日刊鹿島アントラーズニュース
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2016年8月13日土曜日
◆1stステージ制覇からわずか46日…公式戦4連敗と苦しむ鹿島に何が起こっているのか(サッカーキング)
http://www.soccer-king.jp/news/japan/jl/20160812/478961.html?cx_cat=page1
カシマサッカースタジアムの正面玄関前に広がる関係者専用の駐車場。シャワーを浴び、身支度を整えて姿を現してきた鹿島アントラーズの選手たちを待っていたのは、男性サポーターの叫び声だった。
「ここはホームだぞ。悔しくないのか!」
10日に行われた『スルガ銀行チャンピオンシップ2016 IBARAKI』。昨年度のヤマザキナビスコカップ(現ルヴァンカップ)王者と南米サッカー連盟主催のコパ・スダメリカーナ覇者が対戦する一戦で、鹿島はインデペンディエンテ・サンタフェ(コロンビア)に0-1で苦杯をなめた。2012年、2013年に続く3度目のタイトルを逃した悔しさ。何よりも明治安田生命J1リーグ・セカンドステージを含めた公式戦で4連敗を喫した屈辱を、核心を突くかのような叫び声が増幅させる。
「すみません。明日でいいですか……」
いつもは語彙に富んだコメントを介して、終わったばかりの90分間を振り返るDF昌子源が、申し訳なさそうな表情を浮かべながら取材エリアを通り過ぎていく。
最終節にかけての怒涛の6連勝でファーストステージを制し、常勝軍団復活への狼煙を上げたのはわずか46日前。憎たらしいほどの強さを発揮していた鹿島に今、何が起こっているのか。
連敗の泥沼に入り込んだのは、ホームで浦和レッズに1-2の逆転負けを喫した7月23日のセカンドステージ第5節だった。FW土居聖真が先制しながら、わずか2分後の62分にFW李忠成に同点弾を許してしまう。利き足とは逆の右足で李のゴールをアシストしたMF柏木陽介は試合後、「最近の鹿島は点を取った後に集中力が切れるというか、失点が多かったので」という分析を話してくれた。
振り返ってみれば、ガンバ大阪とのセカンドステージ開幕戦は先制点の3分後に、サンフレッチェ広島との第2節では2点差とした5分後に、それぞれ失点を献上している。ファーストステージを勝ち取った最大の要因は、リーグ最小の10失点を誇った堅守だった。必ず守ってくれるという安心感が、リーグで3番目に多い29得点を叩き出す好循環を生み出していた。
リオデジャネイロ・オリンピック代表に選出されたDF植田直通は優勝を決めたファーストステージ最終節のアビスパ福岡戦後、喜びをかみしめながらこんな言葉を残している。
「失点が2けたにいってしまったので、そこは改善しなければいけない。セカンドステージではもっと減らしていかないと」
確固たる結果が自信を導き、さらなる高みを目指す。チームが進化していく過程で思わぬエアポケットにはまり込んでしまったのだろうか。サンタフェ戦で先発に抜擢された20歳のFW鈴木優磨は「ないとは思うんですけど」と前置きした上でこう続けた。
「ファーストステージで優勝して、一番少ない失点で終えられたという自信が、どこかで過信に変わっているんじゃないかと考えたことがあるんです」
得点した直後に失点を許すのは、技術的な部分や戦術的な部分よりも、気持ちの緩みに負う部分が多い。鹿島戦へ向けて映像をチェックしていた柏木は、王者に生じた隙を的確に見極めていたわけだ。
戦い方のリズムを狂わせた鹿島は7試合を終えたセカンドステージで、すでにファーストステージを上回る12失点を喫している。悪循環が攻撃陣にも伝播したのか、第6節サガン鳥栖戦、第7節ベガルタ仙台戦に続き、サンタフェ戦でも無得点に終わってしまった。
