大学サッカー界に常に一石を投じる存在。それこそが流通経済大だ。中野雄二監督の就任から今年が20年目。歴史ある名門大学と肩を並べ、ピッチ内外問わず挑戦を続ける。「生きていくというのはどういうことか、スポーツを、サッカーを通じて学んでほしい」と語る指揮官の下、流通経済大の“メソッド”は創られている。
全国から実力者たちが集まる流通経済大だが、中野監督は「ここはプロの養成所ではない」と学生たちに繰り返し話している。この20年で90名以上のプロ選手を輩出しているが、「人として成長するから、サッカーの素質が自ずと開花するだけ」と言う。「生きていくというのがどういうことかをスポーツを通じて学ばせないといけない。サッカー部という組織のなかで、自身の立ち位置や責任、自分の役割を感じさせるのがスポーツの意味」。サッカー選手を育てるというよりも、全寮制のなかで200名超の部員一人ひとりと真摯に向き合い、人としてあるべき姿を指南している。
日々の練習では、様々な仕掛けを持って選手たちに“化学反応”を起こす。大平正軌コーチが「普段の練習のなかでも刺激や思考の変化というのは大事」と説明するとおり、現在では元日本代表DFの秋田豊氏が“特別コーチ”として月に一度ほど指導を行っている。
「俺なんかは能力がなかった選手で、ただ下手で、何もなく、強みはヘディングだけだった。足は遅いし、キックやパスの精度も悪いし、ポゼッションもできない。でも、そんな選手が日本代表に入って、W杯に出たんだよ? ということは自分次第で変われるということ」
「何かを教わったならば、あとは自分たち次第。それは何においてもそう。自分が知ったことや言われたこと、見たこと、感じたことを自分に取り入れて、いかにして変わっていこうと日々トレーニングするか」。そう話す秋田氏の指導は、サッカー選手としてだけでなく、人としてどうあるべきかを学ぶ機会にもなっているようだ。
秋田氏によるトレーニングは、ヘディングの“基準作り”から始まった。「ほとんどの選手が『ヘディングの練習かよ』と思ったはず。それが当たり前。頭に当てるのはすごく嫌なことだし、顔の近くで怖いし、痛い。でも、結果が出てくることによって、ヘディングへの意識は変わってくる。そこを変えるところまでいきたい」と、その意図を説明する。
「空中のボールはどちらのボールでもない。そのボールを自分たちのものにできれば、攻撃の起点になる。そう考えれば、すごく大きな意味を持ってくる。そのためには各々がヘディングの“基準”を持つことが大事。何がいいヘディングなのか。適当に当ててでも勝てばいいのか。自分の最高打点でパスになっているのか。攻撃の起点になっているのか。基準が低ければ、そこまでしかいかない。上を目指さない限り、偶然そんな高いところまではいけない。何が理想なのか、基準をしっかりと持たないといけない」
基準作りのなかで秋田氏が掲げる理想のフォームは「しっかりと体幹を使いながら体を弓矢のように反り、なおかつパワーが伝わりやすいように、まっすぐになった瞬間にインパクトする」もの。ボールを叩く箇所についても、鼻に当たるのが怖いために上で叩いてしまう選手が多いが、しっかりと「眉間」で叩くように指導した。FWジャーメイン良(3年=流通経済大柏高)は「自分が思っていたよりも、ヘディングの当てるポイントがもっと下でいいと言われたのは驚きでした」と振り返る。
ヘディングの基準作りを行ったあとは、クロスに対する入り方。いかにDFをはがすかを繰り返した。深い位置までつり出した相手DFがキッカーを目視した瞬間に逆を取り、ゴール前へ走り込む。「DFの嫌なところはどこなのかを伝えて、どのタイミングがDFを外しやすいか伝えたかった」と言う秋田氏は「DFはFWとボールを常に認識したい。それをなくさせるのが予備動作。そこが甘いとDFは外せない」と説いた。
— ゲキサカ (@gekisaka) 2017年3月24日
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