[大学サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[12.18 全日本大学選手権2回戦 流通経済大1-0愛知学院大 西が丘]
キャプテンマークがよく似合う男だ。研ぎ澄まされた集中力、ボールを持ってからの的確で遂行力の高いプレー、強烈なリーダーシップ。ピッチに立てば、味方も相手も観衆も目を奪われる。流通経済大のMF椎名伸志(4年=青森山田高)は、カリスマ性を備えたプレーメーカーだ。全日本大学選手権の初戦、愛知学院大を相手に苦しむチームを、カリスマの左足が救った。互角の展開で迎えた後半3分、相手GKのクリアミスを相手と競り合いながら物にした椎名はわずかにドリブルで前進してコースを見つけると、ゴール右へ的確にシュートをたたき込んだ。ゴールの後ろには大応援団。歓声を送る仲間たちに近付き、喜びを分かち合った。
試合は、1-0で流経大が逃げ切った。貴重な貴重な1点だった。しかし、椎名のコメントは、あくまでもチームリーダーとしてのそれだった。「ゴールを決めたことは素直に嬉しいけど、誰が決めてもチームの得点としての喜びに変わりはない。それよりも足を攣って(後半30分に)交代してしまったことが、すごく情けない」と淡々と振り返った。しかし、大事な初戦だからこそ、自分が決めてやるという気持ちは密かに持っていた。宿泊先で同部屋のMF中山雄登は「椎名が絶対に点を取るって言っていたので、僕も取るって言ったんですけど、そこは負けました。椎名が戻って来た効果? 大きいですね」と笑いながら、試合前のチームリーダーが見せた一面を明かした。中山の話を告げられ、椎名はようやく「一番大事なゴール、先制点を自分が決めたいと話していたので、有言実行できて良かった。キレイに崩して取った点ではないけど、あそこにこぼれてくると信じて前へ、前へと走った結果がゴールにつながったので、狙い通りだった」と個人的な喜びを口にした。
椎名は、これまで負傷という大敵との戦いを余儀なくされてきた。大学入学前には左足前十字じん帯を断裂。それでも奇跡的な回復を見せて高校選手権では準優勝に貢献した。高いポテンシャルと何かにとりつかれたようにサッカーにまい進する姿から、大学サッカー界での活躍は間違いないもののように思われた。実際にタレントを多く抱える流経大でも下級生のうちに主力へと成長してみせた。しかし、再び左ヒザを負傷。長い戦列離脱を強いられた。今季、リーグ戦後期にようやく復帰。大学サッカー最後の大舞台に向け、少しずつ調子を取り戻してきた。中野雄二監督は「リーグの後期から使い始めたけど、1〜2か月は本来の姿ではなかった。ただ、ここに来て椎名の味を出せるようになってきた。前後左右にボールを追いかけて、奪ってからのオフェンス面で展開力があるし、今日のようにシュートをよく決める。彼の運動量、仕事量は、ほかの選手に『自分もやらなくてはいけない』と思わせるようなことを体で示せるところがある」と称賛を惜しまなかった。
足を攣ったことが情けないと椎名は言うが「次の試合を考えずに、この一戦にすべてを出そうと思った」という言葉に偽りのない証拠でもあった。会場には多くのプロクラブ関係者が来場し、椎名の復活劇に視線を注いでいる。すでにオファーも届いているようだが、活躍次第では別のクラブから声がかかる可能性もあるだろう。個人としての大きな目標であるプロ入りは間近だ。しかし、それでもなお椎名は「進路は決まっていないけど、進路どうこうではなくて、この大会に集中したい。ただ、次の試合に勝つことだけを考えたい」と自身の話に蓋をした。
戦える喜びを感じているからこそ、一戦必勝で全力を注ぎ込む。その姿勢には周囲への感謝の気持ちが含まれている。流経大のカリスマは「大学生活は(ケガで)苦しむことが多かったと感じている。その中で最後の大会に出場できたのは、自分の力というよりも仲間が総理大臣杯を勝ってくれたからだと思っている。周りに感謝をしながら、フィールドに立ったときにキャプテンマークを巻かせてもらっている自覚を持ってチームを引っ張っていきたい」と力強く語った。彼以上に頼もしい旗頭は、そういないだろう。
(取材・文 平野貴也)