日刊鹿島アントラーズニュース

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2022年5月20日金曜日

◆繰り広げられる欧州戦術。FC東京アルベルvs鹿島レネ、理想と現実の最適解が問われる一戦(GOAL)





【国内サッカー ニュース】欧州出身の監督が率いるFC東京と鹿島アントラーズがJ1第16節で対戦する。


 今季、欧州路線に舵を切ったFC東京と鹿島アントラーズ。今までのスタイルから脱却を図ろうとする両者が5月29日、J1第16節・味の素スタジアムで対戦する。

 首都の青赤チームを率いるのは、スペイン・カタルーニャ出身のアルベル・プッチ・オルトネダ監督。創設以来、ブラジルスタイルを貫いてきた強豪・鹿島は、スイス人のレネ・ヴァイラー監督が指揮を執る。

 だが、一言で「欧州」とはいっても、そのスタイルは様々で、一朝一夕に確立できるものでもない。目指す理想の形があり、現実がある。では、両指揮官は自身の戦術をいかに浸透させ、ここまで戦ってきているのか? そして、この試合ではどんな駆け引きが行われるのか?

 本稿では、二人のサッカーを3つのポイントから対比し、この試合の見どころを紐解いていく。※数字は第13節終了時点。


■はじめに。今季ここまでの戦い


 「ボールを妻や恋人のように愛しなさい」。現在7位のFC東京・アルベル監督はこんなメッセージを発している。

 中盤でボールを握りながら、5レーンをベースとした選手の立ち位置で、相手陣内のスペースや優位性を自分たちから作っていく、その意識を植え付けている最中だ。ただし、成長過程のチームで結果を出すために、もともとFC東京が持っているFW陣のスピードを生かした攻撃なども織り交ぜている。

 一方の2位・鹿島は、シーズン開幕前のキャンプ時にレネ監督がコロナの影響により来日できなかった。現場の指導は岩政大樹コーチに一任され、開幕数試合もその体制で乗り切った。3月中旬にレネ監督が引き継ぐと、4-4-2のシステムを固定し守備の強度を高め、積極的に「縦スペース」を狙っていくスタイルを志向している。

 上田綺世と鈴木優磨との強力な2トップを生かすが、単純に彼らに当てるというよりも、速い攻撃の中での縦向きのコンビネーションから、フィニッシャーとして彼らを生かす意識が強い。第13節終了時点で上田は8点、鈴木は6点とゴールを挙げており、その成果は結果に現れつつある。


■戦術の鍵。ボールを握る vs 縦に速く


 アルベル監督はショートパスを軸にボールを保持することを重視している。ただし、そこでリスキーなつなぎは求めておらず、受け手がスペースをのぞきながら出して動く、出して動くを繰り返して、縦に差し込んだり、仕掛けるタイミングを見極める。

 ロングボールやカウンターを禁止しているわけではないが、あくまで状況を見極めながらで、ボールホルダーが前に出せるからといって、縦パスが何回も続くようなリズムは好まない。あくまでボールを握ることがベースで、ロングボールやカウンターはオプションである。

 一方の、レネ監督は高い位置でボールを奪ってショートカウンターで仕留めるというのがファーストチョイス。ボールを持つ側になった時も、特にポゼッション にはこだわらないが、必要ならば幅を取りながらつなぐ。それでも縦志向は強く、せっかく前にスペースがあるのにすぐ使わないという選択は彼のフィロソフィーに合わない。

 ただし、ファイナルサードのところは選手のアイデアを大事にしており、2トップとサイドハーフに関してはポジションチェンジなども選手ファーストで容認しているようだ。


■FC東京、鹿島のキープレーヤーは…

MF 44 松木玖生/FC東京

チームのベースを作っている段階で、アルベル監督が高卒新人の松木を開幕スタメンに抜擢し、その後も使い続けている理由は大きく2つあるだろう。1つは「試合に出しながら育てたい」ということ。そしてもう1つが成長途上のチームの中で、中盤の選手に運動量とデュエルの強さを求めているからだ。

 チーム全体の戦術面や技術面がより成熟してくれば、そうしたフィジカル要素に頼る必要性は減っていくとも言えるが、松木は松木でポジショニングや相手を見ながらつなぐ技術、判断をアップデートできている。

 アルベル監督はチームの完成を来年以降と見ているが、その頃には松木自身もアルベル監督の戦術を熟知した一人前の主力MFに成長しているだろう。彼は左利きだが、右から“逆足”を生かしてバイタルを狙う場合、左でワイドにつないでポゼッション を高める場合、目的に応じて安部柊斗と左右を入れ替えることもできる。試合を重ねる中で、そうした応用力が出てきた。

MF 14 樋口雄太/鹿島

 今季、サガン鳥栖から加入した樋口は、レネ監督がボランチに求める要素をハイレベルに備えている。

 基本はやはり、素早い攻守の切り替えに秀でていること。いわゆる“ボックス・トゥ・ボックス”の動きができる機動力があると同時に、ボールを落ち着かせたい時間には中盤でキープできる技術、そして左右の足で正確にサイドを変える展開力を持つ。そして、スキがあれば縦に差し込むパスを出せる。

 そうした要素を状況に応じて使い分ける観察眼と判断力も指揮官の高い評価につながっていると考えられる。もちろん基本的な守備の強度もあり、その条件をクリアした上で、攻撃面でスペシャリティを出しているのが大きい。また中盤ならサイドも2列目もこなせるなど万能性が高く、ディエゴ・ピトゥカ、和泉竜司、三竿健斗など2ボランチの相棒を選ばず、誰と組んでも高水準のプレーができる。さらにセットプレーのキッカーとしても優れる中盤のキーマンだ。


■スタイルを欧州チームに例えると


 アルベル監督のFC東京は欧州だとバルセロナに通じる部分が多い。ただ、もともとFC東京の強みである状況に応じたダイナミックさも捨てておらず、特に前線のアタッカーは飛び出しや縦の仕掛けでフィニッシュに持ち込む意識が強いことから、“ペップ”グアルディオラ監督が指揮するマンチェスター・シティに通じる部分もある。ただし、まだまだ移行期間にあるので、完成度が増してくるとバルセロナのサッカーに近づいていくのかもしれない。

 レネ監督の鹿島アントラーズはハイプレスとショートカウンターを志向しており、その部分ではドイツのライプツィヒを連想させる。ただし、必ずしも速攻にこだわらず、相手を見ながらつなぐときはつないで穴を探すハイブリッドさも備えており、その意味ではリバプールに通じるところもある。欧州で基本的に取られているベースを置きつつ、固定的な戦術スタイルに固執しないで、今何が必要かを判断して、最適解を繰り出していく。選手の理解が進めば進むほど、そうしたチームになっていきそうだ。



 この一戦は、欧州ベースの両指揮官による興味深い対戦だが、やはり一口に欧州と言っても多様性があることを再認識できる試合になるだろう。

 そして忘れてはいけないのは両チームともに「チーム作り、成長の途上にある」ということだ。言い換えれば、まだ未完成ゆえの発見があり、この両者が激突することで、どういった強みが引き出されて、あるいは課題が出てくるのかといった注目点もある。その意味では90分の内容と結果も楽しみだが、そこから両チームがどう成長につなげられるかという線でも、見ていきたいカードだ。

【試合情報】明治安田生命J1リーグ第16節
対戦カード:FC東京 vs 鹿島アントラーズ
日時:2022年5月29日(日)15時キックオフ
場所:味の素スタジアム(調布市)




◆繰り広げられる欧州戦術。FC東京アルベルvs鹿島レネ、理想と現実の最適解が問われる一戦(GOAL)


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