もちろんチャンスを作れていないわけではない。サンタフェ戦の10分にはDF山本脩斗の強烈なシュートが右ポストを叩き、85分にはクロスに対して走り込んできたMF中村充孝がPKを獲得している。だが、同点に追いつく千載一遇のチャンスは、MF金崎夢生のPKが相手GKのファインセーブで弾かれた瞬間に潰えてしまう。試合後のロッカールーム。「すぐに次の試合がくる」と気持ちの切り替えを訴えた選手会長のDF西大伍は、些細に見える部分の積み重ねに敗因を求めた。
「流れを持っていかれたわけではないけど、点を入れられる前にミスが何個か続いたし、相手は前半から前でファウルを取ろうとしていたのに、簡単にファウルしてしまったことが前半からあったので」
結果的に決勝点となった79分の失点。西の縦パスが右タッチラインを割って相手のスローインになり、ボールを奪い返した直後には山本のパスが相手にわたり、カウンターを仕掛けられた。そこで必死に追走した山本が相手を倒し、与えてしまった直接FK。直後にMF柴崎岳に代わってMF永木亮太が投入されたが、ここでマンツーマンのマークが曖昧になってしまう。MFホナタン・ゴメスが放ったキックを、一つ高い打点でFWウンベルト・オソリオ・ボテージョが叩き込む。マーク役の永木は混戦の中で間合いを離してしまい、ポテージョを自由にしてしまった。
自分たちは守れるという確信に近い思い。いつかは点を取れるという手応え。鈴木が口にした“過信”がわずかでもピッチの上にあったとすれば、細かいミスが積み重ねられた原因も説明がつく。
南米代表とはいえ、決して個の力が突出していないサンタフェがセットプレーに勝機を託し、狡猾にファウルを狙ってきた。相手の狙いを見抜けなかったのも、試合巧者を自負する鹿島とはほど遠かった。
キックオフ前。リーグ戦で3連敗を喫していた悪い流れを断ち切るために、選手たちはハードワークを誓い合っていた。鈴木とともに先発に抜てきされたFW赤崎秀平が振り返る。「交代が6枠あるので、みんな潰れる覚悟で最初からやっていた」。
選手たちを支配していたのは「勝たなきゃいけない」という悲壮な覚悟。今大会への出場権を獲得した昨年のヤマザキナビスコカップで、実に3シーズンぶりとなるタイトルを獲得した。空白期間が生じていた常勝軍団復活への手応えは、今シーズンのファーストステージ制覇で確信に変わりつつあった。だからこそ、負け続けている現実は受け入れ難い。黒星を重ねるごとに増幅された、伝統を背負わなきゃいけないという気持ちが、逆に作用したと西は指摘する。
「勝たなきゃいけないと思って戦うと、やっぱり根本的なところでパワーが出ないから。勝ちたいと思うのか、試合に出たいという気持ちがみんなにあるのか。やっぱりずっと同じメンバーでやっていると、飽きてくるというか。そういうモチベーションというか、気持ちも大事かなと思います」
西が口にした「勝たなきゃいけない」と「勝ちたい」は、それぞれ「プレッシャー」と「執念」をバックボーンとする点で、似て異なる思いだと言っていい。そして「勝ちたい」という思いは鹿島の土台を築いた“神様”ジーコが、Jリーグがスタートするまで日本リーグ2部を長く戦っていた前身の住友金属蹴球団に真っ先に伝えたメッセージでもあった。
たとえウォーミングアップを兼ねたミニゲームでも、ジーコは負ければ顔を真っ赤にして「もう一回だ」とまくし立てた。他のJクラブの追随を許さない通算17個ものタイトルを鹿島にもたらしたのは、「敗北」の二文字を心の底から拒絶する究極の負けず嫌い魂。創成期から秋田豊、本田泰人らのレジェンドを介し、キャプテンを務める37歳のMF小笠原満男を今現在の体現者として伝えられてきた“ジーコスピリット”。若い世代が育ち、再び歴史を紡ぎ始めた新生・鹿島で、ほんのわずかだがボタンの掛け違いが生じているのかもしれない。
