2018明治安田生命J1リーグが2月23日に開幕した。昨季、J1最終節で川崎フロンターレに逆転優勝を許した鹿島アントラーズ。勝負強い鹿島らしからぬ失態であったが、選手たちの胸には「あの悔しさを忘れない」という強い想いが残った。今季こそは――。リベンジへの準備は整った。
■内田復帰で「小笠原の後継者問題」に終止符へ
昨季はまさかの結末だった。最終節でジュビロ磐田からゴールが奪えずスコアレスドロー。最後の最後で川崎フロンターレにかわされ、手の中にあったリーグ連覇を自ら取り逃してしまった。勝負強さを武器としてきた鹿島アントラーズとは思えない大失態だった。
そのため、オフの間から監督や選手だけでなくクラブ全体から「あの悔しさを忘れない」という声が聞こえてきた。クラブとしても昨季の主力をほぼすべて残留させることに成功し、さらに3連覇の中心選手だった内田篤人をドイツから呼び戻す。他にも東京ヴェルディから安西幸輝、清水エスパルスから犬飼智也らを獲得することで、ポジション内での争いが比較的少なかったセンターバック(CB)とサイドバック(SB)にも激しい競争をもたらした。
特に、内田にかかる期待は大きい。鹿島で3連覇を経験しただけでなく、日本代表でもワールドカップに2回出場し、ドイツでも7年間プレーしてきた選手が語る言葉は重い。これまでチームの中心を担ってきたのは小笠原満男だが、さすがに試合に出場する数も減り、ピッチ内外でチームをけん引するのが難しくなってきた。そこでクラブが白羽の矢を立てたのが内田。「小笠原の後継者に」とクラブの強化責任者である鈴木満常務取締役が熱烈なラブコールを送って呼び戻した。昨季終盤、勝ち切ることができなかった鹿島にとっては最高の人材を獲得できたと言えるだろう。
安西の存在も大きい。ここ数シーズン、鹿島の左SBは山本脩斗が一人で担ってきた。しかし、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)などが絡み連戦が増えると、替えの効かない山本に多くの負担がかかっていた。昨季は湘南ベルマーレから三竿雄斗を獲得したがいまひとつ力を出し切れないまま来ていた。そこで様々なポジションをこなせる安西を獲得したのだが、ここまでプレシーズンマッチだけでなく、すでに開幕したACLでも2試合で先発出場。すばらしいプレー内容で驚きを与えている。これにはSBとしての大先輩である内田も「技術がある。一個前のポジションもできるな、というボールタッチもするし、走れるし、右もできるからね。良い選手が来たな、と思います」と称賛した。
ゲームメイクができるボランチが小笠原しかいない編成なだけに、質の高いSBが揃っていることは、ビルドアップの精度にも大きく関わってくる。昨季までその役割は西大伍が担ってきたが、昨季最終節で右ひざ内側側副じん帯断裂という大ケガを負い現在はリハビリ中。さらに、本人は中盤での起用を希望しており、その希望どおりに2列目やボランチで使うためにも内田と安西の加入は、チームの幅を広げる効果が期待されている。
CBにも、昌子源や植田直通と同世代の犬飼智也が加わった。当初、クラブはベテラン選手の獲得も構想していたが、ポジション争いを促すために昌子や植田とポジションが争える選手に変更。互いが切磋琢磨してさらに選手として成長する環境を整えた。ヘディングの強さではリーグ屈指の成績を残す犬飼は鹿島らしい選手と言えるだろう。日本代表入りを目指す犬飼にとっても大きなチャレンジとなる移籍となった。
■攻撃陣最大の補強は既存選手の“成長”となるか
充実した陣容が固まった守備陣とは対象的に、攻撃陣はほとんど顔ぶれに変化はない。阪南大から山口一真を獲得したのみで大きな補強はなかった。昨季、優勝した川崎Fとは勝点72で並んだが、得失点で17もの差を付けられた。終盤に勝ちきれなかったのも、チャンスを決めきれなかったことが響いており、攻撃力アップはリーグタイトル奪還のためにも必要不可欠な事項と思われた。しかし、クラブは敢えて手を付けなかったのである。ここに実績のあるFWを連れてくれば、これから主力としてチームを担っていくことになる鈴木優磨や安部裕葵、金森健志、そして新人の山口一真の出場機会を奪うことにつながる。そこで、敢えて誰も獲得せず、彼らの成長に期待を示す編成で今季に臨む。
そして、その期待に鈴木がしっかり応えている。プレシーズンから3試合連続でゴールを決めるだけでなく、先日のACL水原三星(韓国)戦でも活躍。期待に違わぬパフォーマンスを見せている。金崎夢生、ペドロ・ジュニオールといった実績十分の選手が揃うなか、「僕たち若手が刺激を与えないといけない」と本気でポジションを奪いに行く姿勢が、良い影響をもたらしている。
昨季途中でチームを任された大岩剛監督は、初めてキャンプから指揮を執る。宮崎で行われたキャンプのなかでは攻撃力の向上に着手。相手ディフェンスの間にポジションを取る攻め方を示すと、ACLの2試合のなかでも随所に狙いどおりの崩しが見られた。1試合目の上海申花(中国)戦では25本のシュートを放ったが1-1に終わったが、その試合後に内田が「年始からチームは始動しましたけど、いい準備をしたからこういうゲームができたと思う。やっていることは間違ってない」と強調すると、その言葉どおり2試合目の水原三星戦では美しい崩しから金崎が先制点。2-1で勝利した。
今季前半はACLとリーグ戦が並行し、最大で15連戦という超過密日程が待っているが、そのために豊富な戦力を揃えた。いまだ、どのクラブも成し遂げたことのない全タイトル制覇を本気で目指す。
写真・文=田中滋