日本の「ストライカーあるある」として、「足の速い選手ほど動き出しが悪い」、「背の高い選手ほどヘディングが下手」という傾向は少なからず存在しているように思う。工夫しなくてもスピードで解決できるなら動き出しを磨く必要性を本人が感じられないし、ヘディングについても同様だからだろう。
これは逆も真なりで、佐藤寿人のような背の小さいストライカーがヘディングに関して抜群の技術や個人戦術を持っていたりする。鈍足の岡崎慎司が動き出しを磨いてカバーしたのも同じような文脈だ。
足が速くて背も高いストライカーとなると、その身体以外に何も武器がなかったりする——。
ただ、まさに足が速くて背も高いストライカーであるU-21日本代表のFW上田綺世(法政大学)は、こうした傾向に当てはまらない選手だ。「スルーパスを受けるのが好き」だと言うように、動き出しのタイミングを計るのがうまく、しばしば絶妙な抜け出しを見せるし、ヘディングでは単にデカいだけの選手にはできない強さを見せ付ける。
その理由を紐解くと結構シンプルで、「昔は小さかったから」ということになる。
「ポジションはFWでしたけれど、中学に入ったときは150センチくらいしかなくて、中3で160センチ半ば」という体格は取り立てて恵まれたものではなく、「自分のプレースタイルを見失いかけた」のも無理はない。幼少期から父の薫陶を受けて鍛えてきたヘディングは自信を持っていたが、パワー負けするようになったし、往年の名ストライカーであるフィリッポ・インザーギやガブリエル・バティストゥータなどの映像から学んで工夫を重ねてきた動き出しの良さも、スピード不足で潰されることが多かった。
鹿島アントラーズジュニアユースノルテに所属していた上田だが、そうした中でユースチーム昇格を逃してしまう。負傷もあり、この中学時代に育成年代のキャリアにおけるドン底を経験することになった。
ただ、この時期は上田の身体面で急速な変化が生まれていた時期でもある。中学の終盤から身長が大きく伸び始め、高校入学時点で170センチ台にまで急伸した身長は高校時代に10センチの伸びを記録することとなる。大学で身長は「181センチにまで伸びた」(上田)。
成長期が遅く来る選手というのはいるもので、彼らは持っているポテンシャルを正当に評価されないことがしばしばある。それによって大きな挫折を味わう選手も少なくない。だが、身体的な成長の早い選手たちとハンディキャップマッチのような戦いを強いられることによって伸ばされる資質もある。
「体の成長が遅くて、フィジカル的に勝てない時期はすごく悩んだ。小さいころはどんな形でも点が取れていたんですけれど、それが崩れてきていた。でも、そこで我慢し、それでも点にこだわり続けたから、体がしっかりできた今、こうやって活躍できている」(上田)
当たられたら負けるから判断早く動き出す。悔しい経験を重ねる中で、優れたストライカーたちの動き出しを映像から学んで実践してきた。その積み重ねが「スピードもパワーも負けなくなって、ようやく生きるようになった」(上田)。
少々回り道だったかもしれないが、幼少期から地道に積み上げてきた武器が色あせることはもはやないだろう。アジア競技大会準決勝のUAE戦でも、0-0の緊迫した状況で投入されても、スタイルを見失いかけていた時代の上田とは違う思いが出てくる。
「そういう緊迫した状況でインパクトあるプレーを出せば流れを変えられますし、自分でも自分にそういう力があると信じているので」(上田)
遅れてきた成長期に苦しみながらも折れずに培ってきた確かな力を自信に変えた上田綺世は、もはや東京五輪世代を代表するストライカーの一人に大きく開花しつつある。
取材・文=川端暁彦
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◆東京五輪世代を代表するFWに開花間近…上田綺世、遅れてきた成長期を武器と自信に変えて(サッカーキング)