日刊鹿島アントラーズニュース

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2021年4月24日土曜日

◆プロ分析官が注目の一戦『鹿島×神戸』を徹底展望! ダブルボランチのポジショニングが勝負の分かれ目に!?(サッカーダイジェスト)




(杉崎氏の「鹿島アントラーズ対ヴィッセル神戸」予想フォーメーション。)


スタートは両チームともに前節とほぼ同じメンバーか?


 相馬直樹新監督就任後、公式戦2連勝中と上向き調子の鹿島アントラーズと、直近のリーグ戦6試合で無敗のヴィッセル神戸が、4月24日に県立カシマサッカースタジアムで激突する。

『サッカーダイジェストWeb』では、Jリーグの各クラブでスカウティング担当を歴任し、2019年には横浜F・マリノスでチームや対戦相手を分析するアナリストとして、リーグ優勝にも貢献した杉崎健氏に、11節・鹿島対神戸の勝負のポイントを伺った。

 確かな分析眼を持つプロアナリスト界の第一人者は、注目の一戦をどう見るのか。予想布陣の解説とともに、さらに試合展開を4つの状況に分け、それぞれの見どころを語ってもらった。

――◆――◆――

●鹿島アントラーズ
今季成績(10節終了時※1試合未消化):12位 勝点11 3勝2分4敗 11得点・12失点

●ヴィッセル神戸
今季成績(10節終了時):5位 勝点19 5勝4分1敗 14得点・9失点


(両チームのマッチアップ図。)


【予想布陣解説】
 両チームともにルヴァンカップで大幅にメンバーを変えたので、おそらくお互いに前節のリーグ戦とほぼ同じメンバーで臨むだろうという予想です。

 難しいのは、すでにチームに合流している新外国人選手を起用するかどうか。ただ、前節出場した選手のパフォーマンスが悪くなかったという点を考え、スタートはそのままであろうと予想しました。

 並びを変えたのは神戸のサイドハーフ。前節の湘南ベルマーレ戦で、試合開始から35分までは初瀬亮選手が左、井上潮音選手が右でスタートしていました。しかし、その後にポジションを逆に変え、最後まで戦っていました。右サイドを務めた前半の井上選手は、ボールに絡むシーンが少なかったですし、彼の特長をあまり生かせていなかった。ですから、湘南戦とは変えて初瀬選手が右で井上選手を左に配置しています。

 また、鹿島の左サイドバックの永戸勝也選手はスピードがあり、積極的に攻撃参加をするタイプなので、神戸のサイドハーフは守備に戻る必要が多く出てくる。その場合、もともとサイドバックでもあり、守備力のある初瀬選手が右サイドをやるのがいいのではという考えです。


鹿島の自陣からの攻撃vs神戸の敵陣での守備



(鹿島が自陣でボールを保持している際のマッチアップ図。)


 まず、鹿島は自陣からのビルドアップに関して、ショートパスでいくのか、それともロングキックで打開を図ろうとするのか、どちらのスタイルで臨むかというところが1つ目のポイントです。前節の徳島ヴォルティス戦では、ロングボールが主体でした。ですから、おそらく神戸に対してもロングボールで挑む可能性が高いですが、相馬監督は状況によって使い分けができるので、神戸という相手に対してどれだけ繋いでいくのかいうところです。

 鹿島が後ろからショートパスで繋いでいく場合は、レオ・シルバ選手と三竿健斗選手のダブルボランチがどこまでサポートに下りてくるのかというところも見どころのひとつ。このふたりがセンターバックのあいだに下りた場合、その狙いとしては神戸の2トップに対して数的優位を作りたい点と、神戸のダブルボランチ、セルジ・サンペール選手と山口蛍選手をつり出したいという点があると考えています。

 それによって生まれたスペースに、図のように左サイドハーフの土居聖真選手とFWの荒木遼太郎選手が下りてボールを受けにいく。前節の試合で、GKの沖悠哉選手から1本のミドルパスを通したシーンがありましたが、鹿島はそのようにして神戸のダブルボランチの背後を狙い、そこから前進していくことが出来るチームです。

