日刊鹿島アントラーズニュース
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2016年6月14日火曜日
◆一致団結できる強さが宿りつつある鹿島 浦和戦で勝たなければいけなかった理由(Sports navi)
http://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201606130005-spnavi
1stステージの行方を占う浦和との大一番に勝利
3−2で逆転勝ちし、まるで優勝したかのような大騒ぎだった1stステージ第13節の名古屋グランパス戦とは対照的だった。試合終了のホイッスルを聞いたあと、ピッチの選手もベンチの監督やコーチも、互いに抱き合い、手を合わせ、グッと拳を握ることはあったものの、静かに勝利をかみしめていているように見えた。
6月11日に行われた1stステージ第15節の大一番、相手に押し込まれながら要所を抑えて2−0で勝ち切り、「勝ち点3以上の意味がある」(石井正忠監督)という浦和レッズとの直接対決を制したにもかかわらず、鹿島アントラーズの選手やコーチングスタッフたちは喜びを爆発させることはなかった。
それでも、試合の重みは選手のプレーの端々から感じられた。若い選手たちの気持ちの入った球際の激しさはもちろんのこと、百戦錬磨の小笠原満男でさえ、パスのコントロールが乱れ、シュートチャンスには力が入り過ぎてしまう。この試合にかける意気込みが並々ならぬものであることは、90分間の試合中、一度も疑う余地はなかった。
みずからPKを奪い、相手の挑発にも動じることなく落ち着いて勝負を決定付ける2点目を決めた鈴木優磨は「言い方は悪いですけれど、どんな手を使っても勝ちたい思っていた」と振り返る。勝たなければ1stステージの優勝はほぼ絶望的となるだけに、鹿島としては、何としてでも勝たなければいけなかった。勝たなければいけない理由があった。
勝利への執着心を全員で共有できず……
その最大の理由は、やはりヤマザキナビスコカップでのグループステージ敗退となるだろう。今季のナビスコカップは1勝1分け4敗という前代未聞の成績で終えた。さまざまなフォーマットで催されてきた大会だけに、過去の成績と比較することは難しいが、鹿島にとっては優勝6回を誇る相性の良いタイトルである。だが、今季は予選リーグ6位に終わった。
第5節の湘南ベルマーレ戦でアディショナルタイムに決勝点を奪われて敗れたことで、2試合を残しながら決勝トーナメント進出の道は断たれ、試合後の県立カシマサッカースタジアムは形容しがたい不穏な空気に包まれた。「消化試合なんてやったことがない」というクラブ幹部の嘆きも虚しく響いた。
早々に1つのタイトルを失ってしまったことが、選手たちのリーグタイトルにかける思いを強くさせた。しかしながら、このことを、1つがダメになったから次の可能性に気持ちを切り替えただけと理解すると、鹿島というクラブが発する空気感とは異質なものになってしまう。
タイトルに差はなく、優劣もない。どれかに優先して力を注ぐということではなく、極端に言えばすべての試合に全力を注ぐ。キャプテンの小笠原は口癖のように「どの試合も同じ。勝つだけです」と言うが、それは冗談でもなんでもなく、クラブに通底する理念のひとつ。すべての試合を勝とうとすることで、見えてくるものが変わり、日々の取り組み方も変わってくる。
ただし、その“異常”とも呼べる勝利への執着心は、通常では考えにくいものだ。アウェーに行けば毎年のように聞かれる質問がある。「鹿島としては、ナビスコカップにどれくらい重点を置いてるんですか?」というものだ。J1には18クラブがあり、それぞれに置かれた環境は違う。J1優勝を目指すクラブもあれば、中長期計画のなかにいるクラブもあるだろう。もしかしたら死に物狂いで残留を目標に設定したクラブもあるかもしれない。そのなかで、本気ですべてのタイトルを目指すことは、限られたクラブにしか不可能であり、そうした問いがあることはなんら不思議はない。
一般の生活に置き替えてみれば、むしろそれが普通のことであるのが分かる。優先順位を決めて取り組んでいくことは、仕事を進めていくうえでの初歩の初歩と言えるだろう。当然、鹿島でもその理念を全員で共有できているわけではない。それを露呈したのがナビスコカップだった。
試合経験のなかった若手にも突き付けられた課題
第1節の対戦相手はヴァンフォーレ甲府。少しメンバーを落として臨んだ試合は、6分にいきなり失点すると、前半終了間際の45分にも追加点を許し、流れに乗れないまま1−2で敗れてしまった。この大会での今季の戦いぶりを象徴する試合だったと言えるだろう。
不運も重なった。現在はチームのなかでも激しい競争が繰り広げられているセンターバック(CB)はこの時期、火の車になっていた。昌子源が日本代表に、植田直通がU−23日本代表にそれぞれ招集され、昨季レギュラーのファン・ソッコは負傷中だった。移籍してきたばかりのブエノはまだ戦術理解が進んでおらず、ルーキーの町田浩樹はまだ発展途上。CBを託せる選手が青木剛しかおらず、本来は右サイドバックの西大伍を中央のポジションで起用せざるを得なかった。
西自身のパフォーマンスは悪くなかったが、第2節の対戦相手はヴィッセル神戸。ペドロ・ジュニオールに2ゴールを許すなど、1−4で敗れた。甲府にはリーグ屈指の突破力のあるクリスティーノがおり、神戸には絶好調だったペドロ・ジュニオールとレアンドロがいた。さすがの西にも荷が重く、外国人選手のパワーとスピードを抑え込むことはできず、2連敗で大会の流れはさらに厳しくなってしまった。
後に石井監督は大会を次のように振り返っている。
「メンバーをどういうふうに選んでいくのか。あとは全体のレベルがなかなか上がらないまま、戦っていかなければいけない状態もあるので、そういう難しさというのはこの予選リーグでは感じました」
確かに、戦術理解はもちろんのこと、監督が最低限求めている「戦う姿勢」を、どんな試合でも出せる選手と出せない選手がいた。しかし、消化試合となった第6節のジュビロ磐田戦(1−1)、第7節の大宮アルディージャ戦(0−1)で、所属するすべての選手(GKの小泉勇人を除く)が公式戦を経験できたことでチームは変わる。試合経験のなかった若手にも課題が突き付けられ、勝つためのプロセスがチーム全体に共有された。
生まれた質の高さを求め合う空気
そして、臨んだ浦和戦だったのである。
相手に押し込まれる苦しい展開になりながらも、全員が体を張ってゴールを守った。チームが勝つために何をしなければならないのか、一致団結できる強さが宿っていた。
ただし、これをすべての試合で実践するのは難しい。それができるようになって初めて、鹿島はかつての強さを取り戻すことができるだろう。
それでも、そこに近づいているのは確かだ。前人未到の3連覇を成し遂げたオズワルド・オリヴェイラはかつて「このクラブは誰が率いてもある程度の結果が残せる基盤がある」と話した。それは、クラブが築き上げ、選手に提供している部分もあるが、それだけでは足りない。なぜなら試合をするのは選手だからだ。
いま選手たち自身が、練習への姿勢、質の高さを求め合う空気が生まれている。「ステージ優勝もタイトルの1つ」という石井監督に率いられた若きチームが、結果を手にできれば、さらなる自信を得ることになるだろう。
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