日刊鹿島アントラーズニュース

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2020年3月14日土曜日

◆小笠原満男&ジーコの育成論・後編。 「今の選手は誰かを探してしまう」(Number)






2020KASHIMA ANTLERS[本/雑誌] / 鹿島アントラーズエフ・シー


 世界トップレベルの舞台で、10代の選手の活躍が目立つようになった。今や下部組織からトップチームへ戦力となる人材を輩出していくことが、世界のスタンダードだ。鹿島アントラーズでは、2018シーズンで現役引退した小笠原満男が、アカデミーのスタッフとして育成に目を向けている。

 今季からテクニカルアドバイザーになった小笠原と、テクニカルディレクターを務めるジーコが「鹿島アントラーズイヤーブック2020」で語り合った育成論対談の特別編集。後編は、日本とブラジルでの「プロを目指す意識」と、「1対1で仕掛ける姿勢」の差について。


小笠原 ブラジルのユース年代とアントラーズのユース年代で、ジーコさんから見て、何が違うと感じますか?

ジーコ ブラジルの場合、U-13から基礎的な体力をつけていくんだ。そこで、体も技術も上がっていくという流れがあるけれど、日本の場合は、チームに加入してから基礎体力を上げていく。もう体の完成度や筋肉量が全然違うんだよね。

小笠原 そのへんは昨年までトップチームでフィジカルコーチをやっていて、日本代表でのフィジカルコーチの経験もある里内(猛)さんや、今年からユースに伊藤(亮輔)フィジカルコーチが加わってくれたから、少しずつ変えていこうという話はしているところですね。

ジーコ まあ、僕がずっと生活してきたクラブだからフラメンゴの話になってしまうんだけれど、昔からフラメンゴは、13歳ぐらいから“技術的なレベルが違う”、“もう選手としての能力が違う”となれば、すぐに栄養士をつけて食べるものを変えて、サプリメント摂取や、学校のサポート、交通費の補助をつけていく。昔からサンパウロの下部組織やサントスではやっていたけれど、最近ではパルメイラスもやり始めた。

 そうなると、選手は「俺はただの遊びでサッカーをやっているわけじゃないんだ、もうアスリートになりつつあるんだ」と、意識が変わってくる。プロサッカー選手を目指せる環境を、クラブが作り出しているという認識になり、人としても、無理やりだけど大人になっていくんだ。

小笠原 そこが、ちょっと今のアントラーズユースの選手に足りない部分で、“本気でプロになるんだ”、“そのために努力しているんだ”という選手は、少ないように感じる。“プロになれたらいいな”という感じに見えるから。


「選手は商品」という考え方。


ジーコ フラメンゴの場合は、クラブの収入にするために2つの考えを持って選手を育成している。1つは、フラメンゴのトップへ上げるために自前の選手を育てること。もう1つは、他クラブに売却することを考えた上で育成しているということ。

 ルーカス・パケタがミランへ移籍したり、ビニシウス・ジュニオールや、最近ではヘイニエルがフラメンゴからレアル・マドリーへ移籍した。今はマテウス・トゥーレル、ぺぺ、リンコンという選手たちが、フラメンゴのトップで試合に出始めていて、彼らはもしかしたら売却した3人と同等のレベルか、それ以上の選手になりそう。選手を売却した後も、すぐにそういった力のある選手が出てくるんだ。

 トップに上げるための育成と、他クラブへ売却するための育成方法は別のものだという考えを持つことも必要になってきている。

小笠原 ブラジルに行って驚いたのは、「選手は商品」とハッキリ言っていたこと。それを見定める場が育成で、定期的にテスト生を呼んで、常に入れ替えをすることで競争力を高めていた。そういうのを見ていると、競争させる環境を作らないといけないと思ったし、とにかく試合をパッと見て目につくような選手を育成していくことが大事だと感じました。

