9日の明治安田生命J1リーグ第21節ヴィッセル神戸戦を2-1で逆転勝ちし、セレッソ大阪を上回ってJ1首位に返り咲いた鹿島アントラーズ。中3日で挑む13日の敵地・川崎フロンターレ戦も連勝し、ガッチリとトップの座を固めたいところだった。夏場の過密日程ではあったが、大岩剛監督は土居聖真と遠藤康を入れ替えた以外、同じメンバーで手堅く試合に入った。
ところが、この日の彼らはゼロトップとも言える川崎の流動的な攻めに苦しんだ。序盤からボールを回され、一方的に押し込まれる展開が続く。「川崎とやる時はいつもこんな感じ。予測通り」と守備の要・昌子源は努めて冷静になろうとしていたが、川崎のベテラン・中村憲剛の方は「今までやってきた相手より中盤の穴が大きかった。ボールがボンボン入るし、前も向けるし、それに戸惑ったところはあった」と驚きを覚えたという。
高温多湿のコンディションの中、守勢に回り続けていたら、体力消耗は避けられない。その悪循環が前半ロスタイムの1失点目につながる。家長昭博のラストパスを阿部浩之がスルーし、大島僚太がファーから飛び込んだのを止めようとした西大伍が自らのゴールに蹴り込んでしまうという不運な失点が生まれてしまったのだ。
「あそこで0-0で終わっていたら違う後半になっていた。本当にもったいなかった」と昌子は悔しさをむき出しにした。
悪い流れを断ち切るべく、大岩監督は前半終了間際から3バック移行の姿勢を示しつつあったが、後半からは完全に3バックを採用。「鹿島が伝統の4(バック)を捨てるとは思わなかった」と中村にも衝撃を与える奇策で立て直しを図ろうとした。が、それが逆に混乱を招き、後半開始1分の46分に阿部に早々と2点目を奪われる。その後、しばらくは落ち着いたかと思われたが、72分にはカウンターから家長に3点目を献上。5月19日のホームゲームに続く川崎戦3失点を喫する羽目になった。終盤に鈴木優磨が1点を返したものの、大岩監督体制初黒星。何とか首位だけは守ったものの、常勝軍団とは思えない守備の脆さを露呈することになった。
「奪われ方が悪くて1、2失点目をやられて、2失点目はエウシーニョ選手に行って抜かれて、守りが一歩一歩ズレた結果、阿部さんがフリーになった。3失点目も僕が入ったばかりの(小林)悠君に対応して、家長君にヤス(遠藤)さんがついたけど、あそこは余っていたナオ(植田直通)に行かせるべきだった。家長君のシュートは後ろから見ても左足だと分かったし、ヤスさんに左を切らしてナオがフォローするとか、タテに来たところをナオが見るとか、そういうコンビネーションや声1つで解決できた。それは彼だけの責任ではないから、僕からもしっかり伝えないといけない」と途中からキャプテンマークを背負った昌子は自戒を込めて反省点を口にした。鹿島の最終ラインを統率する者にはそれだけの強いリーダーシップが求められるのだ。
その重責は日本代表でも同じ。2週間後に迫った8月31日の2018 FIFAワールドカップアジア最終予選の天王山・オーストラリア代表戦(埼玉)を視野に入れ、吉田麻也(サウサンプトン)とセンターバックを組むであろう彼はより強い存在感と統率力を示す必要があるだろう。
実際、今回の川崎戦はオーストラリア戦を想定するうえで非常にいいレッスンになったはず。昨年10月のアウェイ戦(メルボルン)、今年6月のFIFAコンフェデレーションズカップ(ロシア)を見ても分かる通り、アンジ・ポステコグルー監督率いる現オーストラリアは、丁寧にパスをつなぎながら攻撃を組み立てるスタイルを志向する。川崎ほど小気味いいボール回しや流動的なポジションチェンジはないだろうが、日本が回される時間が長くなるのは確かだ。
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が必要に応じて4バックから3バックや5バックに布陣変更する可能性が皆無とも言い切れない。しかも、宿敵にはティム・ケーヒル(メルボルン・C)というスーパージョーカーがいる。あらゆるシナリオを想定し、最適な対処法を瞬時に判断し実践できなければ、今回の川崎戦と同じ轍を踏むこともあり得るのだ。
「鹿島のやり方、代表のやり方があるんで、僕はどうこう言えないですけど、回してくる相手にもメリットデメリットがあると思う。回しているチームの方が疲れないだろうけど、回し続けていたら焦れて、絶対にスキが生まれる。今日の川崎も前半30分くらいからちょっとずつイラついて、谷口(彰悟)君、奈良(竜樹)君がかなり前に攻撃参加するようになってきたんで、狙い通りの形になりつつあるなと感じていました。そこでウチがカウンターから1点を先に取れていたら、結果は違っていた。そういうスキをモノにできるかどうか。そこが重要だと思います」と昌子は勝負を分けるポイントを改めて強調した。
川崎との一戦で3失点を食らった教訓を次の大舞台で生かさなければ意味がない。森重真人(FC東京)が長期離脱している今、常勝軍団の守備の要に託されるものはかつてないほど大きい。昌子源にはこれまでのサッカー人生で蓄積してきた全てを出し切るべく、しっかりと気持ちを切り替え、前に進んでほしいものだ。
文=元川悦子
【コラム】3バック変更の奇策も不発…川崎に黒星を喫した常勝軍団、守備の要・昌子が思うこと