新型コロナウイルスの影響で、Jリーグやルヴァンカップなどの公式戦が中断されて、およそ5週間が経過する。なかなか収束のめどが立たず、“日常”を取り戻すにはもうしばらく時間がかかりそうだ。
新監督にアントニオ・カルロス・ザーゴを迎え入れ、新たな戦術の導入を図っている鹿島アントラーズは、攻守における連動性を高めるべく、この時期にトレーニングマッチを積極的にこなした。
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するためにファンやサポーター、そしてメディアにも完全非公開。クラブの公式サイトを通じて選手たちのコメントが発信されているが、チーム作りの進捗状況を知る手がかりは少なかった。
そんななか、3月21日にカシマスタジアムで行われた札幌とのトレーニングマッチがDAZNで配信された。新生・鹿島の輪郭に触れるよい機会となった。
試合は45分×2本(その後、35分×2本)。公式戦さながらの激しいマッチアップがあちこちで繰り広げられた。無観客ということもあり、選手たちのエキサイトした声がスタジアム中によく響き渡っていた。
チーム始動から約2か月半。ザーゴ監督が打ち出す新戦術は浸透しつつある。だが、完成度はまだまだ。プレーの良し悪しの揺れ幅が大きく、チームとしての安定感に欠ける面は否めない。「理想には程遠い」と、指揮官も口にしている。
ザーゴ監督が掲げる理想とは何か。1月23日の新体制会見の席上で、こう所信表明していた。
「ボールをつないで、相手に何もさせない。ボールを奪われたら、すぐさまプレッシャーをかけて取り戻す。試合の主導権を握り、攻撃的で、華麗なサッカーをピッチ上で表現したい」
ボールを握ることを“是”とするザーゴスタイルの生命線はビルドアップとトランジションにあるだろう。少々乱暴な言い方だが、この2点の質が上がっていけば、チームの骨子はほぼ完成だ。
当面の課題はビルドアップにある。
両SBのスタートポジションを高く設定し、2ボランチのひとりが最終ラインに下がり、両CBとともに3バックのような形を作るわけだが、GKを含めてのボールの動かし方に改善の余地が見受けられる。
鹿島は伝統的に4バックベースで戦ってきた。どちらかのSBが高い位置を取ったら、もう一方のSBは最終ラインに入り、なかに絞る。いわゆる“つるべの動き”を基調にしてきたので、現在トライしているビルドアップの手法とは明らかに異なる。
それぞれの選手の立ち位置や距離感、動き方の違いに伴うパスルートの変化はお互いにイメージできても、いざ、それをピッチ上で表現するとなると一朝一夕にはいかないだろう。
「ビルドアップの指導はいちばん難しい。お互いのタイミングや意思疎通を図るために時間が必要だ」
1月28日、ザーゴ新体制の初陣となったACLプレーオフの試合後、こう語っていたのが思い出される。
ディフェンス陣の顔ぶれがガラリと変わり、その点もビルドアップの熟成に時間がかかっている理由だろう。右SBの広瀬陸斗、左SBの永戸勝也、杉岡大暉、CBの奈良竜樹の4選手が新加入。ここにきてプロ2年目のCB関川郁万が台頭し始めるなど、既存の戦力をふくめ、4バックの定位置争いは混沌としている。
後方からのビルドアップを重視するぶん、そこに落とし穴もある。
自陣に下がったボランチのところでボールを奪われると、その後ろはCBの2枚だけといった状況が想定され、一気にピンチになりやすい。Jリーグ開幕戦の広島戦では、そこを二度も突かれてしまった。
ハイプレス対策は不可欠だが、ベテランボランチの永木亮太はこう語っている。
「もっとオートマチックにボールを動かせるようになれば、相手にとってつかまえにくいポゼッションができると思うけど、追求するスタイルを貫こうとして失点が増えてしまったら元も子もない。割り切るところは割り切る。無理をしないで、大きく蹴っておく。そういう判断も大事になってくる」
ザーゴスタイルのピッチへの落とし込みは着実に進んでいるが、まだ初期段階に過ぎない。トライ&エラーを繰り返しながら、チームとしての最適解を見つけ出すための作業が今後も続く。
取材・文●小室功(オフィスプリマベーラ)