http://www.hochi.co.jp/soccer/japan/20140614-OHT1T50350.html
◆ブラジルW杯第3日 ▽1次リーグC組第1戦 日本―コートジボワール(14日、ペルナンブコ・アリーナ)
右サイドバックで先発出場が確実なDF内田篤人(26)=シャルケ04=が、W杯デビューとなるコートジボワール戦を控え、スポーツ報知に心境を明かした。日本代表からの引退、シャルケ04(ドイツ1部)での苦闘、代表に選ばれながら不出場に終わった10年南アフリカ大会など、4年間の思いを激白。初戦を完封すると誓った。
4年分の思いをかみ締めるように、内田はペルナンブコ・アリーナの芝生に立ち、ゆっくり走り出した。10年の南アフリカ大会は不出場に終わり、コートジボワールとの初戦がW杯でのデビュー戦になる。先発は確実。取材ゾーンでは「まずはチームが勝つことが大切。自分が(出たい)というより、勝ち点1でも3でも拾って、次のステージに行って少しでも上に行く。日本人としてそう思う」と明言。あえて個人的な思いを封印した。
本音だ。一方で、その誇り高い日本代表に目を背けた時期があった。12年2月のアジア3次予選、ウズベキスタン戦(豊田ス)後だった。
「ブラジルW杯を諦めたんです。日本代表から退くと決意した。そんな瞬間があったんです。試合後ホテルに戻って、ザックさんの部屋に行こうとした。代表に呼ばないようにお願いしにいこうと思った。ずっと抱えていた悩みだった。我慢できなくなってしまった。代表戦に対して、モチベーションがなくなってしまったんです」
シャルケ04の内田、日本代表としての内田。その両立が心身両面で難しくなってしまった。
「ドイツでは毎試合ガチンコ勝負。サポーターも含めて、みんなで、それこそ負けたら批判の集中砲火を浴びるような雰囲気で戦う。でも、代表に帰って来たら、そういう雰囲気ではなくて。これは、サッカーの歴史が違うからしょうがない部分もあるし、日本での声援は温かくてうれしいのだけど…。親善試合は自分や相手のコンディションが悪いことも多い。そんな状況の中でドイツと日本、他国を往復するのは、何の意味があるのだろう、と考えてしまった。自分の成長を後押ししているのだろうか、と。シャルケ04でベンチ外になっていた時期。どん底を味わっていたから、このままではいけない、と強く感じてしまった」
様々な思いが交錯して生まれた感情とはいえ、決意は固かった。ザッケローニ監督の部屋に行く直前、代理人の秋山祐輔氏に報告した。予想外の返答が帰ってきた。
「代表でしか経験できないことがある。W杯もそう。ドイツでは(スペインリーグの)C・ロナウドやメッシと対戦する機会は、なかなかない。でも、代表では国を背負って、世界の超一流選手と対戦できる。選手として成長できる機会を簡単に捨てていいのか。そう言われました」
部屋を出るのをためらった。意固地になっていたことに気づいた。
「確かにそうだ…と思えた。だから、ブラジルW杯までは余計なことを考えずにやってみよう、と。やる前に(代表での活動後)何が残るかを考えるんじゃない。目の前のことに全力で取り組んだ後、何が残ったかを考えよう。そう思うことができたんです」
迷いが消えた。今年2月には右太もも裏肉離れと右膝けんの損傷で全治3か月と診断され、青いユニホームが遠ざかった。そんな危機も乗り越えた。
「リハビリに協力してくれた方々のおかげで、W杯に間に合った。みんなの思いが、僕の背中にはあるんです。それは力になる。4年前、試合に出られなかったという個人的な思いより、支えてくれた人たちのために、いいプレーをしたい。いろんな人の思いを背負って戦います」
攻撃力を武器とするコートジボワールを抑え、完封する覚悟だ。「前線の選手はサイドチェンジをしたり、自由に動く感じがあるので、特定の誰にマークに付くという感じじゃない。自分のサイドに来た選手にはしっかり対峙(たいじ)したい。いい選手はブンデスリーガ(ドイツ)にもいるし、これまで(欧州)CLにも左サイドにいい選手がいた。普段通りのプレーが出せればいい。日本のために全力を尽くしたい」。迷い、悩んだ末にたどりついた答え。自分の決断に間違いがなかったことを、ピッチで証明する。(内田 知宏)