【識者コラム】エクアドル戦のプレーから見えた、上田綺世の確かな変化
カタール・ワールドカップ(W杯)でベスト8以上を目指す日本代表が、グループリーグでドイツ、コスタリカ、スペインと戦うにあたり大きな課題の1つになっているのが、森保一監督が1トップにどういった選手を起用するかということだ。前回大会の主力だったFW大迫勇也(ヴィッセル神戸)が、今でも待望される理由は前線で核になる選手がいまだに固まっていないからにほかならない。
9月の欧州遠征でのアメリカ戦では、FW前田大然(セルティック)が守備のスイッチ役として見事な働きをした。攻撃面では囮役になるケースが多く、前田に得点はなかったが、1つの解決策を提示できた試合にはなった。エクアドル戦は1トップでスタメン起用されたFW古橋亨梧(セルティック)が、MF南野拓実(ASモナコ)と縦関係からゴールを狙おうとしたが、相手の強度に押されてうまく機能できなかった。
後半の頭から投入されたFW上田綺世(セルクル・ブルージュ)は相手のディフェンスを背負う動きをしながら、ボランチのMF田中碧(デュッセルドルフ)からタイミング良く縦パスを引き出したり、ポストプレーでMF三笘薫(ブライトン)のクロスから南野のシュートをお膳立てするなど、前線の起点として効果を発揮した。
そして左にMF相馬勇紀(名古屋グランパス)、トップ下にMF鎌田大地(フランクフルト)が投入されてから攻撃の加速力が上がり、鎌田を起点に相馬からのクロスを上田がヘッドで合わせる惜しいシーンもあった。FW伊東純也(スタッド・ランス)と3-4-1-2の2トップを組んでからも前線で粘強く手前につないで、MF堂安律(フライブルク)のシュートを引き出すなど、非常に見どころがあった。
これまで上田といえば、動き出しで勝負するプレーが目に付いたが、その武器は武器として、確実にポストプレーや相手ディフェンスを引き付けて、周りの選手にスペースメイクする意識がエクアドル戦の45分でも見て取れた。
「あのインテンシティーのなかで、今日みたいなフィジカルも技術もある相手で、押し込まれるというかボールを握れない時間が長い試合というのは十分に想定されるなかで、もっとボールを収めたりとか、チームの時間を作ることは必要だと思う。そういう点で言うとまだまだ貢献できるパフォーマンスだったとは思えないです」
試合後、上田はそう厳しく自己分析した。自分が点を取るかだけでなく、いかに周りの特長を引き出すプレーを強く意識しているからこそ、そうした言葉が出るのだろう。慣れ親しんだ鹿島アントラーズでの環境から飛び出し、チームメイトとの意思の疎通や阿吽の呼吸が通用しない異国の地での環境に身を置くなかで、変化があったことは確かだ。本人はそのまま鹿島に残った場合と外に出た場合で、どっちがより成長につながるかの正解はないことを踏まえながら、こう語る。
「自分のゴールがチームの結果につながる」試合後に漏らした責任感
「日本にいた頃より高いインテンシティーでできている分、戦うところ、スピード感というのは遅れを取ることはなかったかなと思います。その中で圧倒していく力、ボールをキープする、シュートまで持ち込むというのは惜しいシーンもありましたけど、もっともっと回数を増やしていかないといけない。
何がベストかはその状況に寄りますけど、最終的に点が入ればいい。僕が自分で強引に持っていくのもそうだし、粘って味方につないでというのもそうですけど、やっぱりもっと自分のシュートも含めてチャンスメイクできるようなパフォーマンスをしたい」
そうした意識が高まったからといって、いきなり上田が大迫に化けるわけではない。上田には上田の特長があるが、A代表の1トップを任せるためのベースは着実に上がっている。問題はそこにゴールという結果を加えられるかどうかだ。
「いろんな角度から求められていることがあると思います。僕自身もまだ足りない部分もあるので、そこは修正しながら、選手としてのキャリアも含めて、まだまだ成長して行かないと。日本代表として戦っていくうえで、自分のゴールがチームの結果につながるので。自分なりに進化していかないといけないのかなと思っています」
自分のゴールがチームの結果になる。ストライカーというのはある種のエゴイストであることが求められる。しかし、現代サッカーにおいてはまずやるべき仕事があって、最終的に自分のゴールとして還元されていくというのも1つの考え方だ。
これまで、鹿島では多くの得点を記録しながら、代表ではなぜかゴールという結果を導き出せなかった。しかし、その手がかりは掴みかけているように見て取れた。
「代表で求められている動き出しやそのセオリーがもちろんあって、それを全うしながらもチャンスとなった瞬間に自分のオリジナリティーを出せるような動き出しを心がけてます。まだ自分の特長があまり伝わってないところもあるので、チャンスの時にどのような動きをするのか、周りに伝わるようなことは意識しています」
ひたすら相手のディフェンスと駆け引きしながら、タイミング良く動き出せば、阿吽の呼吸でパスが出てくる。そうしたシチュエーションでこそ輝けるストライカーという認識があった。しかし、環境を変えたことで確かな変化が起きている。上田の成長がそのまま“1トップ問題”の解決になるかは分からないが、そうした変化を森保監督も感じ取っていれば、過密日程となるW杯でスタメン起用されることはイメージできる。
最終的にFW枠は多くて4枚と想定できる。怪我により欧州遠征で不在だったFW浅野拓磨(ボーフム)の状態も気になるが、最終的に大迫が復帰するのか、前田や古橋、アメリカ戦の後半に起用されたFW町野修斗(湘南ベルマーレ)も含めてどのような編成になるかは分からないが、上田が残り1か月でパフォーマンスを高めていければ、重要な戦力としてメンバー入りを果たす。そう予感させたエクアドル戦だった。
◆上田綺世がベルギー移籍後に「変身」 W杯でスタメン抜擢の可能性も十分、森保ジャパン“1トップ起用”を考察(FOOTBALLZONE)