日刊鹿島アントラーズニュース

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2024年6月16日日曜日

◆今、ベトナムで注目を集める岩政大樹監督。ハノイFCで行なうチーム作りとは?(サッカーダイジェスト)



岩政大樹


「良い経験ができています」


 2024年1月11日、岩政大樹氏がベトナム1部リーグのハノイFCの監督に就任した。2023年12月に鹿島の監督を退任して以降、彼の動向を気にしていた人も多かったのではないか。
 
 ベトナムリーグはいわゆる秋春制。岩政監督は1月からのハーフシーズンを率い、6月14日時点でリーグ戦14試合で8勝2分4敗の3位。カップ戦ではベスト4に進出した。5月は17日から31日の4戦で連勝を記録。未知の土地でも結果を残しているのである。
 
 ベトナムに渡って5か月。現地でどんな経験を積んでいるのか、語ってもらった。

――◆――◆――
 
――まずベトナムで指揮を執ってみての率直な感想は?
 
「良い経験ができています。ベトナムリーグは中断期間が多く、4試合やって中断、5試合やって中断のような形が続きました。ただ5月は試合が詰まっており、毎週2試合を戦う日程で、8試合ぶっ通し。6月の代表ウィークを挟み、リーグ戦4試合、カップ戦2試合を経てシーズン終了を迎えます。つまり、5月が一番の連戦でした。
 
 5月が勝負という認識は当初からありました。そこに向けて、チームに戦術を浸透させ、上に食らいついていく流れができればなと考えていたので、それが実際にできたという面はすごく良かったです。5月は結果だけでなく内容も示せたので、選手たちと良いチームが作れている実感があります。
 
 サッカーってちょっとしたことで結果が変わる。そのなかで、結果と内容をともに、想定していた勝負どころで表現できたのは監督として大きいです。そのような形に持っていけると、自分のサッカーに整理がつくというか、チーム作りに対する自信も沸いてきます。その面では、監督として初めての経験もできました。5か月間ピッチ内外で様々なことが起きましたが、今はハノイに来る決断をして良かったと思っています」

――シーズン途中に就任し、その後の半年間で、具体的にどのようにチームを作ってきたのですか?
 
「チーム作りにはいろいろな段階があって、上手くいかないなかで、気付けるところと、気付けないところがある。その意味で、全部勝てれば良いけど、負けることで気付けることもたくさんある。
 
 2、3、4月は、ベトナム人選手にどういう形が合うのか、適応力を確認し、結果は出たり出なかったりの連続でした。そこから、5月にチームを整理してまとめていく流れを作ったつもりで、現場ではすべての試合が勝負ですが、中長期の計画を立てながらやるのも監督の仕事で、短期、中期と、上手く順序立ててやれたかなとは思っています」

――現地では5月の月間最優秀監督賞も受賞しました。注目すべきは攻撃面で、岩政監督が就任してからの14試合でチームは28得点を奪っています。
 
「そうですね。5月だけではなく、2月からリーグ戦14試合を戦って、そこに限れば獲得した勝点数で1位になれましたし、何より喜ばしいのは得点力。就任した時には8試合で9得点のチームでしたから。嬉しく思っています。
 
 僕がハノイというチームを見た時、または監督としてどういうチームを作りたいかと考えた時、より攻撃的なチームにしたいとの想いがありました。1試合平均で1ゴールしか取れなかったチームが、僕が来てから1試合平均で2点取れるチームになった。それは目に見える成果です。
 
 内容としてはボールを動かしたり、相手を崩す意識を持ってもらっていますが、当然得点が付いてこないと説得力がなくなるし、自己満足でやっているように映ってしまう。プロは結果ですから、得点力に結びつけるための、攻撃、ビルドアップを自分の中で取り組もうと考え、結果に表われているのはすごく嬉しいし、選手たちと上手くシーズン終盤へ歩んでこれたのは非常に良いことだと思っています」

【第1回終了/全3回】

取材・文●平 龍生(サッカーダイジェスト編集部)




◆今、ベトナムで注目を集める岩政大樹監督。ハノイFCで行なうチーム作りとは?(サッカーダイジェスト)





「ベトナム人選手を活かしたサッカーがしたい」


 2024年1月11日、ベトナム1部のハノイFCの指揮官に就任し、今年5月には月間最優秀監督賞も受賞した岩政大樹監督。未知の土地で注目を集める男へのインタビューのパート2をお届けする。

――◆――◆――

――初挑戦となる異国の地で結果を残しています。ベトナムサッカーに風穴を開けられたとの想いもあるのでは?
 
「風穴...そうかもしれませんね。ベトナムリーグの外国人枠は『3人』ですが、その3選手をどう起用するかというと、ベトナムの多くのチームは前線に外国人をふたり並べ、それ以外はセンターバックにひとりか、ボランチにひとり活用するのが主流です。そして、フィジカルで優位性を持てる外国人選手にパスを入れ、小柄なベトナム人選手がこぼれたボールを拾って戦う形が多い。
 
 それが悪いわけではないし、そうせざるを得ないような外的な要因もたくさんあります。たとえばグラウンドが悪いとか、すぐに結果を出さないとクラブ、サポーター、メディアに認められないとか、実際にその戦い方が手っ取り早いとか。
 
 しかし、僕がここに来て思ったのは、ベトナム人選手を活かしたサッカーがしたいということ。そして、それができるということ。それに、普段のチームでロングボール主体のサッカーをしているのに、代表でいきなり違うことをやろうとしても、なかなかできない。
 
 外国人が判断してプレーをして、それに合わせてベトナム人選手が周りを動いていくサッカーだと、ベトナム人の判断力は育たないし、それが代表チームや、この国のサッカーのためになっているとは思えなかったんです。加えて、うちには技術的に優れた選手が揃っていた。だからこそ、このサッカーを思い切って作りました。
 
 今はこうやって結果が出始めて、順位も就任時の8位から3位まで上がってきたので、周りの空気はだいぶ変わってきました。他のチームでは得点の7割を外国人選手が挙げていますが、僕のチームではベトナム人選手が8割の得点を取っている。そういう部分でも、周りの見る目が変わってきているなと感じます」

――改めて、ここまで結果を残せた要因は?
 
