日刊鹿島アントラーズニュース
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2017年10月14日土曜日
◆6位から首位へ。大岩剛監督は どうやってアントラーズを蘇らせたのか(Sportiva)
鹿島アントラーズ・大岩剛監督インタビュー@前編
選手、コーチ、そして監督と、移りゆく過程を見てきているからだろうか。いまだに現役選手のようなスマートさも感じれば、すでにどっしりと構える監督としての威厳も抱く。
大岩剛が鹿島アントラーズの指揮官に就任したのは、今シーズンの途中、5月31日のことだった。AFCチャンピオンズリーグでグループステージ敗退が決まった鹿島は、石井正忠前監督の解任を決断。同時に大岩が、コーチから監督に昇格する形でチームを率いることが発表された。
その時点でJ1リーグは第12節を終え、鹿島は7勝0分5敗の6位。そこから16試合が経過し、リーグ終盤を迎えようという今、鹿島は首位をひた走っている。ふたたび鹿島を復調させた大岩監督は、いかなる覚悟を持って、このミッションに臨んでいるのか。常勝軍団を牽引する新たなリーダーの人物像に迫る。
―― 石井前監督の解任を受けて、シーズン途中にコーチから監督に就任。現役を引退して、すぐに鹿島のコーチに就いたわけですが、そもそも監督をやりたいという思いはあったのですか?
大岩剛監督(以下:大岩) (現役を引退した当時は)やりたいと思ったことはなかったですね。やりたいと思うことと、(実際に)やることって違うじゃないですか。僕は現役選手を引退して、そのままこのクラブでコーチになった。そのときは当然、監督になりたいとは思っていませんでしたし、当時ならばオズワルド(・オリヴェイラ)であったり、満さん(鈴木満強化部長)が自分のことを評価してくれて、コーチの話をいただいたわけじゃないですか。だからある意味、クラブが作ってくれた道だったんですよね。それにコーチになったときは、まず選手時代とは180度違う世界だったんですよ。
―― というのは?
大岩 これも監督になった今だからこそ、そう思えるのかもしれないけど、選手から指導者として自分の意識を切り替えるまでに3年、もっと細かく言えば5年近く時間がかかったんです。言ってしまえば、選手は個人事業主。正直、自分のパフォーマンスのことだけを気にしていればいいわけですよ。当然、チーム内での立場であったり、チームの中でのコンビネーションなどについても考えますけど、あくまで自分だけにフォーカスしていればいい。でも、現役を引退して、選手からコーチに意識を切り替えようとしても、実際はまだ身体が動いたり、(練習で)人手が足りないところに入れば、なんとなくプレーできてしまう。
僕で言えば、コーチ1年目のときは、プロ1年目だった(DF昌子)源に教える、(MF土居)聖真と一緒にプレーする。何となく自分が教えながらも、何でこれができないのかなって思ってしまうわけですよ。指導するとき、どうしても自分のやってきたこと、経験してきたことを伝えようとするじゃないですか。すると、どうしても言いすぎてしまったり、教えようとしすぎてしまう。要するに、こうやろう、こうやろうと、「やろうやろう」ばかり。こっちから提案するばかりで、源の話を聞いてあげる、選手ができない理由を聞いてあげることができなかった。まさに、初期段階で起こりやすいミステイクだったんですよね。
―― 選手に与えるばかりで、考えさせることができなかったということですよね?
大岩 そういうことです。選手と同様、指導者もやっぱり失敗するわけですよ。今日は選手たちに言いすぎてしまったなとか、全然トレーニングがうまくいかなかったなとか。だから、明日は選手にこうアプローチをしようかなとか、トレーニング内容をこう改善しようかなと、日々学んでいくわけです。という意味では、指導者も選手と一緒で、要するに積み重ね。僕は指導者になって今年で7年目。そのうち5年間くらいがコーチのアシスタントだったわけです。それが監督のアシスタントコーチになり、徐々に段階が上がっていく。その都度、その都度、場数を踏み、経験を積んで、監督になる道を作ってもらってきたんです。
今、言ったことは監督になってからも同じ。選手に言いすぎてしまってはダメなように、今度はスタッフにも、自分がやりたいことを言いすぎてはいけないわけですよ。「自分が目指すところ、やりたいことはこれだよ」と示しつつ、たとえばポジション別練習だったら、ヤナ(柳沢敦)やハネ(羽田憲司)にしっかりと任せる。本当に指導者になったばかりのころは、一生懸命あれもこれも教えようとしすぎて、やりすぎてしまうところがありましたよね。
―― 話を聞いていると、指導者として段階を経ていくうちに、徐々に監督になる覚悟ができていったように思います。
大岩 そうかもしれないですね。その過程で、(トニーニョ・)セレーゾが解任され、石井さんが監督になったときに、いずれは自分もこのクラブで指揮を執ることになるかもしれないな、という覚悟がどこかに芽生えました。昨シーズンは代行で指揮したこともありましたし、気持ちとしてはそこで決定的になりました。
―― そのタイミングが、まさに今シーズン途中に訪れたわけですが、実際にチームを指揮する立場になって、まずはどこに注視したのですか?
