日刊鹿島アントラーズニュース

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2024年11月4日月曜日

◆【J1鹿島が川崎にシーズンダブルを達成した意味】(サッカー批評)






「こういう予期にチャンスが来て、少しでも試合に絡めるようになったのは正直、超嬉しい。ずっと望んでた場面だったんで」と津久井も大きな喜びを感じながらクローザーとしての役割を果たした。


◆【J1鹿島が川崎にシーズンダブルを達成した意味】(サッカー批評)

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 10月初旬のランコ・ポポヴィッチ監督解任、中後雅喜新監督就任から1か月。鹿島アントラーズは何としても優勝戦線に踏みとどまるべく、10月19日の前節・アビスパ福岡戦から2週間を経て、11月1日にアウェー・川崎フロンターレ戦に挑んだ。

 福岡戦では鈴木優磨の左サイド起用という奇策に打って出た新指揮官だったが、今回は羽田憲司コーチらとも相談の上、鈴木優磨を中央に戻し、師岡柊生との2トップで挑む決断をした。その方が前線で2つの起点ができ、サイドアタックを繰り出しやすいという狙いがあったからだろう。

「この2週間は守備にもかなりの時間を使いましたけど、攻撃で自分たちの強みを出していくこと、相手の嫌なところ、特にポケットに走り込んで起点を作っていくという部分を意識的にやりました。優磨君と師岡の2人が2トップで起点を作ってくれる作業がないと、今のチームは前進しながら苦しむ場面が多い。そこは大きいと思う」と柴崎岳とボランチを組んだ知念慶も前向きに受け止めつつ、試合に入ったという。


■明確に出た“狙い”


 その狙いが開始早々から明確に出た。この日の鹿島は球際や局面のバトルで相手に勝ってボールを奪い、タテに早くボールを出していくという狙いが顕著だった。そのうえで迫力を持ってサイドアタックを仕掛けた。

 それがまず奏功したのが、開始10分の先制点。左からの崩して右のスローインを取った鹿島は師岡が投げたボールを柴崎が受け、すぐさま中央にクロスを送った。ここに打点の高いヘッドで合わせたのが知念。奇しくも来季監督就任が濃厚と言われる鬼木達監督の目の前で豪快弾を決めると同時に、古巣への恩返しを果たしたのである。

「監督が代わってチームとして狙っていた部分がハマったゴールだったかなと思います。川崎はお世話になったクラブなんで、成長した姿を見せたいと思っていた。ゴールという形でしたけど、取れてよかったです」と背番号13は爽やかな笑み浮かべていた。


■三竿健斗の右サイドで封じるもの


 この一撃から鹿島はさらに勢いに乗り、18分にはまたも左の崩しから2点目を挙げる。相手からボールを奪った安西幸輝がえぐってマイナスクロスを上げたところに詰めたのが樋口雄太。ポポヴィッチ体制では出番が減っていた14番は躍動感を前面に押し出し、2点目を叩き出した。

「サイドハーフがゴール前に入っていくってのは口酸っぱく言われてますし、そこでやっぱり得点できるのがチームのスタイル。そこがみんなに伝わるでしょうし、そこはうまくいったシーンかなと思います」と樋口もしてやったりの表情を見せていた。

 彼が前へ前へという姿勢を色濃く押し出せる背景には、三竿健斗の右サイドバック(SB)起用もあるだろう。「右SBは中学生以来」という背番号6は福岡戦後半からこのポジションに入り、今回はスタートから。それはもちろん「マルシーニョ封じ」という大役があったからだ。
「だいぶヒヤヒヤしながら守備してましたけど、周りの選手も内側のカットインのところは対応するようにコミュニケーションをとってくれたんでよかったです」と本人も最大のタスクを確実に遂行。樋口の献身的なサポートも光った。

 その三竿が前半28分、値千金の3点目を挙げたのだから、鹿島としては最高だろう。左に開いた師岡のクロスを樋口がキープし、右に展開。これを三竿がペナルティエリア外側から巧みに左足で蹴り込み、ゴール左隅に決めたのだ。

「雄太か誰かが持った時にパスを受けるイメージで入ったんですけど、そこにこぼれて来た。結構、左足の方がコントロールシュートがうまいんで、打っちゃおうという感じですかね」と彼は少なからず左足に自信があった様子だった。


■厳しい中でも残した可能性


 これで前半から3点をリードした鹿島。今季は3-0から3-3に追いつかれた5月12日の東京ヴェルディ戦のようなゲームもあっただけに油断はできなかったが、中後体制で整備された強固な守備組織は崩れなかった。指揮官はラスト15分は長期間、構想外扱いになっていた津久井佳祐を投入。5バックにして守り切るという手堅い采配も見せた。後半ロスタイムに山本悠樹に直接FK弾を決められたのは反省すべき点もあるが、3-1で勝ち切った事実は何よりも大きかったと言っていい。

