「赤字、成績も動員も最下位」を蘇らせた5原則
ところで、今やB1昇格も視野に入るロボッツだが、3年前まではB2で2年連続で最下位に沈む「ビリチーム」だった。何がこのチームを蘇らせたのか。オーナーとしてチームの再建に取り組んできたのが、グロービス経営大学院学長の堀義人氏だ。同氏の近著『創造と変革の技法』には、起業家として、ビジネススクールの学長として考え抜いた5つの経営の原則が書かれている。いかにロボッツを蘇らせたのか、この原則に照らし合わせ、話を聞いた。
いかにロボッツを蘇らせたのか
僕がバスケットチームにかかわるようになったのは、2016年のこと。故郷の水戸を活性化させる「水戸ど真ん中再生プロジェクト」の座長に就任し、地方創生の起爆剤になるものを探していたころだ。川淵三郎氏との面談を経て、新たにできるBリーグに興味を持ち調べてみたら、地元に、一度経営破綻した「つくばロボッツ」というチームがあることを知った。
水戸の活性化を考えていた僕は、1つのロールモデルに思い当たった。サッカーの鹿島アントラーズだ。水戸よりはるかに人口が少ない地方都市の、当時JSL(2部)を母体に発足したクラブチームが、Jリーグ開幕の年に優勝し、その後四半世紀、つねに強豪チームとして日本中から愛されている。2年前にはクラブ・ワールドカップで「あの」レアル・マドリードと熱戦を繰り広げ、今や世界からも注目されるチームだ。
なんて夢のある話だ! 地方創生の起爆剤として、これほど魅力的なものはない。
僕は、経営破綻後に着任し再建に取り組んでいたロボッツ代表の山谷拓志さんをプロジェクトのメンバーとして招聘し、2016年2月に開催された1回目の会合後にあんこう鍋をつつきながら2人で話し合った。意気投合して出資を決め、新生「茨城ロボッツ」の共同オーナーとなった。
当時のロボッツは、前身のチームが2年前に経営破綻している赤字チームで、成績も観客動員数も最下位という三重苦にあえいでいた。水戸を活性化させるためにも、まずロボッツを再建しなければならない。
僕は起業家であり、ビジネススクールの学長だ。経営についてはそれなりの自負がある。プロスポーツチームの経営に携わるのは初めてだが、ロボッツの再建には自信があった。これまでのビジネス経験をもとに考え抜いてたどり着いた「5つの原則」に従えば、今回もうまくいくと確信していたからだ。
原則1:可能性を信じ、志をたてる
ロボッツはアントラーズのようになれるのか。心のどこかで「そんなことは無理だ」という気持ちがあれば、実現は難しい。かと言って根拠もなく信じ込むのは、ただの無謀だ。そこには、自分自身が「これは実現できる」と信じるに足るロジックが必要だ。
そのロジックを見つけるために、栃木ブレックスや千葉ジェッツなど、他チームから話を聞き、海外チームの事例を研究した。そして成功しているチームの成長の軌跡を徹底的に検証した結果、ロボッツを数年でB1リーグ昇格&優勝を狙えるチームにすることは可能だと確信した。その日から僕は、自分に対しても人に対しても、自信をもって「ロボッツをB1で優勝させる」と言えるようになった。
1000人に声をかけ980人にふられてもOK
原則2:人を巻き込み、組織を作る
原則の2つめは「人を巻き込み、組織を作る」である。何かをやりたいと考えても、1人でできることには限りがあるし、なるべく多くの人を巻き込まないと大きなことはできない。
たとえば良い選手を獲得するために、僕は何人もの選手と会って食事をし、直接熱意を伝えた。選手にとって年俸はもちろん重要だが、お金だけでは彼らの心は動かない。練習環境やオーナーの本気度もチーム選択の重要な基準となる。
また、スポンサー集めにも奔走した。グロービスにはベンチャーキャピタルや企業研修部門があるが、僕はこれまで一度もスポンサーに頭を下げに行ったことがない。その僕が何十社と行脚し、頭を下げまくった。おかげで茨城県内外から多くのスポンサーに協力していただけることとなった。
もっとも、声をかけた全員が協力してくれたわけではない。たくさんの人にふられた。でもOKだ。100人に声をかけ2人しか応じてくれなかったとしよう。これを「98人にふられた」と考えるか「2人応じてくれた」と考えるかは大きな違いだ。前者は絶望的な気持ちになるが、後者は「1000人に声をかければ20人応じてくれる」と考えることができる。
また、チームが強くなるためにはファンの後押しも不可欠だ。1人でも多くの方にファンとして仲間になってもらうため、僕は毎年水戸で2~3回、つくばで1回、スタッフと一緒に駅でチラシを配っている。こうした地道な活動は効くもので、オーナー就任時に1試合600人程度だった観客動員数は、今や1500人程度になり、今季は2200人を目指している。
原則3:勝ち続ける戦略を構築し、実行する
ロボッツが強くなるためには何が必要か。調べた結果、チームの強さと最も相関関係が強いものが判明した。それは選手の年俸総額だ。強くなるためには、年俸総額を上げて良い選手を獲得するしかないのだ。
ならば取るべき戦略の方向性は自ずと決まる。しかし、元は経営赤字で破綻したチームである。すぐには年俸総額を増やせない。そこで僕ら経営陣は、ある一定の割合で毎年年俸総額を上げ続けることを決めた。そのためには、われわれフロントがチームの売り上げを大幅にアップさせ続けなければならない。
当時のロボッツの年間売り上げは約8000万円。年俸総額では4000万円程度であった。一方、Bリーグで優勝するような強豪チームの売り上げは売上高10億円規模で年俸総額が3億円程度であることがわかった。これでは到底太刀打ちできない。
プロバスケットボールで収益を上げる方法は基本的に3つある。スポンサーの獲得、観客動員数の増加、グッズの販売やイベント、アカデミーからの収益だ。放映権はリーグが管理して分配される仕組みだ。
それらに力を入れたのはもちろんだが、その他にも収益の柱を育てるために、水戸市の都市開発や不動産投資事業もロボッツとして手がけることにした。その成果はすでに出ており、オーナー就任後の翌季には売り上げ1億7000万円、そして今季は3億2000万円を達成し、ロボッツ史上初の黒字となった。Bリーグで上位を狙えるチーム基盤が確立されたと言えるだろう。
TVもない!ラジオもない!
