日刊鹿島アントラーズニュース
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2017年1月18日水曜日
◆世界屈指の強豪クラブと互角に戦ったアントラーズ(経済界)
連載]二宮清純のスポーツインサイドアウト(第54回)
勝負を分けたのは1本のPKだった
ジャイアント・キリングまで、あと一歩だった。
2016年クラブワールド杯決勝はヨーロッパ王者のレアル・マドリード対鹿島アントラーズ(開催国王者)の対戦となった。
延長戦の末、惜しくも2対4で敗れたものの、その勇敢で組織だった戦いぶりは世界を驚かせた。
勝負を分けたのは1本のPKだった。後半13分、DF山本脩斗がFWルーカス・バスケスを倒したとしてザンビア人審判はPKをとった。
この試合をVIP席で視察していた日本代表ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「審判の笛がああでなければセンセーショナルな結果になっていたかもしれない。怒りが込み上げてくる」と悔しがった。
試合は前半9分にFWカリム・ベンゼマのゴールでレアルが先制したものの、鹿島はMF柴崎岳の2本のゴールで試合をひっくり返した。
延長戦に入ると、目に見えて鹿島の選手たちの体力が落ち始めた。11日間で4ゲーム目とあっては無理もない。
スキとも言えないほどのスキを見逃さなかったFWクリスティアーノ・ロナウドの技術と戦術眼はさすがだった。延長前半の2つのチャンスをきっちりものにして、クラブワールド杯史上初の決勝ハットトリックを達成して大会MVPに輝いた。
114年の歴史を誇るレアルに対し、鹿島のそれは、わずか25年だ(住友金属時代は除く)。Jリーグ創設に合わせて誕生したクラブが、世界屈指の名門を追い詰めたのだ。これを快挙と呼ばずして、何をそう呼べばいいのか。
監督の石井正忠は鹿島の創設メンバーのひとりで、スタート時の苦労を誰よりも知っている。
だからこそ、試合後、次のような言葉が口をついたのだ。
「日本のサッカーはプロリーグができてまだ25年くらい。今回の出場クラブの国の歴史を見ると浅い部類。急激に日本サッカーが世界に近づいていることを証明できた。(本拠地の)鹿嶋市は茨城県の東の端にある。(われわれは)小さな町から生まれたクラブ。Jリーグへの参入は99.9999%不可能と言われた。その0.0001%の可能性に賭けて町が動いてくれたから今がある。そのクラブが日本を象徴するチームになったことは、世界の小さなクラブにも勇気を与えることができたのではないか」
99.9%不可能――。
これは初代Jリーグチェアマン川淵三郎の言葉である。自著「虹を掴む」(講談社)から引く。
〈われわれとしては鹿島という町に魅力を感じていたわけではなかった。(中略)それで「住金のプロ参加を認めることは99.9%ないけれど、屋根の付いた1万5千人収容のサッカー専用スタジアムをつくるなら話は別だ」と言った。これで彼らも絶対あきらめると思った。それは最後の陳情にきた彼らに決定的なダメージを与えるつもりの最終発言だったのである。
ところが、住金は竹内知事と相談の上で「つくる」と言ってきた。もう、こうなると私も引くに引けない〉
クラブ誕生秘話である。
今も鹿島に生きるジーコスピリット
Jリーグ創設以降、18のタイトルを獲得した鹿島。これはJクラブ最多である。
ハード面での鹿島のレガシーが1993年に完成したカシマスタジアムなら、ソフト面はジーコイズムである。
ワールドカップの優勝こそ経験していないが、ジーコと言えば70年代後半から80年代にかけてのセレソン(ブラジル代表)の中心選手。そのテクニックは群を抜いていた。ブラジルでは“白いペレ”と呼ばれた。
そんな伝説の男が、サッカー後進国の日本にやってくると聞いて、驚かない者はいなかった。
しかも、カムバック先はJSL2部(当時)の住友金属工業蹴球団(後の鹿島アントラーズ)。Jリーグ創設を視野に入れ、住金はチームの目玉にと考えたのである。
ジーコは自分にも他人にも厳しかった。さながら、そのストイックな姿勢は、サッカーの宣教師のようだった。
鹿島OBの大野俊三は、ジーコイズムについて、こう語る。
「私たちの中に脈々と受け継がれているジーコスピリットがある。それはプロである者なら、誰もが持ち続けていないといけない心構えのようなものです。もちろん、それは監督の石井や、今の選手たちにも受け継がれています」
鹿島スタジアムの更衣室の入り口には「献身、誠実、尊重」との3原則が掲げられている。これは「ジーコスピリット」とも呼ばれている。
地域密着という理念を掲げてJリーグがスタートして25年、その優等生が鹿島である。世界屈指の強豪クラブと大舞台でほぼ互角に渡り合う日がくるとは、まるで夢のようである。(文中敬称略)
http://net.keizaikai.co.jp/archives/24089
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