スペインの名門サッカークラブ「FCバルセロナ」のアンドレス・イニエスタ・ルハン選手が、楽天<4755>傘下でサッカーJ1の「ヴィッセル神戸」へ移籍する。最大の話題になったのが、イニエスタ選手の32億5000万円もの年棒だ。同じ楽天傘下のプロ野球チームである東北楽天ゴールデンイーグルスに所属する選手全体の合計年俸額約28億円を上回る。
「移籍」というよりも「企業買収」のスケール感
さらには同じJリーグチーム・アルビレックス新潟の年間売上高27億6200万円(2017年12月期)を超え、清水エスパルスの同40億100万円(2018年1月期)に迫る勢いだ。こうなると「イニエスタ選手の移籍」というより「イニエスタという企業の買収」と見た方がスケール感はピッタリくる。では、企業買収として今回の移籍をみれば、高いのか安いのか。
今回の移籍でイニエスタ選手に提示された年棒に近い企業買収は、2017年8月31日に実行された大手家電量販店のエディオン<2730>によるJ. フロントリテイリング<3086>傘下の業務用消耗品・オフィス家具・OA機器通信販売会社フォーレストの買収で、取得金額は33億円。エディオンは自社のネット通販サイト「エディオンネットショップ」をてこ入れするため、買収に踏み切った。
フォーレストの買収当時の年間売上高は128億円。つまり年間売上高128億円の企業買収に、エディオンは33億円を対価として支払ったということになる。売上高が公表されているJ1チームで最も多い鹿島アントラーズが52億2800万円なので、フォーレストはその約2.4倍に当たる。
もちろん企業買収の価値判断は、売上高だけでなく、収益性や市場シェア、事業の将来性、保有資産などによって大きく左右されるが、ここではスケール感を把握するために買収金額と売上高の関係だけでみてみよう。
通販や携帯事業のPR効果を考えれば「割安」か
仮にイニエスタ選手を「企業買収」したと考えると、J1の2チーム分以上の売上高に相当する価値があるということになる。ただ、フォーレストが年間1億円の経常利益を計上していたのに対して、アントラーズは同1億3800万円の営業赤字であることを考えれば、イニエスタ選手の価値はそれ以上ということになる。
裏を返せばイニエスタ選手によって年間128億円の売上増が見込めれば、一般企業の買収判断で「買い」といえる。名門アントラーズですら年間売上高が50億円を超える程度となれば、ヴィッセルの売上増ぐらいでは到底ペイしない。なので楽天の主力事業であるネット通販でのPR効果による売上増などで、「買収資金」を回収することになるだろう。
事実、楽天は移籍会見翌日の2018年5月25日に、通販サイトの楽天市場で「ようこそイニエスタ 感動をありがとう!全ショップ対象エントリーでポイント2倍」キャンペーンをスタート。イエニスタ選手の名前を冠したワインや彼の新ユニフォームなどを販売している。さらに2019年10月にサービスを始める、自前回線での携帯電話(キヤリア)事業のPRにも積極的に活用するはずだ。
楽天の2017年1~12月国内電子商取引(EC)流通総額は3兆3912億円であり、イエニスタ選手のPR効果で0.37%の増収効果があれば128億円を超える売上増につながる計算だ。そうなれば「企業買収」としてのイニエスタ選手の移籍は、エディオンによるフォーレスト買収と同等の評価になる。つまり企業買収としてみれば、32億5000万円の年棒は「決して割高ではない」ということになるだろう。
ちなみにエディオンはヴィッセルと同じJ1に所属するサンフレッチェ広島の筆頭株主であり、買収したフォーレストが楽天と同じネット通販会社なのは単なる偶然である。
文:M&A Online編集部
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