日刊鹿島アントラーズニュース

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2023年5月7日日曜日

◆上田綺世が語るベルギーで成功した理由 常に動き出し続ける→監督が「綺世を見ろ」→チームで個性を確立した(Sportiva)



上田綺世


上田綺世(サークル・ブルージュ)インタビュー後編


 日本とヨーロッパの「サッカー文化」の違いとは──。そのような話題に切り替わると、上田綺世は堰(せき)を切ったように語り始めた。

 続けて、監督と選手の関係性についても、持論は止まらない。今シーズン途中、指揮官が交代した直後にスタメン落ちを経験した時も、いろいろ思うことがあったのだろう。

 そして現在、水を得た魚のようにゴールラッシュを続ける彼が、ベルギーで得たものとは......。

   ※   ※   ※   ※   ※

── 上田選手がインタビュー前編で話された「サッカーの本質」という部分は、日本代表がこの先のワールドカップでさらに上を目指す時、重要なポイントになる気がします。

「こないだ(3月)の代表戦で(堂安)律が『Jリーグっぽい(サッカーをしてしまった)』ということを言っていたじゃないですか? あとは(鎌田)大地くんも(似たようなことを言っていた)。

 別に彼らは監督批判をしたいわけじゃなくて、そういう『文化の違い』を言いたかったんじゃないかと思います。うまい(テクニックがある)ことが、すべてにおいていいわけでもない。

 あとはやっぱり、チームのシステムが(日本とヨーロッパでは)全然違う。本来はいい選手がいれば、戦術がなくてもそれなりのサッカーの形になるじゃないですか。原理原則に従えば、たとえば(守備の時に)ゴール付近では中を切るのが当たり前で『こういうポジションになるよね』というセオリーがあると思うんです。

 こっち(ベルギー)では、そのルールを監督が作れる。監督がこうしろって言ったらこうだし。これは別にネガティブなことではない。それぞれのやるべきことやポジショニングが決まってくるので、選手はそれに合わせればいいんです。だから試合中、無駄に考えなくていいですよね。自分のなかにタスクがあるので、ある意味ではやりやすい。

 まぁ、無茶な要求もあります(笑)。一度スプリントで戻ってきたあと、さらにスプリントで出て行って、それを30メートル(のスプリント)3本やれ......みたいな。『いやいや、できないでしょ』って思うんですけど、それでも言われることで自分のやることが明確になります。

 ヨーロッパでは選手が従順というか、監督が『やれ』と言ったら無理でもスプリントをする。まずはそれが評価されて、さらにプラスアルファをどれだけ乗せられるかだと思います。

 日本人の感覚からすると『戦術がない』『色がない』と言われるんですけど、実際はそういうわけじゃない。監督がその部分にどのくらいこだわって、強く言える環境があるかということ。こっちでは監督がルール。監督次第でサッカーがガラッと変わるんです」

── 上田選手もベルギーリーグ第9節の終了後、監督交代を経験しました。

「僕にとっては大きな経験でした。でも(前監督の)コーチをやっていた人が(後任として)監督になったので、サッカーがガラっと変わったわけではないですけど。ただ、攻撃的なところは変わったので、最初はそこに苦労しました」

── 監督交代後、リーグ戦では2試合続けて先発から外れました。その時はどういう心境でしたか?

「僕はあまり落ち込むタイプじゃないですし、監督が代わって出られなくなることもよくあるので、ベンチで見ながら『なんで俺を使わないんだろうな......』とは思っていました。

 もともと前監督の時、いきなりワントップからツートップになって勝てなくて。僕のポジションも変わって、ツートップだったのがワントップになり、シャドーや10番もやって......だから試合に出られないのを言い訳にはできないなと思っていて。

