東アジアE-1サッカー選手権は男子が9日に初戦を迎える。海外組を招集できない事情の中で“国内組”からどれだけ突き上げが見られるか期待と注目が集まる大会ではあるが、同時期に開催されるクラブW杯のために槙野智章など浦和レッズの選手は招集できず、主力メンバーの山口蛍(セレッソ大阪)もJリーグで負傷して選外となった。
そうした事情の中で、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は最下位に終わった前回大会のリベンジを狙い、初招集の選手から今野泰幸(ガンバ大阪)のような経験豊富な選手をミックスした楽しみなメンバーとなった。
しかし、西大伍(鹿島アントラーズ)が磐田とのJ1最終節で右膝を負傷して辞退。室屋成(FC東京)が追加招集された。また11月の欧州遠征にも参加したFW杉本健勇がすでに痛めていた脇腹に加え、足首の負傷も発覚して離脱。すでに追加招集を受けていた川又堅碁(ジュビロ磐田)が代わりをつとめる格好となった。
さらに3日目の練習で相手と頭部を接触し、脳しんとうとなった清武弘嗣(セレッソ大阪)が精密検査で大事にはいたらなかったものの、メディカルスタッフの判断を受けて離脱が決定。急きょ、7日の公式会見でハリルホジッチ監督により土居聖真の招集が発表され、その日の練習から合流している。
代表常連の山口が選外となった上に西、杉本、清武と、メンバーの中では経験のある3選手が離脱するという事態。指揮官も「残念ながらたくさんの困難があります」と厳しい状況を吐露したが、残ったメンバーと追加招集の3人が結束して優勝を目指し、その中でフルメンバーに割って入れる様なアピールを期待するしかない。
見方を変えれば未知数な部分は大きいものの、追加招集の3人はメンバー発表前にファンなどからも招集を待望する声があがっていた実力者であり、ハリルホジッチ監督も“ラージファミリー”としてチェックしてきた選手たちであることは間違いない。こうした選手たちの活躍こそが、残り半年間に向けたサバイバルの競争を活性化していくポテンシャルを持っているのではないか。
強いメンタルでアピールを誓う室屋成
室屋成は23歳だが、昨年夏のロンドン五輪にも出場した期待のサイドバックで、クラブでは右が本職だが、左でも機能できる。特に大柄なわけではないが守備の“デュエル”に強く、ライン際ではただでは抜かせない強いメンタリティも備えた選手だ。クロスの精度に課題があるものの、2日目のゲーム形式のトレーニングでは阿部浩之のゴールをアシストするなど、攻撃面でも意欲的な姿勢を見せている。
「追加で入りましたけどチャンスだと思いますし、とにかく自分のできることを全力でやろうかなと思っています」
30歳の西に代わり招集された室屋は20歳で初選出の初瀬亮(ガンバ大阪)と競争することに。2日目の練習では北朝鮮戦に向けたレギュラー組と見られる側に入っており、いきなりアピールのチャンスが巡ってくるかもしれない。早速、右サイドハーフの小林悠などと話し合ったという室屋のメンタル面の強みはそうした積極的なコミュニケーションにも表れている様だ。
練習の中でビルドアップの関わり方を指摘された室屋。ただ高い位置に張るのではなく、センターバックの高さに近いポジションで受けて、相手のサイドハーフが食いついてきた裏に出すことなど指摘を受けたが「1つの崩し方の案だと思う。そういうのは状況によってじゃ変わるものなので。そこまで絶対これって形だとは思っていない」と語る様に、監督の指示をただ鵜呑みにするのではなく、自分の中で消化して選択肢に入れて行こうという姿勢も室屋らしい。
今回のE-1で活躍したとしても本来は酒井宏樹(マルセイユ)や酒井高徳(ハンブルガーSV)、左にも長友佑都(インテル)という海外組の常連メンバーがいることは強く意識している。それでも「そこに自分が割って入れる様に、とにかくアピールしようかなと思っています」と前向きに語る。持ち前の運動量と局面の強さを武器に、高い位置のプレッシャーから粘り強い対人守備まで発揮し、さらにクロスからチャンスを演出できれば勝利に導く活躍とともに、ロシアへの視界が前方に開けてくる。