しかし残念なことに、茨城にはそれがない。47都道府県中、県域FMラジオ局がないのは2県のみ、県域民放テレビ局がないのは1県のみだが、そのいずれにも該当するのが茨城だ。だから他のチームのように、地元のメディアを使ってファンや観客動員数を増やすことが難しい。ではどうするか。
原則4:変化に適応し、自ら変革し続ける
重要になるのが4つめの原則「変化に適応し、自ら変革し続ける」だ。近年のいちばん大きな変化と言えば、インターネットをはじめとするテクノロジーの急激な進歩にほかならない。この変化に適応し、自らそれを利用すればいいのだ。
ロボッツでは宣伝や告知は、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムに資源を投入することにした。僕もSNSを駆使して来場を呼びかけ、ロボッツについてツイッターでつぶやいている人に返事を書き、「いいね」を押すことが、すでに日課になっている。
その甲斐あってロボッツは、Bリーグ全体のツイッター・リツイートランキングで4週連続首位になるなど、人気クラブを追い抜くほどのファンの支援を得るようになった。
原則5:トップの器を大きくし続ける
5つめの原則は「トップの器を大きくし続ける」ことだ。僕は「組織はトップの器で決まる」という言葉を信じている。トップが成長しないのに、組織が成長することはできない。トップが自らの器を大きくしていけば、組織も大きく伸びていくことができる。
そこで、GMや部長などロボッツの経営トップにグロービスのMBA受講を勧め、学ばせることにした。現在では、選手にも奨学金を出し、MBAを学ぶことを奨励している。トップはもちろん選手にとっても、学び続け、成長し続けることはとても重要である。
トップが変らなければ組織も変らない
普通、バスケットボールチームのオーナーは、スーツ姿でアリーナ最上階のボックス席から試合を観戦しているものだ。でも僕は、いつもユニフォーム姿でコートサイドの中央、いちばん前の席に陣取っている。そしてロボッツが得点する度に立ち上がり狂喜乱舞して叫んでいる。僕自身がアリーナの熱量を生み出す一部となって、チームを、試合を盛り上げることにしたのだ。
このやり方には、お手本がいる。NBAのダラス・マーベリックスのオーナー、マーク・キューバンだ。彼は毎試合、コートサイドの最前列でファンと一緒に応援している。その熱烈な応援ぶりは有名で、激しさが高じて審判から注意を受けたり、罰金を科せられたりすることは、いまやNBAの日常風景だ。
チームを大きく成長させるために、経営チームやオーナーである僕自身が自ら成長し、器を大きくしようと、日々努力し続けている。
5年前に「ビリギャル」という本が話題になり、映画にもなった。正式なタイトルは『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』だ。これにひっかけて言えば「B2ビリのバスケットボールチームが3年で売り上げと観客動員数を3倍にしてぶっちぎりでB1に昇格した話」という「ビリバス」物語を、今年こそは実現したい。そして数年後にはB1でも優勝できるようにチームを育てていきたい。そのための道筋もすでに描いている。
シーズンの開幕は今月末に迫っている。できればこの記事を読んでいただいたみなさんにも、試合会場に足を運んでいただき、その物語の登場人物になってほしい。
そして、コートサイド最前列で熱狂的な応援をしている背番号28のユニフォームを見かけたら、勇気を出して声をかけてもらえないだろうか。28は私の誕生日である。
試合後、みなさんと勝利のハイタッチができたら最高だ。
◆MBA学長が「バスケチーム」を率いてみた結果(東洋経済オンライン)