札幌戦で全3得点に絡む
チームを勝たせる選手へ、またひとつランクアップした。
8月6日、3週間ぶりのJリーグとなった鹿島は、ホームに札幌を迎えた。この試合で、ひときわ輝いたのが右サイドハーフに入った樋口雄太だ。
鹿島のキックオフから、わずか12秒後。一度もボールを奪われないまま、FW鈴木優磨のスルーパスに走り込んだ樋口が冷静にゴールに蹴り込んだ。
得点直後、少し驚いたような表情で、チームメイトに祝福されているのが印象的だったが、電光石火の先制弾を、こう振り返っている。
「立ち上がりだったので、特に気負うこともなく、相手ゴールキーパーの逆をつけたらいいなと考えながら、シュートしました。素晴らしい展開からのゴールでしたし、あんなにきれいに決まるとは思わなかったです(笑)」
そして、次のように言葉をつなぐ。
「流れのなかからゴールを奪っていこうというのは、チームとしてずっと取り組んでいますし、試合が空いたこの3週間も(ボールの動かし方やスペースへの飛び出しなど)みんなで共有しながら練習してきました。
それがひとつの結果として表われたのは本当に良かったです。もちろん、まだまだプレーの精度を高めなければいけないけれど、ちょっとずつ成長しているなという手応えを感じています」
運動量が豊富で、あらゆる局面に顔を出し、チームの勝利に貢献したいと語る樋口が絡んだゴールショーは、さらに続く。FKやCKといったセットプレーのキッカーを任されているが、その本領が存分に発揮された。15分の右CKでは植田直通に、67分の左CKでは鈴木にピンポイントのボールを供給。ともに豪快なヘッド弾につなげた。
「どこに、どんなボールを蹴るか、キックの直前に決めていますが、常に意識しているのはゴール前に走り込む選手にとって合わせやすいボールであることです。結果が出ていることもあって、お互いに、良い関係性を築けているんじゃないかと感じています」
セットプレーの名手から繰り出される良質のボールが、鹿島にとって貴重な得点源になっているのは数字上でも明らか。J1リーグのアシストランキングでは、第22節を終了した時点で、11アシストを記録する樋口がトップに立つ。
「試合の内容が良くなくても、セットプレー一発で点が取れれば、すごく大きい。自分の役割としては、できるだけ良いボールをゴール前に供給できるよう、そこに集中するだけです」
鳥栖のアカデミー出身の樋口は、鹿屋体育大を経て、2019年から古巣に帰還し、プロのキャリアをスタートさせた。昨年、慣れ親しんだ鳥栖を離れ、さらなる成長を期して新天地に鹿島を選んだ。加入1年目からJリーグの開幕スタメンに名を連ねるなど、瞬く間にチームにフィットした。
「試合前は結構、緊張してしまうほうで(苦笑)、鹿島で2年目を迎え、いろいろな責任やプレッシャーを感じています。でも、それをプラスにとらえられるようになった。今、すごく良い心理状態でプレーできています」
J1リーグは残り12試合。首位・神戸と5位・鹿島の勝点差は8ポイント。逆転優勝への道のりはたしかに厳しいが、その可能性がまったくないわけではない。チームを勝たせる樋口の“右足”が猛追の重要なカギを握っている。
取材・文●小室功(オフィス・プリマベーラ)
◆「すごく良い心理状態」樋口雄太のセットプレーが鹿島の得点源に。アシストランクトップに立つ名手の右足が猛追のカギ(サッカーダイジェスト)