 仮に違うポジションをやるにしても、ずっとそこのポジションをやってきた選手と(ポジション争いで)戦わないといけないわけじゃないですか。僕はずっとワントップ、ツートップをやってきたけど、ポジションを変えられたからといってもそのなかで自分にしかできないオリジナルの表現がある。それが評価されれば試合に出られるし、結果につながればなおいい。

 その(先発から外れた)2試合も含めて、僕がやったことのない一個下がったポジションでどういうふうにアピールすれば自分の需要を引き出せるか、ということを常に試行錯誤しながらもがいていました。でも、そういう状態は嫌いじゃないので(笑)。楽しかったですね」

── 上田選手が一番前のポジションで起用されないことにファンはモヤモヤしていたと思いますが、本人からすると実際にはそうではなかった?

「はい。まぁ、これがサイドバックとかだったらさすがに......ですけど(笑)。文句が言えるほどワントップで僕が成り立つかって言ったら、そうでもないので。だから自分の新しい選択肢としてはアリかなと思うんです」

── そんな経験を経て、現在得点ランキング3位です(4月19日取材時)。このような結果は開幕前に思い描いていたとおりなのか、それともまだ足りないといった感じでしょうか?

「今となっては、もっとやれたなと。決めるチャンスもありましたし。もっと取れたという思いはありますけど、シーズンが始まる前は不安も山ほどありましたので、シーズン前から考えたらそれなりにはやれたというか。満足はできないですけど、及第点かなと思います」

── 直近12試合のうち8試合でゴールを決め、特にここ7試合では7得点。好調の要因はどこにありますか?

「ありきたりな言葉になりますけど、『積み重ね』かなぁ。ここに来た時は言葉もしゃべれなかったですし、自分を知っている味方もいなくて......。自分がこの環境で何が一番優れているのか、何をどう評価されているのかもわからない状態で、『どうやって試合に出て、みんなに認められるんだろう?』って思っていました。

 自分の武器である動き出しやシュートなど、日本でいろいろ培ってきたなかで、『どれが通用するのか』という葛藤はありました。ただ、味方から(パスが)出てこなくても、動き出しは続けないといけないし。

 それで最初の4〜5試合をやってみると、『自分の動き出しの質は周りより抜けているな』という手応えを感じるようになった。なのでこれを続けていけば、いつかは(味方からパスが)出てくるかもしれないなって思うようになりました。

 あきらめず、常に動き出し続ける......。『あきらめずに』というとちょっと大げさですけど、自分のパフォーマンスを表現し続けることを約1年間、続けてきました。

 そうすると、たとえばミーティングで自分の動き出しのシーンが(映像で)出てきて、監督がチームメイトに『なぜ、ここで綺世を使わなかった?』と。そういう形で(自分の動き出しのシーンが)何度も出てくるわけですよ。(上田にパスを出さなかった選手に対して)毎週のように(ミーティングで動き出しの映像が)使われて、監督が『綺世を見ろ』と。

 そうすると、だんだん味方も(自分の動きを)見るようになって、そこから1点、2点と取れて、すると自分の動き出しに対する信頼も得るようになって......。自分のオリジナリティを継続して出し続けることによって、チームで自分の個性を確立できた。その結果だと思います」

── フィニッシュの精度や動き出しという、これまで得意としていた部分がベルギーに来たことでさらに伸びた感覚はありますか?

「伸びたかどうかはわからないですけど、この強度のなかで発揮し続けるのは、やっぱり最初はできなかった。なので、質は上がったのかもしれないです」

── 最後に、今後の目標を教えてください。

「僕はあまり目標を立てて生活するタイプではなくて(笑)。今シーズンは何点取りたいとか、具体的にどこのクラブに移籍したいとかもない。ただ、現状を常によりよくして、ちょっと前の自分よりも成長していきたい。

『後退しない』という意識で常にやっているので、どこまで自分が行けるのか、それを楽しみながら進みたいと思っています。どこまで自分がステップアップしていけるのか──キャリア単位で楽しんでいけたらいいなと」

(了)




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