レギュラー争いのキーワードは「考える」こと
オランダ・エールディビジの連覇を目ざすフェイエノールトが、今シーズンの開幕カードである対フォルトゥナ・シッタルト戦を0-0で引き分けた。
誤算だったのは25分に右SBニーウコープが退場処分を受けたこと。終盤、フェイエノールトは3-2-4の超攻撃的布陣で敵陣ゴールに襲いかかったが、フォルトゥナの身体を張った守備をこじ開けることができずノーゴールに終わった。
新加入の上田綺世は61分から登場。大歓声とともにピッチに入り、サンティアゴ・ヒメネスと2トップを組んだ。
「(フェイエノールトは)ファンの数も多いし、熱量もすごい。セルクル(・ブルージュ)とはぜんぜん違う。セルクルに新加入したとき、僕の名前を知っているファンはほとんどいませんでした。そのことを考えると雲泥の差だと思います」
上田の放ったシュートは2本。クロスからのヘッドはタイミングも良く、良いイメージだったように思えたが、枠を捉え切れなかった。試合の大詰めでは、ヒメネスのポストから上田が右45度の位置でフリーになったが、ボレーシュートはミートせず大きく枠を外れていった。
「チームが10人だったので難しかったですが、それでもフェイエノールトはやっぱりテクニックがあり、五分五分ないしはそれ以上に戦えてました。今日は僕にとって初めてのホームゲームでしたが、雰囲気が素晴らしかった。これが夜(の試合)になったり相手が変わったりするともっと熱くなると思います」
上田が思い出したのは1年前のセルクルでのデビューマッチ。このときの上田はデンキーと2トップを組んで先発したが、前半30分で味方のCBが退場するとウェステルローに一方的に攻め込まれ。0-2であえなく敗れてしまった。
「セルクルでのデビューマッチでも退場者が出たんですが、そのときは防戦一方で、ボールをほぼ持てなかった。どこのチームもそうなるとは思いますが。しかし、今日はまったく違う試合内容で、僕は『10人でもこれだけ戦うことができるんだ』と思いました。フェイエノールトとしては11人でプレーしていたら、もっと違った結果になったと思います」
労働許可証が出たのが木曜日ということもあり、チームの全体練習に加われたのは試合の2日前だった。
「まだガムシャラにやっている段階です。僕自身、(チームのサッカーを)まだハッキリ理解できない部分が多くある。これからチームにフィットしていきながら、僕の理解度を高めていかないといけない。試合や練習を通じて、自分の特徴を出すタイミングを見つけていきたいです」
この先、いかに上田はレギュラー戦線に名乗りを挙げ、フェイエノールトでの出場時間を確保していくのだろうか。ここでキーワードになるのが「考える」ということ。
「僕は普通の小学校でサッカーをし、中学で鹿島(アントラーズ)に上がったけれど試合に出続けていたわけでもない。高校でユースに上がれず、(鹿島学園高校は)茨城県では強いけれど4年連続くらいで全国選手権に出ていなかった。
僕は年代のトップでやってきておらず、世代別代表にも入ってないので、サッカー以外のことも、とにかくいろいろ考える時間が多かったと思います。高校時代の(鈴木雅人)監督は人間的成長の部分をすごく求める人なので、そういう(恵まれない)環境のなかで、それでもどうやって自分が上に行くかを考え続けないといけないと」
ここで上田が例に挙げたのが鹿島時代に2トップを組んだエヴェラウドだった。
「エヴェラウドは年間18点取ったセンターフォワード。だけど『助っ人外国人のエヴェラウドドがいるから試合に出られない』では話にならないから、そこでアピールしてスタメンをもぎ取らないといけない。身体が強くシュート力があり、ヘディング力のあるエヴェラウドと同じ土俵で真っ向勝負を挑むのか。それとも、違うところで監督から認められるのか。エヴェラウドより得点を取ってセンターフォワードとしての価値を見せつけ、彼のポジションを変えてしまうのか。エヴェラウドとコンビネーションを見せて2トップを組むのか――。まあ、いろいろあるじゃないですか」
セルクルではもうひとりのCFデンキーとの共存の策を探り、2トップを組んだり、上田がトップ下に入ったり、2シャドーの一角を務めたりした。
「最終的には、僕はセンターフォワードでスタメンになり、結果的に良い形でシーズンを終えることができました。しかし、今はそう簡単ではない。(フェイエノールトは)シャドーの選手もレベルが高いし、このチームはセンターフォワードひとりを争う戦いになるというところで、すぐにどうこうできることでもない。焦らずじっくりやっていきたいです」
「ポジション争いは蹴落とすばかりじゃない」
「ポジション争いは(ライバルを)蹴落とすばかりじゃない」と上田は続ける。
「自分が出ることが最終目標だとしたら、より活躍しやすいポジションで出るのが一番の目的ですが、その度合いですよね。ポジションを変えたら出られるかもしれないけれど、活躍できるかというと話が変わってくる。出て、活躍することが本質だとしたら、ワントップで出られるのが一番良い。もしかしたら僕のプレースタイルだったら、『ウイングで使いたいな』と思われるかもしれません。
いや、『自分はウイングでもいいよ』ということでもない。でも、それは監督が決めることなので。ただ、自分にしかないものを出さなければ、僕でなくても良いわけじゃないですか。今日のヘディングもそうだし、いろいろなところで自分を出していかないといけないと思います」
上田は中学時代にボランチでプレーしていたときもFWのようなプレーをしていたという。ウイングに回ったとしてもシャドーストライカーのようにゴールを狙って行くのでは?
「そうなると思います。去年のセルクルの映像を見てもらえれば分かると思いますが、2シャドーと言いながらも、ほぼ2トップみたいで、それを監督も求めていた。(フェイエノールトでは)ウイングでも攻撃のときは内側に入って2トップのようになる可能性もある。自分の存在をどんどん示して試合に絡んでいきたい。その方法はまだまだ分かりせんけれどね」
ヒメネスとのポジション争いに真っ向から挑むのか。それでも共存を目ざすのか。あるいはウイングのように本職から離れて、そこからゴールを狩りに行くのか。この難問の答えが出るのは、まだ先なのかもしれない。
取材・文●中田 徹
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