日刊鹿島アントラーズニュース

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2022年10月1日土曜日

◆「う、うまい…」絶品ハラミメシに半端ないカツカレー、至高のハム焼き…超充実“カシマのスタジアムグルメ”を本気で食べ歩いてみた(サッカー批評)






スタジアムグルメ界の王者として君臨する鹿島アントラーズ。前編のカシマサッカースタジアム副所長インタビューに続き、実際に現地で名物を食べ歩いた「実食編」をお届けする。他クラブのサポーターも羨む極上のスタジアム飯を、“飯テロ写真”と共に紹介していこう。


 私と編集部のA氏が揃ってカシマサッカースタジアムを訪れたのは、9月3日の浦和レッズ戦だった。鹿島と浦和の試合は、2013年にJリーグの20周年記念試合に選ばれたり、2016年にはチャンピオンシップで争ったりと、J屈指の好カードのひとつだ。

「なにもそんなビッグマッチにスタグル取材をぶつけなくても……」という気持ちと、「いや、そんな時だからいいのでは?」という気持ちを抱きつつ、メディアの受付が始まるキックオフ2時間前に余裕を持って間に合うように現地に到着すると、スタジアムはすでに大いに賑わっていた。

 攻守が分かれていないサッカーは、試合が始まればハーフタイムしか席を外すタイミングがない。スタグルを楽しむためには、キックオフよりも早くスタジアムに到着していなければならないが、カシマスタジアムはその点でもスタグルが充実する要素があった。

 鹿島サッカースタジアム駅というJ屈指の近さの鉄道最寄駅があるが、スタジアムを訪れる観客の移動手段の中心は車だ。東京や千葉在住のサポーターも多く、試合が近づくにつれ、鹿嶋市内はおろか、高速道路の潮来インターを出る手前から既に渋滞が発生する。

 渋滞を避けて早めにスタジアムに向かうサポーターは多く、アントラーズは開場をキックオフの3時間前に設定している。早くスタジアムに着くサポーターにとって、スタグルはこれ以上ない「試合前のお楽しみ」だ。しかも、時間帯が早ければ売店の行列も短い。


サポーターと同じ条件で食べてこそのスタグル


 この日の予定はこうだ。

 メディアの入場開始からキックオフまでの2時間で「スタグルを買い、撮影し、食べる」を可能な限り繰り返す。取材だからといって、あらかじめ用意しておいてもらうようなことは一切しない。サポーターと共に列に並び、サポーターのいる場所で食べなければ、本当のスタグルではないからだ。

 我々は謎の使命感に包まれていた。もちろん、どうやって回れば効率がよさそうか、そしてなにより、どういう順番で食べたいか、ということはばっちりシミュレート済。A氏は「昨日の夕方から何も食べてないんで、マジでいくらでも食べられます」と腹をさすっている。カメラマンの私は撮影で同スタジアムを訪れることも多いため、カシマスタジアムは初めてだというA氏に存分に食べてもらおうと考えていた。

 キックオフ後は、前半のうちにお店の方に話をうかがうことになっているため(ハーフタイムになれば販売が、後半になれば撤収作業が忙しくなるため)、スタグルを堪能する時間はキッカリ2時間。長いようだが、量が量なので時間との勝負になるだろう。我々は場外のキッチンカーに後ろ髪を引かれつつも受付に辿り着き、急いでコンコースに上がった。

 すでにサポーターが入場して1時間が経ったコンコースは、浦和戦ということもあり混雑していた。売店前の行列も、もはや試合直前と変わらないくらい長い。

「……とりあえず、近いところからにしましょう」

 我々の計画は、早くも白紙に戻った。


偶然が重なって生まれた大人気のハラミメシ


 最初に購入したのは『居酒屋ドリーム』の「ハラミメシ」。現在のカシマを代表する名物スタグルの1つだ。ハラミメシの並のみは、横にある“密売所”で行列と関係なく購入することができる。

 ハラミメシの人気爆発までには、様々な運命的な要素があった。

「ある時、名刺交換をして何分か立ち話をしただけの人から突然電話がかかってきて『今すぐ商工会に行って、カシマスタジアムでお店をやりたいです、と伝えろ!』と言われたんです」と居酒屋ドリームの代表・宮内さんは不思議そうに話す。

 なぜその人が自分に声をかけてくれたのかは聞けずじまいだったそうだ。まさに運命的な出店となったわけだが、ハラミメシは最初からメニューにあったわけではない。出店当初はヒット商品がなく、毎試合のように新メニューを出してはやめ、と試行錯誤を繰り返していたという。

