【識者コラム】目立つ古巣への「出戻り移籍」、注目すべき8選手をピックアップ
Jリーグの各クラブは2023年の新シーズンに向けて続々と始動している。目立っているのが古巣への「出戻り移籍」だ。プロデビューしたクラブに復帰する選手もいれば、期限付き移籍から武者修行を終えてレンタルバックする選手、かつて飛躍のきっかけを掴んだクラブでリスタートする選手もいる。そんななかから特に注目したい8選手をピックアップし、活躍の可能性をまとめる。
■柿谷曜一朗(FW/J2徳島ヴォルティス←J1名古屋グランパス)
かつてセレッソ大阪から期限付き移籍で加入し、2シーズン半を過ごした思い出の地に英雄は帰ってきた。アンダー世代から注目されたテクニシャンも、徳島での成長がなければ、その後のセレッソでの活躍や日本代表での定着もなかっただろう。昨シーズンは名古屋で無得点に終わったが、チームの中心としてボールが集まる状況ができれば、チャンスメイクやフィニッシュで錆び付いていないスペシャリティーを発揮できるはず。背番号は当時の13ではなく、セレッソや名古屋で長く背負ってきた8番となる。ピッチ上はもちろん、阿波踊りでの活躍も大きな注目を集めそうだ。
■宮代大聖(FW/J1川崎フロンターレ←J1サガン鳥栖)
アカデミー最高傑作とも言われた“川崎の大砲”は徳島ヴォルティス、鳥栖で経験を積み上げて、3シーズンぶりの復帰を果たした。2019年にはJ2レノファ山口FCにも期限付き移籍したが、翌年の川崎ではハイレベルなポジション争いに勝てず、1得点にとどまった。その頃から比べれば心身ともに逞しく成長した印象が強い。プレーはもちろん、メディア対応における言動も力強くなった。U-17代表時代に一緒だったMF久保建英(レアル・ソシエダ)など、同世代の多くが欧州に挑戦する流れにあっても、地に足を付けて、育ったクラブでエースの座を掴みに行く。シュート技術は川崎でもスペシャルなだけに、そのシチュエーションをいかに呼び込むか。強烈なパーソナリティーもブレイクの鍵になる。
新潟&京都での武者修行を経た荻原は浦和へ帰還
■昌子 源(DF/J1鹿島アントラーズ←J1ガンバ大阪)
Jリーグ、天皇杯、ルヴァン杯(旧ナビスコ杯)、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)というすべてのメジャータイトルを獲得し、2度のクラブ・ワールドカップ(W杯)を経験。2018年にはロシアW杯でセンターバックのレギュラーとしてベスト16に貢献した。フランスのトゥールーズで負傷した足首の負傷に悩まされ、国内復帰となったG大阪でも本来の姿を取り戻したとは言い難い。それでもリーダーシップと統率力を発揮して、昨年はJ2降格の危機に瀕したチームのJ1残留を支えた。かつての鹿島でバックラインを組んだDF植田直通も欧州から戻る形で、賛否両論はある。しかし、岩政大樹監督も鹿島のスピリットを知る昌子の影響力に期待を寄せ、元に戻るのではなく、一緒に新しい鹿島を作っていく同志として見ている。
■荻原拓也(DF/J1浦和レッズ←J1京都サンガF.C.)
アルビレックス新潟と京都で、2年半の武者修行を経て、ジュニアユースから過ごした浦和へ帰ってきた。もともと左サイドでボールを持って前を向けば、非凡な突破力を発揮していた。現・FC東京のアルベル・プッチ・オルトネダ監督が率いていた新潟ではビルドアップを学び、曺貴裁監督が率いる京都ではJ1昇格を支えながら、2年間で攻守両面のハードワークに磨きをかけた。浦和を離れた当初は悔しい気持ちに満ち溢れていたというが、さらに“浦和愛”が強くなったという気鋭のレフトバックは武者修行先で得た経験を生かし、試合に出て活躍するだけでなく、結果に責任を持てる存在になることを誓っている。
■鈴木海音(DF/J2ジュビロ磐田←J2栃木SC)
パリ五輪世代の主力として期待が懸かるセンターバックは栃木で大きく成長した。持ち前の対人能力に加えてカバーリング、さらに課題だったビルドアップで受け身にならず、自分からボールを呼び込んで、チャンスの起点になる意識が強まった。パリ五輪に向けた代表レベルでの競争を考えれば、J1にこだわる選択もあったかもしれない。しかし、ジュニアユースから育った地元クラブで本当の中心選手になり、J1昇格に導く活躍を見せた先に、その道もつながっていると確信しているだろう。森保ジャパンのコーチとしてカタール・ワールドカップのベスト16を支えた横内展昭監督のもとで“磐田発パリ行き”を果たせるか。
■藤尾翔太(FW/J1セレッソ大阪←J2徳島ヴォルティス)
正真正銘のストライカーが、アカデミーから昇格したセレッソに帰ってきた。2021年の夏に移籍した水戸ホーリーホックで8得点、昨シーズンは徳島で10得点をマーク。J2ながら1年半で18得点を叩き出している。しかも水戸と徳島ではサッカーのスタイルが全く異なり、いかなる戦術、組み合わせにもフィットできる柔軟性と落ち着きが大きな武器になっている。端正なルックスにサラサラヘア、笑顔やしぐさから「皇子」の愛称で知られるが、ピッチでは力強く、アクロバティックだ。ボックス内で好パスを受けさえすれば、浮き球でもグラウンダーでも、鮮やかにゴールネットを揺らす。満を辞して臨むJ1での活躍次第で、パリ五輪でのエース座も見えてくる。
左利きの頼れるファイター、古巣の松本帰還で躍動なるか
■ク・ソンユン(GK/J1北海道コンサドーレ札幌←金泉尚武)
母国で兵役義務を果たすため2020年のシーズン途中、コロナ禍で日本を離れた。つまり2年半ぶりのJリーグとなる。昨年10月の時点で札幌復帰が発表されていたが、すでに登録期間を過ぎていた事情で、新シーズンが事実上の帰還となる。195センチのサイズと長いリーチ、卓越した身体能力を生かすセービングやハイボールの処理は圧巻。およそ5シーズンに渡り正GKを担った実績はあるが、改めてベテランGK菅野孝憲らとの競争に打ち勝って、再び札幌のゴールマウスを守ることになるか。まだ28歳。2019年までは韓国代表にも選ばれており、チームを躍進に導ければ代表復帰の道も開けてくるはずだ。
■喜山康平(J3松本山雅FC←J2ファジアーノ岡山)
J3で2年目となる松本に頼れる左利きのファイターが帰ってきた。反町康治体制の1年目だった2012年から5シーズン松本に在籍し、初めてのJ1昇格を中盤から支えた喜山は“ヴェルディ育ち”ならではのテクニックとバイタリティーを兼ね備え、人一倍のハードワークで中盤にエネルギーを注入する。松本と岡山の両チームで一緒だったMFパウリーニョとのコンビも楽しみだが、何より松本に足りなかったスピリットをもたらす存在として、期待が懸かる。MFとしてのイメージが定着しているが、必要ならセンターバックからウイングバックまでこなすスーパーマルチでもある。霜田正浩監督の下で、どのような働きを見せるのか。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
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