「高級なプレー」
スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は、柴崎岳(レガネス)の得点シーンをそう表現した。
リーガ・エスパニョーラ2部、第8節のオビエド戦で、柴崎は鮮やかなゴールを記録している。味方FWマイケル・サントスがドリブルで敵陣へ突入し、ゴールラインからほとんど一か八のボールをマイナスに折り返した時、エリア内に入ってパスを受けたのが柴崎だった。その嗅覚もさることながら、立ち塞がる密集した敵の選手に対し、巧みなコントロールで裏をとって、右足でニアに打ち込んだ。
「Con Toda Calma」
実況が「まったく落ち着き払って」と感嘆するほどの技術だった。リーガ1部であったとしても、そのビジョンを備えた高いスキルは際立つだろう。
しかしながら、今シーズンでスペイン挑戦4年目となる柴崎は、「ボランチとしての価値」が試されることになるだろう。
柴崎の攻撃面での能力の高さは、鹿島アントラーズ時代から世界のトップレベルを相手にしても遜色はなかった。クラブW杯のレアル・マドリード戦は好例だろう。
とりわけ、エリア付近で前を向いてボールを受けたときの彼は無双に近い。コントロール&キックは抜群で、ビジョンも豊富。最善の選択で、敵に最大の打撃を与えられる。クラシックな10番タイプというのだろうか。FWに近いポジションで、自由にパスしたら破格の才能の持ち主だ。
もっとも、それだけではボランチ、あるいはセンターハーフとしてはトップクラスで生き残れない。
柴崎は2017年からテネリフェ、ヘタフェ、デポルティーボ・ラ・コルーニャと3チームを渡り歩いてきた。しかし、1シーズンを通して主力選手として活躍したことはない。1試合を切り取ると、抜きん出たプレーを見せ、インパクトを残している。ヘタフェ時代には、バルサ戦でセンセーショナルなゴールを決めた。攻撃センスの輝きは、日本人MFとして圧倒的と言える。
一方で、守備面の強度に弱さが見える。たとえば、五分五分のボールの取り合いで劣勢になってしまい、ラインを突破される。また、背後を見ながらコースを切って、侵入した敵を潰すような狡猾さがない。受け身になるチームでは、起用法が難しいだろう。
その結果、これまで多くの監督に才能を評価されながらも、ボランチでの起用機会が減っていって、トップ下、サイドなどで試された後、やがてセカンドオプションとなる傾向がある。
「岳は格別な選手。サッカー選手として、オールマイティーな能力を持っている」
デポルの監督を務めたフェルナンド・バスケスはそう言って、昨シーズンの終盤戦で柴崎を重用した。しかしチームは失速し、2部B(実質3部)への降格を余儀なくされているのだ。
「チームを勝利させるボランチ」
スペインでは、チームに勝ち星をつけられるボランチが評価される。自らゴールすることも悪くないが、それよりもチームを機能させ、周りの選手の実力を発揮させる、「回し役」と言えばいいだろうか。そのためには、守備が基本となる。持ち場で負けない、破られない、そこでの精強さによって、攻撃に猶予を与えられるからだ。
今シーズン、第9節終了時点で柴崎は5試合に先発出場し、3試合に交代出場している。ゴールだけでなく、アシストも記録。現状ではレギュラーと言えるだろう。
チームも5位と、昇格に向け、まずまずの順位をキープしている。攻撃陣のメンツは2部では屈指と言える。ボルハ・バストンはエイバル時代、得点を量産したストライカーでエースとして期待される。すでに3得点のサビン・メリーノは昨シーズン、デポルで柴崎とチームメイトだった。そしてホセ・アルナイスは、バルサでもデビューを飾った大器で、2部で再起を目指している。
懸念は、失点の多さだろう。直近のサバデル戦も、圧倒的に攻めながら決め切れず、一発に沈んだ(柴崎は後半21分から途中出場)。ここまで5勝4敗と、どうも安定感がない。
そこで、柴崎は周りの選手を生かすような役割が求められる。攻守の舵を取る。まさにボランチ(ハンドル)の語源の化身となれるか――。
同じことは日本代表についても言える。11月5日には招集メンバーの発表が行なわれる予定だが、柴崎が選ばれることは間違いないだろう。実力、実績ともに十分だ。