 これで川崎に2010年以来のシーズンダブルを達成。等々力では2015年以来の勝利となった。首位・ヴィッセル神戸とのポイント差は鹿島が1試合少ない状態で10と非常に厳しいが、可能性を残したのは事実。彼らは残り全勝を目指して突き進んでいくしかない。

(取材・文/元川悦子)

(後編へつづく)


 苦手・川崎フロンターレに今季リーグ戦2勝という大きな成果を収めたことで、優勝圏内に踏みとどまった鹿島アントラーズ。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)圏内の3位・町田とは同じ試合消化数で3ポイント差ということで、ACL出場権が見えてきたのも事実。中後雅喜監督率いる新体制へ移行した鹿島は堅守とスピーディーな攻めというベースに立ち戻っている印象だ。それも今はいい方向に行っていると言っていいだろう。

 ランコ・ポポヴィッチ監督が率いていた時は「メンバー・ポジション固定」の傾向があまりにも強かった。GK早川友基、DF濃野公人、植田直通、関川郁万、安西幸輝の守備陣は不動で、攻撃陣も1トップ・鈴木優磨が絶対的エースという状況は変わることがなかった。

 しかしながら、10月以降は鈴木を左サイドにトライさせたり、師岡柊生をトップ、三竿健斗を右サイドバック(SB)に置いたりと、これまでになかった柔軟な起用が見て取れる。もちろん新たな役割を全員がすぐに完璧に実践できるわけではないし、鈴木優磨の左サイドに関しては成功したとは言えないが、チームに新たな風がもたらされているのは確かだ。


■三竿健斗が語る「チームに還元するプレーは変わらない」


「どこで出ても自分がチームに還元するプレーは変わらない。右SBはボランチの時より全体を外側から見れるんで、相手の立ち位置だったりっていうところは仲間に伝えることができる。また新たな角度からサッカーを見れるんで、面白いっちゃ面白いです」と三竿も前向きにコメントしていたが、それぞれが新たな意欲を持って取り組む環境が生まれたことで、チームを取り巻いていた沈滞したムードが払拭されつつあるのではないか。

 加えて言うと、ポポヴィッチ体制で出番が激減していた樋口雄太がスタメン抜擢でイキイキと躍動し、ほぼ構想外のような扱いになっていた津久井佳祐、舩橋佑ら若手もピッチに立つチャンスを与えられるなど、新たな競争も生まれている。それも前任者時代との大きな違いである。

「(3月9日の)町田(ゼルビア)戦で先発して負けた後、課題を自分でしっかり見つめ直して自主練とかで対策を立てようとしていたんですけど、なかなか試合に絡めなくなった。郁万君とかが疲労してるのに自分の力不足で出られなくて本当に申し訳ないと思いながら、できることをやっていました」と津久井はリーグ戦から遠ざかった8か月間をしみじみと述懐する。


■津久井「ずっと望んでた場面」


 その間も中後監督はコーチとして近い距離で彼らに接し、アドバイスをしてきた。中後監督自身も2007~2009年の鹿島3連覇時代は小笠原満男(現アカデミー・アドバイザー)や野沢拓也らの控え要員としてベンチにいることが多かったから、津久井や舩橋のような選手の気持ちがよく分かるのだろう。人の心に寄りそう彼らしいサポートも、重要な終盤で若手を戦力にできた一員なのかもしれない。

「こういう予期にチャンスが来て、少しでも試合に絡めるようになったのは正直、超嬉しい。ずっと望んでた場面だったんで」と津久井も大きな喜びを感じながらクローザーとしての役割を果たした。

 鈴木優磨と交代した徳田誉にしてもそうだが、若い力が積極果敢に向かっていけば、チームに新たな活力が生まれる。そういう意味でも、フレッシュな人材の登場は大きかったのだ。

 改めて一体感を取り戻した鹿島に残されたゲームは4試合。名古屋グランパス、京都サンガ、セレッソ大阪、町田という難敵ばかりだ。優勝争いは他力本願だが、ミラクルを起こすためには全ての試合に勝つことが必要不可欠である。ここから先はまさにトーナメント戦。ある意味、鹿島というクラブにとっては得意な状況かもしれない。逆転の可能性は極めて低いが、最後まで諦めることなく、全力を注ぎ続けていくべき。それが常勝軍団復活の大きな一歩になるはずだ。

(取材・文/元川悦子)

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