日刊鹿島アントラーズニュース

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2019年5月28日火曜日

◆J王者川崎にも身につけてほしい、 鹿島、浦和のACLにかける「熱量」(Sportiva)






二十冠 アジアの頂、世界の壁。鹿島アントラーズ激闘録 [ 田中滋 ]


 アジアチャンピオンズリーグ(ACL)のグループリーグが終了。Jリーグ勢(川崎フロンターレ、サンフレッチェ広島、鹿島アントラーズ、浦和レッズ)は、川崎以外の3チームが突破に成功。来月行なわれる決勝トーナメント1回戦(ラウンド16)に駒を進めることになった。

 21日と22日に行なわれたグループリーグ最終節(第6節)。すでにグループリーグ通過を決めている広島以外の3チームには、絶対に落とせない大一番となった。

 E組の鹿島(2位)対山東魯能(中国/1位)戦では、鹿島に引き分け以上の結果が求められていた。鹿島が敗れ、慶南FC(韓国/3位)対タクジム(マレーシア/4位)の対決で慶南が勝利すれば、両者の順位は入れ替わる――そんな状況下で試合は始まった。

 ところが開始10分。鹿島は山東に先制ゴールを許す。左CKから、ジウ(ブラジル代表、193cm)にファーサイドからヘッドで折り返しを許し、フェライニ(ベルギー代表、194cm)に真ん中で押し込まれるという、防ぎようのない高度な空中戦に屈することになった。

 すでに首位通過を決めていた山東にとって、この一戦は事実上の消化試合だった。そのうえ先制ゴールを奪うことにも成功した。というわけで、後ろに引いて守った。鹿島はボールを7割以上持ち続けることになった。

 こうなると点はむしろ入りにくくなる。だが、山東にもプライドがあるのか、後半は網を掛ける位置を上げた。鹿島にとって前半より、前に進みにくい状況になった。鹿島が危うく見え始めた。

 そこで大岩剛監督は手を打った。後半11分、永木亮太に代えて山本脩斗を投入。さらにその7分後、中村充孝に代え伊藤翔を投入した。右サイドバック(SB)同士の交代と、右サイドハーフとセンターフォワードを入れ替える戦術的交代だ。これがズバリ的中した。

「永木が悪かったわけではない」と試合後、大岩監督は語ったが、山本が登場し、ほどなくするとこの交代がプラスに作用していることが鮮明になった。クレバーなベテランの登場で、鹿島のサッカーはこれを機にグッと落ち着いた。しかも山本はSBなのにヘディングが強い。

 後半23分、山本は、レオ・シルバのCKをヘッドで擦らし、ゴール前へ変化をつけて流し込んだ。そこに現れたのが伊藤翔。グループリーグ突破に前進した待望の同点ゴールには、途中交代の2人が深く関わっていた。

 逆転弾が生まれたのはその2分後だった。得点者は伊藤。逆襲からディフェンダーのスライディングタックルを利用するように放った、技ありの浮き球シュートだった。

 繰り返すが、先発は中村だった。ケガで長期戦線離脱していた選手である。安部裕葵や遠藤康の方が選択としては無難な気がしたが、12日のヴィッセル神戸戦と、18日の松本山雅戦に36分間出場しただけの選手を、大岩監督はこの大一番に先発させた。

 選択ミスと言えばそれまでかもしれない。だが、それで勝利を飾ることができれば、一転それはチームの財産になる。中村に代わって出場した伊藤も2ゴールを挙げた。結果論とも言えるが、選択肢が増え、総合力が増したことも事実なのだ。

 後半に強い鹿島。決勝トーナメントが深まるにつれ、尻上がりにチーム力を上昇させていく鹿島の真髄を見るような試合だった。鹿島ほど使える選手が多くいるチームも珍しい。

 一方、浦和レッズの最終節は、G組で2位に並ぶ北京国安とのホーム戦だった。得失差では上回るが、北京とのアウェー戦は0-0。優先されるのは当該チーム同士の結果なので、浦和が突破する条件は鹿島より厳しかった。さらにJリーグでは3連敗中。直近の湘南ベルマーレ戦でも大逆転負けを許すなど、危うさは鹿島以上に漂っていた。

 実際、相手の北京は相当強そうに見えた。キックオフした瞬間、浦和の勝利を予想した人は少なかったはずだ。なにより目を奪われたのはブラジル代表のレナト・アウグストで、この超A級選手が躍動。ラス・パルマスなどで活躍したスペイン代表歴があるホナタン・ビエラ、そしてビジャレアルで知名度を高めたセドリック・バカンブ(コンゴ代表)がそれに連動すると、浦和の劣勢は鮮明になった。

 だが、サッカーは脈絡がないスポーツでもある。浦和はそこから3点を奪い3-0で勝利を収めた。前半13分、負傷した柏木陽介に代わって投入された長澤和輝が活躍するという偶然も重なった。浦和は選手交代を機に、今季一番とも言うべき見事なサッカーを展開。火事場の馬鹿力と言いたくなる爆発力を見せつけた。

 鹿島は前回の、そして浦和は前々回のアジアチャンピオンだ。クラブとしてこの大会の重みを心得ている様子だった。絶対に落とせない試合に傾ける、並々ならぬ熱量を感じ取ることができた。漠然とした言い方になるが、比較対象をJリーグ2連覇中の川崎に求めると、それは鮮明になるのだった。

 H組の川崎は最終戦でシドニーFC(オーストラリア)と対戦、4-0で勝利した。しかし、上海上港対蔚山現代で上海が勝利したため、ベスト16入りを果たすことができなかった。

 川崎の自力突破の目は潰えていた。しかも蔚山にとってこの一戦は事実上の消化試合。川崎と2位の座を争うライバル上海の勝利は当初から予想できた。突破の可能性は上海と直接対決した第5節終了時に、ほぼ失われていた。

 その上海戦の結果は2-2だった。後半21分に谷口彰悟のゴールで2-1としたまではよかったが、その5分後、元ブラジル代表フッキに同点ヘッドを許し、そのままタイムアップの笛を聞いた。

 目を覆ったのは2-1としてからの戦い方だ。ひと言でいえば緩い。大会の重みをわかっていないと言われても仕方のない戦いぶりだった。2-2にされた後も、Jリーグを2年連続で制したチームなら、これはまずいともう少し必死に追いかけようとするものだが、その熱は見る側に伝わってこなかった。鹿島、浦和との差をそこに見た気がした。あっさりしているというか、淡泊というか、終盤に行なわれたメンバー交代も、説得力に乏しい采配と言えた。

 国内リーグとチャンピオンズリーグ(CL)。欧州ではその優先順位はハッキリしている。国内リーグを制しても、CLでグループリーグ落ちすれば、そのシーズンの価値は激減する。監督交代にも発展する。

 ACLにはまだそこまでの重みはないとはいえ、それがサッカー界の摂理というものだ。Jリーグを2連覇しながら、ACLでは2年続けてグループリーグ落ち。川崎のファンはもっと残念がり、落ち込むべきだと思う。

 Jリーグより、タイトルが重いのはACL。ここのところをハッキリさせないと、日本のクラブサッカーは前進していかない。


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