 守備側の神戸の視点で言うと、サンペール選手と山口選手の後ろは使われたくないはず。とはいえ、真ん中に居ればいいというわけではなく、下がって受けにいったL・シルバ選手と三竿選手にマークを付いていかなければ、このふたりにフリーで受けられてしまう。

 このバランスが重要で、神戸側は前線の4人が前からプレッシャーをかけるなかで、ダブルボランチはその後ろをカバーする役割がある。鹿島は真ん中に人数をかけてくるので、そこをどれだけ抑えられるかがこの局面においての見どころになってくると思います。


鹿島の敵陣での攻撃vs神戸の自陣での守備



(鹿島が敵陣でボールを保持している際のマッチアップ図。)


 鹿島が敵陣でいかにゴールを奪うかのフェーズに移った際の見どころは、神戸が引いて守った場合にどう有効なスペースを見つけるか。鹿島は、シンプルに相手の最終ラインの裏を狙うロングパスや、スルーパスをどんどん狙っていくスタイルなので、当然この試合でもそれを狙っていきたいはずです。

 その場合、守備側の神戸は最終ラインをどこに設定するかが重要。高すぎてしまうと、鹿島は背後のスペースを狙ってくるし、下げすぎるとボールを取れなくなってしまう。最終ラインをどこに設定して、裏のスペースを消すかが鍵になります。

 鹿島は裏のスペースが無い場合、次なる一手としては中央突破を狙います。サイドハーフの土居選手や白崎凌兵選手が中に入ってきて、2トップと合わせて、図のように真ん中に4人が集まる。前節でも、ここで細かくパスを繋いで、シュートまで狙っていきましたが、今回の相手は神戸。ボランチにサンペール選手と山口選手がいるので、中央が堅い相手に対してわざわざ真ん中を割って入ろうとするのかどうかです。

 中央を避けるとすると、当然サイドが起点となる。神戸の前節・湘南戦を見ると、サイドの方が有効ではないかと思います。神戸のサイドハーフ、初瀬選手と井上選手がしっかり守備に戻れていればいいのですが、このふたりは結構前から守備にいくので、相手に突破されたあとにどれだけ戻れるか。戻り切れなかった場合、個人技術に優れる鹿島にサイドに人数をかけられてしまい、かなり後手に回る可能性があります。

 これらをトータルして考えると、例えば図のようにボールを持った常本佳吾選手がどこにパスを入れるかが注目ポイント。真ん中を狙っていくのか、それとも初瀬選手と井上選手の後ろのスペースを使うため、サイドを狙うのか。これによって神戸の守備をどうやって崩そうとするのかの狙いが見えてくると思います。常本選手から白崎選手にボールが渡った場合、神戸のサイドハーフが戻り切れていない場合は山口選手がカバーに行かざるを得ない。すると真ん中のスペースが空いて、鹿島はそこを狙うことも出来てしまいます。

 また神戸のセンターバック、菊池流帆選手は自分のポジションを空けてでも、前に潰しにいくタイプ。仮にバイタルエリアにいる上田綺世選手にボールが渡り、そこにアプローチにいった時、かわされて真ん中を抜かれるということもなくはないと思います。鹿島からすると、ゴールを決められるかどうかの鍵となると思います。


神戸の自陣からの攻撃vs鹿島の敵陣での守備



(神戸が自陣でボールを保持している際のマッチアップ図。)


 今度は攻守交替で、神戸のマイボールになった時の後ろからの繋ぎです。神戸は鹿島よりもショートパスで繋ぐチーム。鹿島は相手にボールを持たれることも覚悟しなくてはなりません。

 その理由としては、図のように神戸のボランチが1枚下がってビルドアップに参加した場合、菊池選手、サンペール選手、小林友希選手の3人に対して、鹿島は荒木選手と上田選手しかいない。つまり、この3対2という状態では、なかなかボールが奪えません。神戸が自陣でボールを持った際、サンペール選手が下がるのか、下がらないのかがこの局面のポイントです。

 ただ、サンペール選手が下がった場合、後ろではボールを持てるようになりますが、そこから先に進むうえで問題が発生します。サンペール選手が下がってしまうと、真ん中には山口選手しかいなくなるので、郷家友太選手が下がって対応します。しかし、鹿島のダブルボランチがいるのでマークされるでしょう。そうなれば、シンプルにサイドへ展開するしか道がなくなってしまう。これが鹿島の狙いでもあります。