 “アントラーズのアカデミーは、トップチームの主力選手になることを目指す場所だ”ということを、もっともっと選手やコーチ陣は意識する必要があると思います。


メッシは1対1で仕掛けている。


ジーコ 攻撃の選手であれば、まずは仕掛けていかないと話にならない。向かっていくことで、相手に怖さを与えるわけであって、その怖さは練習でしか作り上げることができない。1対1、2対2とかの練習で、どんどん相手に向かっていく姿勢を作っていかないといけない。

 最近ではGKと1対1になって、かわす場面というのは少なくなってきている。まあ、それはGKのサイズが大きくなったこともあるし、守備範囲が広くなったという部分もあるでしょう。でも、今のほとんどの選手は、GKを見た瞬間にもうシュートを打ってしまう。

小笠原 言われてみれば、たしかにそうかもしれないですね。

ジーコ 1対1になったときに武器がない。今の選手を見ていて非常に残念に思うのは、ボールを受けました、1対1の距離になっています、そこで、向かっていかないんだ。まず、行こうとはするけれど、1回ボールを止めて、誰かいないか探してしまう。じゃあたとえば、今ヨーロッパで得点王になっている選手を見れば、メッシ、C・ロナウド、アザールだったりは、ほとんどが1対1で仕掛けて得点している。

小笠原 もっと仕掛けていく姿勢はもちろん、技術的な練習をやっていく必要があるんですよね。技術的な練習でいえば、ブラジルに行ったときにfutmesa(フットメーザ、サッカー卓球)はすごくいいなと思いました。


「小さい方は自分で作りました」


ジーコ 今度、futmesaで勝負しようよ。アントラーズのクラブハウスにも大きいのと小さいのがあったよね?







小笠原 大きいのはスタッフと相談して作ったんですよ。小さい方は、自分で作りました。小さい子どもはあれぐらいの方がいいかな、と思って。

ジーコ じゃあ、ブラジルの家に持って帰ろうかな。

小笠原 ハハハ。本当に欲しいなら作りますよ。

ジーコ 孫用だよ。大きいのはうちの庭ではできないけれど、小さいやつだったら家で1対1ができるからね。作ったら詳細に写真を撮ってよ。で、製作者の名前を入れて、今度ブラジルに帰るときに持って帰ろう。あれは釘打ち? ネジ?

小笠原 初めは釘でやったんだけど、はがれやすいから、今はネジで作っています。もう4台作りましたよ。





ジーコ ルールは知っているかな? ペアで、1回の攻撃でスリータッチまで。サーブをそのまま返してはいけない。で、サーブはヘディング。まぁ、足でもいいんだけど、だんだんヒートアップすると、変なボールをサーブで蹴り始めるからね。僕のSNSでやっている番組(Canal Zico 10)のルールでは、最初だけはちゃんとやさしくすることをルールにしているよ。


遊びながら技術を高める工夫。


小笠原 日伯友好カップが行われたジーコセンターにもあったけど、その後に行ったクラブ視察でも、フラメンゴ、フルミネンセ、サンパウロ、バスコ・ダ・ガマ、パルメイラス、5つのクラブのすべてに置いてあった。子ども用もあれば、トップの練習場にもあった。あれは、楽しみながら技術向上を目指せると思う。


 ブラジルではサッカーを遊びながら技術を高めていく工夫が多くあった。ビーチにフットバレーのネットが設置されていたり、ビーチサッカーのゴールが設置されている。すごくいいことですよね。一方で日本は、サッカーができる公園や空き地が減ってきているのは残念に思います。

ジーコ ブラジルは、まずみんなが勝ちたいと思っているからね(笑)。  

小笠原 でも、何よりやっていて楽しい。ブラジル代表がfutmesaをやっている動画がアップされていたのを見たけど、本当にみんなうまいですよね。

ジーコ やっぱり個の技術は大事だよ。テクニカルディレクターという仕事の役割の内だから、近いうちにアカデミー全体を見に行くよ。もし、そこで個人に特化した練習をやっていなかったら、オガサに文句を言うからね(笑)。ああ、そうだ、里内にも言っといて!

小笠原 分かりました(笑)。


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