 ハラミに白羽の矢が立ったのも運命的だった。銚子の実店舗では豚の1頭買いをしているそうだが、ハラミは焼こうとすると筋が多く、トリミングが面倒で冷凍の在庫がたまっていった。それが「ご飯ものがよく出るから何か欲しいな」と考えた際に、「焼くのは大変だけど煮込みをぶっかけたスタイルの丼ならば?」となり、これが当たった。しかも、ちょうど場所替えのタイミングでバックスタンド側の良い位置に店が移ったところだったという。

 そんな経緯で生まれた大人気メニューは、ご飯の上に甘い味付けで煮込んだ豚ハラミと豆腐がどっさりと乗った、かなりボリューミーなガッツリ系だ。“密売所”ではない列で購入できるミニサイズでも、十分に1人前レベルの満足度となっている。

 並はそれだけで食事の時間を終わりにしてもいいと思えるほどのボリュームがあるが、お腹を空かせていたA氏は「う、うまい……」と悶えながら一気に完食。行列を避けて密売所で買えたことで、時間的にも幸先の良い幕開けとなった。


カツの量が半端ない! 名物カツカレーに込められた思い


 次に我々が実食したのは『エミール』の「カツカレー」。鹿島神宮の参道に実店舗があるエミールは、コンコースでそこを通るたびに、どこかホッとできるような印象のお店だ。冷える日はきのこ汁(そば入りもある)も心身に染み渡るが、この日はハラミメシからのカツカレーというガッツリ系の流れに乗ることになった。

 皿の対角線を埋める立派なサイズのカツにテンションが上がらない者はいないだろう。

 A氏がハラミメシに続き食べ始めたが、ふと「半分食べます?」と聞いてきた。まさか……。

「ほら、さっきも僕だったし、まだ食べてないじゃないですか。どうぞ」

 まさか、「いくらでも食べられます」と言っていたA氏がすでに満腹だなんて、そんなわけがない。私はありがたくご厚意に甘えることにした。

 食べようとして驚いた。カツがまだまだたくさん残っていたからだ。これで1枚分、と言われても不自然ではないくらいの量がある。疑惑の目を向けられたA氏が言う。

「いや、ちゃんと半分いただきましたよ。美味しかったです。ただ、カツの量が大迫ばりに半端なかったんですよ!」

 それは本当だった。形や切り方にもよるだろうが、今回いただいたものは、撮影した画像を見ると9切れもあった。

 後でお話をうかがうと、エミールの専務・山辺さんは爽やかな笑顔でこう言った。

「昔はもっと小さかったんだけどね。来てくれる人のために、大きくなっちゃって」

 エミールは、コロナ禍初期の有観客試合再開時に、スタジアム店舗を開ける決断をしたお店のひとつだ。

 スタグルの宝庫であるカシマスタジアムにとって、新型コロナウイルスによる無観客試合や5000人の観客制限は大きな痛手だった。売店が充実しているがゆえに、観客制限がある中でそれまでと同じように出店してもらっても、限られた人数を食い合ってしまい商売にならない。前編で話をうかがったアントラーズの萩原さんは「出店してもらっても、儲からないかもしれません」と伝えたそうだが、山辺さんは「ここで売っていると、お客さんの嬉しそうな顔が見えるのよ。だからだね」とスタジアムに戻ってきた。

 わざわざ来てくれたお客さんを喜ばせたい、という気持ちは、アントラーズに勝ってもらいたい、と思うことにも通じる。

「せっかく来てくれたのに、お客さんにションボリして帰ってほしくないから」

 そんなエミールの料理は、食べれば自然とほっこりした笑顔になること間違いなしだ。カツにかかったソースがカレーと混ざってランダムに味のバランスが変わったり、ルゥに千切りキャベツを合わせたり……。食べ応えだけでなく変化も楽しみつつ完食し、我々は3品目を求めて移動した。


満腹でもイケるステーキ丼に、欧風トマトもつ煮も


「まだ食べられるなら、いっそずっとガッツリでいいんじゃないですか?」

 私はオススメを伝え、A氏に並んでもらっている間に雑感を撮影しに行った。

「ソース、どっちにするか悩みました」

 A氏が購入したのは、『和風レストラン やまびこ』の「元祖ステーキ丼(和風ソース)」だった。肉+米が続く。A氏が言った。

「原さん、先に食べていいですよ」

 私は確信した。彼は、並んでいる時間でついに満腹になったのだ、と。

「……撮影しましょうか」

 試合まで1時間を切り、さらに人が増えたコンコースで、ああでもないこうでもないとスタグルを散々撮影してから、1品を2人で分けて食べる我々は、どこからどう見ても奇怪な存在だったに違いない。

