J1第23節の“THE CLASSIC”は両クラブに所属したSBに注目
J1で唯一、30年間、Jリーグのトップリーグに在籍し続けるチームがある。それが、横浜F・マリノスと鹿島アントラーズだ。ともに多くの日本代表選手を輩出し、J1でも多くのタイトルを獲得している。そんな両クラブが相まみえるのが、“THE CLASSIC”と呼ばれる伝統の一戦だ。2022シーズンは7月30日、J1第23節で実現する。(取材・文=藤井雅彦)
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前所属が鹿島で、現在は横浜FMに在籍するDF永戸勝也。
前所属が横浜FMで、現在は鹿島に在籍するDF広瀬陸斗。
利き足は左右の違いこそあれ、ポジションは同じサイドバック(SB)。鹿島でチームメイトだった時期は永戸曰く「お昼ご飯はいつも一緒に食べに行っていたし、オフの日にも一緒に出掛けるような仲」という間柄だ。
同じ1995年生まれ。ただし広瀬の誕生日は9月、永戸は1月生まれでいわゆる早生まれになる。そのため学年が1つ下にあたる広瀬は「食事はいつもカツくんにご馳走になっていました」とニヤリ。先輩から可愛がられるキャラと憎めない笑顔は横浜FM時代からまったく変わらない。
両選手は同じ20年に鹿島に加入した、いわゆる“同期”でもある。永戸はベガルタ仙台から、広瀬は冒頭で述べたように横浜FMから、タイトル数で他の追随を許さない強豪へ新天地を求めた。
年齢も境遇も近い2人は、すぐに意気投合。当時の印象をそれぞれに聞いた。
「陸斗は試合に出られない時でもひたむきな姿勢で練習に取り組んでいる姿は尊敬していますし、自分も見習わないといけないと感じました」(永戸)
「カツくんはマイペースというか、自分のペースで動くタイプの性格ですね。でもサッカーになると、周りを見ながらタイミングやバランスを考えてプレーするタイプ。どちらかというと自分に似ているタイプかなと」(広瀬)
「常勝」を掲げる鹿島において、SBは重要な役割を担う。DFとしての守備の堅さや強度をベースにしつつ、攻撃参加した際にはゴールに関わる仕事を求められる。プレーエリアは比較的オーソドックスでも、要求されるレベルがとにかく高い。
「OBの選手たちが凄すぎることもあって、求める基準が高いと感じた」と在籍時代を振り返ったのは永戸だ。
鹿島は相馬直樹氏や名良橋晃氏など日本代表でも活躍した名SBを輩出する、いわばSB王国だ。2020年8月に現役引退した内田篤人氏もその1人で、長きにわたって日本代表の右サイドを支えた。永戸と広瀬は約半年間という短い時間ではあるがチームメイトとしてプレーした経験がある。
いずれも「特別な存在」として名前を挙げた内田氏から、たくさんの学びを得た。
「マインドの部分で見習う部分が多かったです。海外で長く活躍できた理由に、ミスを恐れないメンタルがあると感じました。『前へ出て行く時は後ろのことを気にせず思いきり行ったほうがいい』と言われて、それは当時の自分にない考え方でした。トップレベルでやっていた理由が分かる思いきりと思考があって、だからこそできるプレー選択に感じました」(永戸)
「自分から何かアドバイスするというよりも、こちらから聞きに行くと一言、二言くれるんです。それがすごく響く。オーバーラップするタイミングやボールをもらう位置はすごく勉強になりました。何気ないプレー選択にもしっかりとした意図があって、そこは自分のサッカー人生にはない感覚というか、新たな発見でした」(広瀬)
偉大な先人から新しいサッカー観を吸収し、SBとしての成長スピードを加速させていった。
迎えた今季、永戸はかつて広瀬がプレーしていた横浜FMへの移籍を決意する。ピッチ内外で共鳴していた両選手は、チームメイトから対戦相手に関係を変えた。
同じSBでも鹿島と横浜FMでは求められる要素が大きく異なるため、適応に少なからず時間がかかった。それぞれのスタイルを一言で表現するならば、鹿島は「オーソドックス」(永戸)。横浜FMは「攻撃に特化している」(広瀬)。
