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「総じて成長できた部分は多いんじゃないですかね。試合ごとに成長していく若手の姿を僕だけじゃなく、みなさんも見ていたでしょうし、これを大きな財産にしないといけない。彼ら(U-22世代)は僕らの世代に食ってかかっていくべきですし、そういった競争力を生むことが選手層の厚さにもつながる。23人の誰が出ても同じパフォーマンスを出せる選手が揃わなければ勝つことは不可能だと思います」
キャプテンとして若いチームを力強く統率した柴崎岳は、大会参加の収穫をこう語った。
20年ぶりにコパ・アメリカ参戦した日本代表は、グループステージ敗退という結果に終わった。それでも、柴崎が言うように、東京五輪世代を中心とした日本は試合をこなすごとに自信を深め、内容面でも改善が見られた。だからこそ、グループステージ最終節のエクアドル戦に勝利して、決勝トーナメント1回戦でブラジルに挑みたかったのだが…。
森保一監督率いる日本代表が発足して約1年。3度のワールドカップでキャプテンを務めた長谷部誠が代表を去り、吉田麻也が大役を引き継いだ。が、1月のアジアカップ以降は吉田が代表に参加しておらず、柴崎が数試合でキャプテンマークを巻いた。
「いつの間にかそういった立ち位置にさせられてる感じもありますけど、監督からそういった信頼や責任を任されている部分も感じますし、今回も若い世代がこの舞台でバチバチやれるようにコーディネートする役割もありました」と本人も自覚を明かした。
実際、コパ・アメリカ開催中は練習で先頭を走り、若手に声をかけ、サポートしようという献身的姿勢を随所に垣間見せていた。
以前はメディアに自身の考えを話すことはあまり好まなかったが、現在は発言回数も多くなり、川島永嗣も「岳はもともとそんな多く喋るタイプじゃないのに、うまく周りと会話を作ったりして、今までとは違うなと思いました」とその変貌ぶりを口にしていた。
さらに、指揮官との意思疎通も重視した。サブ組中心のトレーニング時には、森保監督と話し合う姿が連日のように見られた。時には20分以上に及ぶこともあった。彼は「森保サッカーの具現者」であろうという意識を強く抱いてブラジルで戦っていたのだ。
「監督とは意見交換してます。ピッチ内で感じ取れることと監督が感じることはまたちょっと違うでしょうし、そのすり合わせはできていると思います。それをピッチに立って表現するのは僕らの仕事ですから」
そんな柴崎に対し、森保監督は「たくさん話をしましたけど、岳の方がサッカーを知っているので、私が意見を聞きながらという感じでした」と笑ったが、絶対的な信頼を寄せているのは明らかだ。森保監督自身がボランチだったこともあり、柴崎の能力の高さを誰よりも理解しているのは間違いない。こうして指揮官と柴崎の間に“強固な絆”は生まれ、中堅世代のリーダーが誕生した。それが今回のコパ・アメリカにおける大きな成果だったと見ていいのではないだろうか。
9月からは2022年カタール・ワールドカップアジア2次予選が始まる。7月17日に行われる組み合わせ抽選会の結果次第では、本田圭佑が監督を務めるカンボジアや吉田達磨監督率いるシンガポール、西野朗監督が就任したタイなどとも同組になる可能性がある。
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が指揮していた前回の2次予選では、ホームの初戦でいきなりシンガポールに引き分けるという苦しいスタートを強いられており、今回も苦戦を強いられるかもしれない。
苦境に立たされたとき、チームを統率し、けん引する確固たるリーダーの存在が必要不可欠だ。W杯予選では、吉田や長友佑都といったベテランたちもピッチに立つだろうが、久保建英や三好康児、板倉滉ら今回台頭した東京五輪世代もチームに加わると見られる。両者をつなぎ、さらなる“融合”を成し遂げるには、ロシアW杯、アジアカップ、コパ・アメリカで真剣勝負を繰り返し、さまざまな世代の特徴やキャラクターを分かり合ってきた柴崎の役割がより重要になってくる。
その大役を果たすためにも、新シーズンは所属クラブでコンスタントに試合に出て、いいコンディションを保ち続けることが肝要だ。2018-19シーズンは、リーグ戦出場はわずか7試合にとどまり、コンディションやモチベーションを保ち続けるのに苦慮した。ヘタフェとの契約はまだ2年残っているものの、残留したとしても昨季のような扱いを受ける可能性もある。コパ・アメリカで質の高いパフォーマンスを疲労し、柴崎に対する欧州クラブの関心度は高まっているはず。その流れで理想的な新天地を見出すことができれば、彼のキャリアはより充実したものになるだろう。
これまでの日本代表には、歴代最多キャップ数(152試合)を誇る遠藤保仁と長谷部誠という絶対的ボランチがいた。偉大な先人たちを超え、日本サッカー界にさらなる成功をもたらすためにも、今後の柴崎がどのような軌跡を辿るのかが大事になる。その動向を慎重に見守っていきたいものだ。
文=元川悦子
◆日本代表、さらなる“融合”へ…柴崎岳「ピッチで表現するのは僕らの仕事」(サッカーキング)