川又堅碁、一回り成長して2年半ぶりの招集
川又堅碁は今季のJ1で4位の14得点を記録した。名古屋に所属していた15年、ハリルホジッチ監督の初采配となったチュニジア戦でA代表デビュー、ウズベキスタン戦で代表初ゴールを決めた。その年の夏には中国の武漢で行われた東アジアカップ(E-1の旧名)のメンバーに選ばれ、北朝鮮戦と中国戦に先発、韓国戦に途中出場したものの、1点も取れずに大会が終わってしまった。
ジュビロ磐田への移籍が1つ転機となり、結果を残す形で追加招集ながら約2年半ぶりの代表復帰を果たした。J1で結果を出し、代表に選ばれたのは「チームのみんなのお陰。信頼が無ければボールなんて来ませんから」と語る川又。「あの時(前回)は1勝もできていないので、今回は結果を求めたい。出られるかどうか分からないけど、チャンスがあれば仕留めたい」と意気込む。
5日の公開練習ではサブ組と見られる側の1トップに張ったが、強引なところと冷静なところを使い分ける様は確かな成長を感じさせる。杉本の離脱を見越して追加招集された形で、同ポジションの金崎夢生(鹿島アントラーズ)より現時点の序列は下かもしれないが、北朝鮮戦から中国戦まで中2日という過密日程で、FWは全選手にチャンスがあると言っても過言ではない。
「ゴールだけが生き残るアピールにつながる」と川又。もちろん言葉にしなくても、前からの守備やポストプレーなど前線でやるべき仕事は認識しているはず。しかし、そこは最低でもやるべきタスクであってアピールのポイントではないという自覚だろう。そのためにはゴール前での勝負強さを発揮する前に、いかに中盤の味方からパスを引き出すか、そのための動き出しやコミュニケーションも重要になる。
未知数。だが、はまる可能性も秘める土居聖真
鹿島の下部組織から2011年にトップ昇格し、4年目の14年から主力に定着して昨年は浦和をチャンピオンシップで破ってのJ1優勝にも貢献。クラブW杯では1得点3アシストの活躍を見せるなど確かな実力を示していたが、これまで代表から声がかかることなく、今回の追加招集でようやくチャンスが巡ってきた。
「追加ではありますけど、来たからにはしっかりと爪痕を残して帰れたら」
そう語る様に、唐突の知らせにまだロシアW杯への明確なアピールまでは思い描いていない。しかし、鹿島でのプレーをベースに攻撃のアクセントを付ける役割ができれば、東アジアのライバルを相手に勝利に導く貢献ができるというプレーイメージはすでに出来上がっている様だ。その先には当然、アシストやゴールという結果があるのだろう。
今季の鹿島では[4-4-2]の2トップ、金崎との関係から見れば[4-4-1-1]のセカンドトップで起用されることが多かった。しかし、そこで土居が見せたのはパスやミドルシュートといった攻撃センスだけでなく、中盤の空いたスペースを的確に埋めるなど、単純にハードワークとは違うピンポイントのカバーリングやプレスバックで効果をもたらせる選手でもある。そうした特性をハリルホジッチ監督が求めるハイプレスや3つの高さのブロックの中で、どう生かして貢献できるのか未知数だが興味深い部分でもある。
鹿島での基本ポジションが示す通り攻撃センスがあると言っても、清武とはタイプも異なる。ただ、隙があれば裏を狙う“ハリルジャパン”の攻撃陣には非常に有効なアクセント役としてはまる可能性もあり、大島僚太(川崎フロンターレ)などとの組み合わせはチームに新たなソリューション(回答)をもたらすかもしれない。また左サイドもこなせる選手であり、FWとMFの両方を兼ねるマルチロール枠としてアピールできれば、追加招集からのフルメンバー定着というシナリオが現実になる可能性も十分にあると考えられるのだ。
(文:河治良幸)
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