アシストできることもある。アントラーズには経験豊富な選手がたくさんいるので、その人たちの中で揉まれることで、できないところも磨かれてくるんじゃないかなと思っています」
自分の武器は「スピードとドリブル」と認識している。ただ、高校時代と比べてすべてのスピードが格段に上がったプロの世界では、武器だと思っていた自分の特徴すらかき消されてしまう可能性もある。
「だから、迷わないようにしています。仕掛けようと思ったら、まずは仕掛ける。それが先ほども言った判断力を上げていくことにもつながるのかなと」
松村ならば、デビュー戦の苦い経験もプラスに変えることができるだろう。思い切りのいいドリブルと縦に仕掛ける強気なプレー以上に、その思考に惹かれた。
彼の原点はどこにあるのだろうか。それは、武器であるドリブルが武器になり得る前の幼少期にあった。
(後編につづく)
【profile】
松村優太(まつむら・ゆうた)
2001年4月13日生まれ、大阪府出身。大阪東淀川FCから静岡学園高校に進学。背番号10番を背負い、チームを同校初の単独優勝に導く。今季から鹿島アントラーズに加入。ポジション=MF。173cm、63kg。