 鉄板で焼き上げられた肉は柔らかく、簡単に噛み切ることができる。ステーキにかかるソースがご飯に染みているので、肉と米のバランスを気にしながら食べる必要はない。満腹だったはずのA氏も、「うっま……」と顔をほころばせながら完食に至った。

 お腹がいっぱいになっていたとしても、外すわけにはいかないスタグルはまだまだある。

 次に向かったのは『ゆがふ』だ。ここにはカシマスタジアムの大定番・もつ煮を創意工夫によって進化させた「トマトもつ煮」がある。トマトは鉾田市で多く作られており、地元の強みを活かして独自の人気メニューに昇華させた逸品だ。

 パンがつき、チーズがかかり、イタリア料理のトリッパのような雰囲気があるが、食べてみると日本のもつ煮の延長線上にいることがわかる。A氏は「いや、これは人気出ますね。あっさりしている中にもコクがあります」とベタな食レポ風のコメントを残した。


「他では食べられないでしょ」至高のハム焼きを堪能


 気づけば空は暗くなりつつあり、キックオフまで残り約15分となっていた。

 最後は、『五浦ハム』の名物「ハム焼き」だ。

 五浦ハムは高萩市の事業者で、商工会の紹介制度の対象のホームタウン5市ではない。もともと観光物産展のタイミングで年に数回スタジアムに出店していたが、そこで大行列を目の当たりにしたアントラーズ側が「ぜひ毎回出してほしい」と打診。五浦ハムはアントラーズのスポンサーとなり、通年で出店することになった。

『ROCK IN JAPAN』をはじめとした“フェス飯”としても強く支持されているハム焼きは、歯ごたえはあるが固くはなく、塩気とスパイスを上回るほどの強烈な肉の旨味をダイレクトに味わえる。社長の小泉さんは「これはスタジアムやフェスで食べるもの。他では食べられないでしょ」と“ハレの日”の特別な食べ物としてのパワーに自信を見せる。

 特許も取得している独自製法の美味しすぎるハム焼きは、もつ煮がそうであったように他クラブのサポーターに広く知られるまで時間はかからなかった。この日はアウェイゴール裏のコンコースにも出店し、浦和サポーターが大喜びで買って行った。「アウェイスタンドに2000人いれば1000本出る」という驚異の人気ぶりだ。小泉社長は言う。

「サッカーのお客さんは全国各地にいて、PRしてくれる。ありがたいよ」

 コロナ禍でスタジアムにもフェスにも出店できなかった時、それまで非日常空間でハム焼きを食べていた観客たちが、商品を買いに来てくれた。そういえば他のお店のみなさんも、同様のエピソードを語っていた。非日常で生まれた繋がりが、苦しい時期の支えになり、それぞれが日常を取り戻していく力になった。


スタジアムで味わう“非日常”の幸福


 居酒屋ドリームの宮内さんはこう言っていた。

「コロナ禍で通販を始めたんですけど、アントラーズのサポーターをはじめ、たくさんの方が買ってくれたんです。最近になって通販も落ち着いてきて、それだけ日常が戻ってきたというか、ここ(カシマスタジアム)で食べる喜びを感じてもらえているんだな、と思います」

 日常があるからこそ非日常は特別なものとして際立ち、非日常があるから日常を頑張ることができる。コロナ禍以前は当たり前だったそのサイクルが、再び機能しつつあるのかもしれない。

 この日の入場者数は2万664人。賑わいは着実に戻ってきている。

 それでも、すべてが元に戻ったわけではない。アントラーズの萩原さんは言う。

「売上を見ると、マックスの値は戻ってきています。でも、私たちはミニマムのところを見ます。そこを見るとまだなんです。やっぱり、そこが戻ってこないとダメなんです」

 スタジアムに足を運ぶきっかけは、食欲でも構わない。我々がこの日さまざまなグルメを堪能したように、非日常を味わう幸せは、何物にも代え難いものなのだから。


◆「う、うまい…」絶品ハラミメシに半端ないカツカレー、至高のハム焼き…超充実“カシマのスタジアムグルメ”を本気で食べ歩いてみた(サッカー批評)





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