 サイドにボールがいった瞬間に、一気に襲い掛かるのが鹿島の守備の仕方です。例えば左サイド。土居選手が神戸サイドバックの山川哲史選手にアプローチにいって、サイドハーフの初瀬選手にボールを入れさせる。そこを永戸選手が潰すわけです。

 これに対し、神戸の解決策は逆サイドの酒井高徳選手にあります。足下の技術がある酒井選手が、センターバックの小林選手からボールをもらった時、そのままワンタッチで井上選手や下りてくる古橋亨梧選手にいち早く当てることができれば、そのテンポによって鹿島は物理的に守備が間に合わなくなります。

 鹿島はこれで突破されてしまうと、背後のスペースを突かれる恐怖から守備陣が下がってしまう。怖がってプレスが遅れてしまうと、今度は神戸がずっとボールを握るという展開になるのではないかと思います。このサイドの攻防では、酒井選手のフリックがひとつの引き金となり、神戸が前進できる要素となり得ます。


神戸の敵陣での攻撃vs鹿島の自陣での守備



(神戸が敵陣でボールを保持している際のマッチアップ図。)


 最後は、神戸が敵陣でどうゴールを奪うかと、鹿島の守り方です。神戸は、三浦淳寛監督になってから、相手のサイドバックやウイングバックの裏(図左下の赤い部分)を狙う傾向があります。

 ここに誰が走り込むか。シンプルに井上選手が縦に抜けるのか、FWの古橋選手が流れたり、郷家選手が2列目から飛び出したりもします。また、前節でも見られたプレーでは山口選手がここに走り込むこともある。このエリアを誰が使うかによって、神戸の狙いが見えてきます。

 当然、鹿島としては裏を狙って走ってくる選手に対して、マークに付いていかなければいけない。L・シルバ選手や三竿選手がそこに付いていくことも考えられますが、鹿島はマンマーク気味の意識が強いので、例えば古橋選手が流れていったら、センターバックの犬飼智也選手が付いていくはず。そうなれば、当然真ん中のスペースに人がいなくなりますが、ただ神戸も郷家選手しかいなくなるので、犬飼選手が付いていって潰すこともできます。

 これが例えば、山口選手が出ていった場合は、真ん中に古橋選手や郷家選手が残っているので、さすがに犬飼選手は付ききれず、ボランチの三竿選手が付いていかなければいけなくなります。そのとき鹿島が注意すべきは、図の真ん中の赤いスペースのところのバイタルエリアにL・シルバ選手しかいなくなるので、そこを使われて神戸にシュートまでいかれてしまうこと。神戸としては、サイドバックの裏に走り込んで相手の陣形を崩し、ボランチを引き出してバイタルエリアを狙うというのが、キーポイントになります。

 また、古橋選手、井上選手、山口選手など、このペナルティエリア手前の位置からシュートを打てる選手が神戸にはたくさんいます。鹿島の自陣での守備としては、常に人を見てシュートを打たせない距離感でマークし続ける必要があります。ただ、スペースは簡単に空けたくない。この矛盾をどう解決するか。神戸はバイタルエリアからのミドルシュートや、サイドを深く取ってからクロスではなくてショートパスを繋いでくることもある。両チームにとって、この2つのスペースをめぐる攻防が、見どころになると思います。


【著者プロフィール】
杉崎健(すぎざき・けん)/1983年6月9日、東京都生まれ。Jリーグの各クラブで分析を担当。2017年から2020年までは、横浜F・マリノスで、アンジェ・ポステコグルー監督の右腕として、チームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも大きく貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、プロのサッカーアナリストとして活躍している。Twitterやオンラインサロンなどでも活動中。

◇主な来歴
ヴィッセル神戸:分析担当(2014~15年)
ベガルタ仙台:分析担当(2016年)
横浜F・マリノス:アナリスト(2017年~20年)

◇主な実績
2017年:天皇杯・準優勝 
2018年:ルヴァンカップ・準優勝 
2019年:J1リーグ優勝




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