「確かにピッチ内外で様々な難しさはあったけれど、それよりも大きかったのは、僕の提示がどうこうより、選手たちがこのサッカーをやりたいっていう思いがあったこと。やっぱりプレーするのは選手たちだし、具体的に提示するものは鹿島の時とはだいぶ変えていますが、上手く進められているのは、選手たちがいてこそ。
 
 僕が就任した時、うちには技術面に優れた選手が多く、相手を動かし、意図的に崩していくようなサッカーをやりたいと感じている者たちがいた。これまではそうしたサッカーをやる機会がなかったようだけど、今はそれに取り組めるのが嬉しいみたい。それで実際に勝ててもいるので、選手たちはすごく楽しいんだろうなと思います。それが今の結果の要因ですね」
 
――選手たちも楽しみながらプレーできていると。
 
「自分たちでボールを動かすサッカーって、選手たちにとってもやっぱり楽しいわけですよね。こういうパスを出せば相手をこう動かすことができ、相手をここに動かしたら自分たちの狙ったスペースを作れて、そのスペースを利用してこのように攻撃するんだよって、ずっとビデオなどで見せていると、選手たちは嬉しそう。当然、勝てばみんな良いんだろうけど、勝ち方によって感じ方は異なる。
 
 そういう面では、選手たちが本当に意欲的に取り組んでくれました。分析のビデオなどで説明していると、試合に出ていない選手も食い入るように見てくれている。こうやってサッカーを考えるんだとか、こういう仕組みなんだと気付くことって、発見だし、選手としての“幅”にもなる。4月までは勝ったり負けたりを繰り返していたけど、勝ち負けに関わらず、できたところ、できなかったところを具体的に伝えながら進めると、だんだん選手たちがサッカーを理解し始めた。
 
 最終的に今月(5月)の連勝が始まった試合で、修正したところがうまくハマり、チームのモデルがひとつ固まったと感じています。そこから4連勝につながった。どの試合も本当に素晴らしいし、どこに見せても恥ずかしくない内容だったと思いますね」

【第2回終了/全3回】

取材・文●平 龍生(サッカーダイジェスト編集部)




「勝ち切りたい、タイトルを取りたい」


 2024年1月にベトナム1部のハノイFCの指揮官に就任し、結果を残している岩政大樹監督。彼はどんな想いで異国の地での挑戦を続けているのか。特別インタビューの最終回をお届けする。

――◆――◆――

――岩政監督はプロの指揮官として、まだキャリアは短いと思いますが、ベトナムで経験値を積み重ねられているということですね。
 
「やっぱり経験しないと分からないことってたくさんある。そのひとつは、どのくらいで自分のチームができていくのかという感覚。特に攻撃面は、自分がどのくらいの期間で何を植え付けられるのか、正直、未知数でした。今思えば、そこは鹿島の監督に就任した時も(2022年8月から23年12月まで指揮)、自分自身、不安に感じていたのだろうなと。だから、実質監督1年目だった昨季(鹿島時代)は、守備からチーム作りを始めて、まずしっかりゼロで抑えることを念頭に、勝点を拾いながら攻撃を修正していった。
 
 そのうえで自分が2年、3年と受け持つことになれば、チームを固めていったのだろうなと。それは僕の中で時間的猶予を設けるためだったんですが、結局、自分の中の不安だったり、経験値のなさが出てしまったんだと思います。
 
 今回は逆に、最初から攻撃、それもフィニッシュの形から逆算したチーム作りに取り組んでいて、守備は前ほどはやらずに進めてみました。結果として、このくらいの期間でこうなるんだなというのは、僕の中で掴めた。すごく面白い5か月になりました」

――では最後に、シーズンは佳境を迎え、ここからラストスパートとなりますが、そこでの目標は?
 
「ハノイでの半年間の集大成になるので、最高の締めくくりにしたいですね。ただ何よりも、ハノイの選手たちが、新しいサッカーにこれだけ前向きに取り組んでくれたので、実際にタイトルを取る経験をさせてあげたいとの想いが一番です。それが、恐らく、今後のベトナムサッカーを変えるキッカケになると思う。そのために、勝ち切りたい、タイトルを取りたいというのが最大の目標です。
 
 最後のカップ戦の準決勝と決勝は、リーグ戦で僕たちが負けたチームと戦うんです。僕らはこれまで3チームに負けたのですが、その3チームがうちとともにベスト4に残っている。これも何かの縁だと感じるので、リベンジを果たして、優勝したい。
 
 その3チームは、まさにベトナムサッカーらしいチームで、タレントも揃っているので、紙一重の試合になるはずです。ただ、僕らの異なるサッカーでタイトルを取る姿をベトナム中に見せたいですね」

※このシリーズ了

取材・文●平 龍生(サッカーダイジェスト編集部)




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