「勝たなきゃという思いが強すぎるというか、同じベクトルを向いていないというか。全員が同じベクトルを向いていないと、やっぱり勝てない。今日もやりづらさは感じなかったし、セカンドボールを拾うのも早かった。負けたのに言い方は悪いかもしれないけど、悲観する内容ではなかったと思う。でも、本当に小さなところでやられるのが勝負。そういう点で、今は波に乗れていないと感じています」
鈴木の言葉は、チーム内に「勝たなきゃいけない」と「勝ちたい」という2つの異なる思いが混在し、その結果としてほんのわずかながらベクトルに狂いが生じていることを物語る。そして鈴木の身体にはサンタフェが鹿島を上回った部分、つまり「勝ちたい」という執念が刻まれていた。シャツをめくり上げると、右の脇腹には生々しい傷跡が残っていた。
「相手のセンターバックなんかは、それこそユニフォームごと肌を引きちぎるってきた。それも思い切り。それで俺や(赤崎)秀平くんが怒って手を出せばファウルを取られて、下手をするとレッドカードをもらっちゃうかもしれない。そういう駆け引きが、日本での戦いとは全然違った。何が何でも優勝してやるという強い気持ちも見えたし、そこが俺たちとの差だったのかなと思う」
もちろん褒められる行為ではない。それでも、サンタフェの選手たちが抱く勝利への執念にも似た思いが、鈴木の脇腹に形となって表れていた。そしてこの傷跡こそが鹿島が連敗街道を抜け出し、再び強さを身にまとうための最大のヒントになる。それが“原点回帰”。名門ゆえに「勝たなきゃいけない」という十字架を背負うのではなく、ただひたすらに、がむしゃらに「勝ちたい」という気持ちを前面に押し出す。
「(ファーストステージの)良かった時に戻すというよりは、まずは勝てない場合の戦い方をしなければ。戻ることは成長ではないから。さらに良くなっていけるように、それぞれがアクションを起こせばいい。もちろんそうしたからいい方向に行くとは限らないですけど、それでも起こすことが大事。難しいですけど、チームというのはちょっとのことで変わるので」
こう話した西は悪い流れを好転させるべく、仙台戦では志願して左腕にキャプテンマークを巻いた。サンタフェ戦では前半からポジショニングに関して昌子と言い合いを展開。ハーフタイムにはお互いに身ぶり手ぶりで言葉を交わしながら、ロッカールームへと引き上げていった。石井正忠監督もセカンドステージ第2節の広島戦から植田をリザーブに回すなど、メンタル面でのテコ入れに着手している。鈴木、赤崎とリーグ戦ではベンチスタートが多い若手をサンタフェ戦で先発させたのも、出場機会に飢えた彼らの姿勢を起爆剤にしたかったはずだ。
そのチャンスを生かせず、70分に新外国籍FWファブリシオとの交代でベンチに下がった鈴木は「まだまだ自分には実力がないと感じた」と反省しながらも、今がチームとして「どん底にいる」と努めて気持ちを切り替えた。
「強いチームというのは、絶対に早く修正できる。何が悪かったのかを反省して、次に向かっていくしかない。見ていてもちょっとずつ修正できているんですけど、その速度をもっと上げていかないと勝てない。今はチームとしても自分としても、(現実と)向き合うためのいい時期だと前向きに捉えて、早く軌道に乗れるように全員で頑張っていきたい」
息つく間もなく、14日には中3日で敵地に乗り込んでアビスパ福岡とのリーグ戦を戦う。年末の明治安田生命Jリーグチャンピオンシップには、すでにファーストステージ制覇で出場を決めている。今の悔しさを糧にして、さらに成長した姿を披露して年間王者を獲得するためのカギは、いつもキックオフ前にゴール裏に登場する巨大な横断幕に描かれている。
『SPIRIT OF ZICO』
長らく受け継がれてきた究極の“負けず嫌い魂”を、いかにピッチの上で体現するか。チャンピオンシップへとつながるセカンドステージは残り10試合。ちょっとしたエアポケットに陥り、停滞を余儀なくされた鹿島の真価が問われようとしている。
文=藤江直人
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