加入当初こそ慣れない景色に戸惑いを隠しきれなかったが永戸だが、ある試合をきっかけに手応えを掴んでいく。3-0で快勝したアウェーの鹿島戦だ。
「相手に掴まれないようなポジションを取りながら、ウイングの選手と上手く絡んで攻撃参加することができました。タフな試合のなかでだいぶ手応えを感じるのことのできた試合で、コーナーキックから貴重なゴールをお膳立てできたのも嬉しかった。チームとしてもいいきっかけを掴んで、その後のACL(AFCチャンピオンズリーグ)へ向かうことのできた試合だと思います」
横浜FMのSBはタッチライン際にこだわらず、インサイド寄りのポジションにも進出していく。時にはボランチのような立ち位置でビルドアップに関わり、アタッキングエリアに侵入すればストライカーと同じようにゴールを狙う。移籍加入した選手の多くが新鮮さに目を輝かせる一方で、正解を求めて急ぐあまり“迷子”になってしまうケースも少なくない。
2019シーズン以来のJ1優勝を目指す首位・横浜FMに2位の鹿島が迫る
かつて加入直後からスムーズにフィットした選手がいた。広瀬である。
「SBにも柔軟な立ち位置が求められるサッカーで、言い方が正しいのか分からないですが、自由にプレーさせてもらいました。SBは使われる側になることが多いけど、マリノスでは自分がスルーパスを出す場面もあって、使われる側と使う側が半々くらいの感覚でした」
サッカーセンスの高さをいかんなく発揮していた広瀬。鹿島ではここ数試合、左SBでも違和感なくプレーしているように、与えられた役割や仕事を難なく表現できてしまう適応能力の高さが大きな魅力だ。
「試合に出られる幸せと試合に出られない悔しさ、その両方を味わってきました。だから試合に出られるなら左SBでも、ポジションはどこでもいいです。センターバックでもいいですし、FWでもやります」
涼しい表情で言ってのける強心臓ぶりも相変わらずだが、いい意味でポジションにこだわらない発想は横浜FMで培ったエッセンスが大きいのかもしれない。
前回はアウェーに乗り込んで古巣に勝利した永戸だが、今回はホームに迎え撃つ立場に変わる。チームは現在、首位。3シーズンぶりのリーグ制覇に向けた歩みは順調そうに見えるだけに、ここでオリジナル10のライバルチームを叩けば大きな弾みが付く。
「自分が小さな頃から見ていた両チームで、そのJリーグ開幕からずっとJ1にいるチーム同士の戦いに関われるのは選手として幸せなこと。ただ、プレーするのと客観的に見るのでは大きく違いますし、選手としては勝たなければいけないプレッシャーもあります。首位と2位という立場で対戦できるのはとても嬉しいですし、選手冥利に尽きます」
広瀬もこの試合に並々ならぬ気合いで臨む。鹿島移籍後、日産スタジアムで開催された過去2年のリーグ戦に広瀬の姿はなかった。もし今回、試合会場である日産スタジアムに立つとすれば2019年12月7日以来で、横浜FMが15年ぶりにリーグ優勝を決めたあの日以来となる。
「2019年はチームの一員として優勝に貢献できましたし、僕自身もサッカー人生の中で最も充実した1年でした。応援の雰囲気、サポーターの雰囲気、スタジアムの雰囲気、すべて素晴らしいので特別です。でも鹿島は勝たなければいけないチームなので、そこだけは譲れません。引き分けで終わった試合後のロッカールームは、負けてしまったような雰囲気になります。2位ではいけない。1位にならないといけない。だから絶対に負けられない一戦です」
勝たなければいけないプレッシャーと、負けられないプレッシャーと。
古巣への愛着を一度忘れ、エンブレムを背負う責任を示す。
両チームのSBが激戦必至の一戦に彩りとプライドを散りばめていく。
(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)
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