大岩 (第12節を終えて)7勝5敗で得失点差が±0でした。そのとき首位に立っていたガンバ大阪の得失点差が+17。これだけ得失点差が開いている状況はまずいなと思いました。だから、攻撃に比重を置こうと考えたんです。そうしないと、この差は埋まらないなと。
―― 負けが込んでいる状況で考えたのが、守備ではなく攻撃のことだったんですか?
大岩 そこは自分がDFの人間だったからこそです。守備、守備、守備と、守備のことばかり取り組んでいると、身体が硬直してくるんですよ。負けているということは、どういうことかというと、失点しているってことですよね。だから守備陣にしてみれば、プレッシャーがあるわけです。その状況で守備に取り組み、試合で失点してしまえば、選手たちは「せっかく守備を取り組んできたのに……」という心境になってしまう。それに以前はサイド攻撃が中心で、相手に研究され、読まれてきていた。そこを消され、攻撃がうまくいかなくなると、当然、守備もうまくいかなくなる。
でも、逆に攻撃がうまくいっていれば、たとえ失点したとしても取り返そうとなる。『攻撃は最大の防御』という言葉がありますけど、まさに攻撃にどんどん人数をかけたり、必死になっていろいろなバリエーションを作っていくことによって、そのぶん後ろもリスクマネージメントしようという意識も働いてくるわけです。だから、(監督になって初采配となった第14節の)サンフレッチェ広島戦では、もっと選手を追い越す動きを多くしよう、ワンツーを使っていこうと、得点を奪うために攻撃のバリエーションを増やそうとしたんです。攻撃に比重を置いたのは、そうした効果を狙っていたところもあります。
―― 結果が出ないときは、まず守備に着手しそうですが、そこであえて攻撃に取り組むことで、守備をも安定させたということですよね。
大岩 ポイントとしては攻撃に人数をかけるため、第一ボランチは守備のリスクマネージメントができる必要があった。まあ、それもこれも『鹿島』というクラブだったからこそできたことです。ポテンシャルのある選手がいるからこそ、できたアプローチだったと思っています。これが失点が止まらない状況だったら、どう判断していたかはわからない。
―― DF出身だけに守備を第一に考えるかなと思っていました。
大岩 守備に関してはあまり変えていないですね。改善したいところもありますけど、やはり守備は組織なので、シーズン中にそこを大きく変える必要はないかなと。むしろ、監督になったときの自分の狙いとしては攻撃だったんです。
―― 大岩監督になってから攻撃に対する選手たちの自由度が増したのは、そうした意図があったからなんですね。
大岩 当然、相手も研究してくるわけで、そこを抑えられたときに自分たちでどうしようというアイデアが足りないように見えました。加えて、自分が指揮を執りだした時期が、ちょうど夏場に入るときでした。だから、しつこいくらいに選手たちにはボールを奪ったら、とにかくテンポよくボールを動かそうと言いました。それで相手を走らせて疲れさせようと。統計的に我々が後半の残り15分で多くの得点を決めているのも、そこに起因していると思います。狙いとしてはそういう意図があったんです。
☆ ☆ ☆
現役時代はセンターバックとして、鹿島で3連覇を成し遂げた選手である。だからこそ、チームを立て直す際には、まず攻撃ではなく守備に比重を置くと思われた。だが、守備の人だからこそ、攻撃に着手した。それが守備をも安定させるということを、大岩監督は身をもって知っていたのだ。
選手を引退したチームで、すぐにコーチになり、徐々に監督になる能力を養い、覚悟ができていったことも強みなのであろう。だから、素早く課題を抽出し、短期間で軌道修正することができた。そのひとつひとつに明確な筋道があるように、選手たちに訴えかけるひとつひとつの言葉にも、メッセージが込められている。
(後編に続く)
【profile】
大岩剛(おおいわ・ごう)
1972年6月23日生まれ。静岡県出身。清水商高を卒業後、筑波大を経て1995年に名古屋グランパスエイトに入団。2000年にジュビロ磐田に移籍し、2003年より鹿島アントラーズでプレー。2011年に現役を引退。日本代表として3試合に出場している。引退後は鹿島でコーチを務め、2017年5月に石井正忠監督の解任を受けて監督に就任。
6位から首位へ。大岩剛監督はどうやってアントラーズを蘇らせたのか
後編
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