日刊鹿島アントラーズニュース

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2016年3月12日土曜日

◆小笠原満男の大志「被災地から多くのJリーガーを生み出したい」(Sportiva)




http://sportiva.shueisha.co.jp/clm/jfootball/2016/03/11/post_1096/

佐野美樹●文・撮影 text&photo by Sano Miki

 サッカーを通して被災地への支援活動を行なっている『東北人魂()』。年明け恒例となった東北地方でのチャリティーイベント開催は、今年で5年目を迎えた。同イベントは毎年、新たな被災地でも開催されており、今年は福島県南相馬市で初めて行なわれた。その地が新たに選ばれた理由は明快だった。鹿島アントラーズの小笠原満男が語る。

※鹿島アントラーズの小笠原満男、遠藤康、柴崎岳、ガンバ大阪の今野泰幸ら、東北六県出身の現役Jリーガー有志が設立した団体。東北地方のサッカー発展のため、東北サッカー協会及び東北各県のサッカー協会の活動へ寄与することを目的とし、各選手の所属クラブ、日本サッカー協会及びJリーグと連携しながら活動している。主な活動内容は、被災地の子どもたちのJリーグ公式戦への招待、東北地方でのサッカーイベントや大会の開催、チャリティーオークションの開催など。

「福島県は、津波だけでなく、原発事故によって多大な被害を受けました。ただ、放射能汚染の影響もあってか、プロサッカー選手とか、著名人とかが現地に訪れて、サッカースクールなどのイベントが開催されることがなかなかない、という話を聞いたんです。そういう場所だからこそ、逆に『行きたいな』と思ったんです」

 被災地でのイベントなどを取り仕切る関係者によれば、支援活動を行なっている著名人でも、放射能汚染による健康被害を懸念してか、福島県、とりわけ南相馬市に降り立つことは少ないのだという。「じゃあ、僕らが行きます」と、小笠原は即答したそうだ。

 南相馬市には、仙台から車で向かった。福島県に入ると、普通の道路では見かけることのない標識がところどころに現れ始める。それは、放射線量を表示する掲示板だった。のどかな山間部に突如現れるその標識を目にすると、放射線量の数値が問題ないレベルであったとしても、一瞬身構えてしまう自分がいた。

 市街地に入ると、原発事故による避難区域特有の進入禁止バリケードが、いたるところに張り巡らされていた。東日本大震災から5年経った今も、被害を受けた当時のまま、いまだ手つかずの状態で残っている風景が続く。それを目の当たりにして、胸が苦しくならない人はいないだろう。

 そんな景色を通り抜けてしばらくすると、チャリティーイベントの会場となる南相馬市スポーツセンターが見えてきた。玄関前には、元気いっぱいの子どもたちが『東北人魂』の面々を待ち構えていた。子どもたちの笑顔の出迎えを受けて、「心なしか癒され、ホッとした」と、小笠原は言う。

「(子どもたちは)元気は元気なんだけど、基本的には僕らと同じ東北人だから、やっぱり人見知りで、おとなしいんですよね(笑)。でも、『(プロのサッカー選手と)みんなでサッカーができる!』っていう、うれしい気持ちが隠せないのか、興味津々な表情を浮かべていて、それが印象的で、かわいかったですね」

 実際、参加した子どもたちの誰もが目を輝かせて、存分にサッカーを楽しんでいた。小学生を対象にしたイベントながら、手伝いで来ていた中・高校生までもが我慢できずに参加。Jリーガーたちとの試合では、ずっと一緒にプレーしたいという思いが膨らんで、なかなか他の選手と交代しようとせず、周囲の大人たちが苦笑する場面も見受けられた。

 子どもたちにとって、現役のJリーガーと間近で触れ合えるということは、それほど得がたく、貴重な体験なのだ。きっと今回の経験は、参加した多くの子どもたちにとって、大切な思い出となり、大きな財産となるに違いない。

南相馬市のイベントで地元の子どもたちとサッカーを楽しむ小笠原満男

 イベントを終えて、小笠原はこう語った。

「今回の(南相馬市での)イベントに来てくれた子どもたちの中にも、身寄りがいなかったり、いまだ仮設住宅から学校に通っていたりする子がいる。それについては、どうしてあげることもできないけれど、僕らとサッカーをすることで、なんかこう……前に進むっていうか、がんばろうって思ってもらえる力になれたら、うれしいなぁとは思います」

 だからこそ、小笠原をはじめ『東北人魂』のメンバーは皆、試合では子ども相手にも手加減せず、大人気ないと思われながらも全力で対峙する。それが、彼らのこだわりでもある。

「まだまだ厳しい環境下にあるかもしれないけど、ほんと、僕らに続くJリーガー、東北出身のJリーガーが出てきてほしいんですよ。だから、こういうイベントであっても、『プロ相手でもやっつけてやるぜ!』っていう気概や根性を持った子が出てきてほしい。そのためにも、僕らが小さい子どもたちとも真剣に向き合って、少しずつ彼らの意識を変えていってあげられればいいし、『あんな選手になりたい』って思ってもらえるようなきっかけに、この活動がなればいいなって思うんです」(小笠原)

『東北人魂』の活動は今年で5年目を迎え、方向性は固まりつつある。これまでの活動を振り返りつつ、未来に向けて、小笠原が言葉をつないだ。

「『東北人魂』として活動し始めたものの、最初は手探り状態で、何をするのがいいのか、どういうふうに進んでいけばいいのかっていう疑問や悩みがありました。でも、活動の数を重ねて、みんなの話も聞いていくと、『復興の力になりたい』っていうところから始まって、ただせっかくやるんだったら、この活動を通して触れ合った子どもたちがJリーガーを目指してほしい、という思いになってきたんです。だから今は、僕らが活動することによって、東北全体のレベルアップにつながってほしいな、と思っています。その結果、東北のサッカー界がもっともっと強くなって、そこからいろいろな(プロの)選手が出てきてくれたらうれしいし、それが、僕らの恩返しだと思っています。

 また、今回南相馬市に訪れた際には、福島にスタジアムを作りたいって話を聞いたんですが、喜んで署名させてもらいました。そういうところでも力になっていきたいと思っています。福島にスタジアムができたら、そこでまた、試合をしたいですし。選手としては、そういうのをモチベーションにして、まだまだがんばって、長く(現役を)続けていきたいですね」

 震災から丸5年。まもなく被災地にも6度目の春が訪れる。小笠原をはじめ『東北人魂』のメンバーと触れ合った子どもたちの中から、Jリーガーが誕生する日も、やがてやってくるだろう。

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