[6.1 J1第17節 鹿島 3-2 横浜FM 国立]
鹿島アントラーズで開幕スタメンを勝ち取り、序盤戦から結果を残し続けてきた大卒ルーキーSB濃野公人が、52860人の大観衆が見守る国立競技場で躍動した。献身的な上下動で多くのチャンスに絡むだけでなく、1-1で迎えた後半29分には果敢な攻撃参加から逆転弾。今季の得点数は早くも新人DF史上最多の「5」に乗せ、名門復活に向けて首位を争うチームの好調を牽引している。
1-1で迎えた後半29分、左サイドに開いたFW鈴木優磨がMF知念慶に縦パスを預けると、濃野は一気に前へと出ていった。「優磨くんが知念くんに渡して、知念くんが前を向いた瞬間、自分のマークのサイドハーフの選手がちょっと遅れていたので、これは行けるなと」。知念からの斜めのパスをペナルティエリア右で受けると、果敢に右足一閃。強烈なシュートはDF永戸勝也に当たったが、勢いを失わないままネットに突き刺さった。
「チームとしての形が見えたワンシーン。左でタメを作って、右にボールが流れてきてというのが鹿島の型としてある。自分としては前のスペースにどんどん出て行けという話をもらっていた中、名古くん(MF名古新太郎)がダイアゴナルに走って相手DFを引きつけてくれて、僕の前にスペースが空いた。僕は信じて入って行って、思い切り振ったら入ったので良かった」(濃野)
自身の得点シーンを振り返る際には、後半から移った右サイドハーフで“おとり役”を担ったMF名古新太郎への感謝も口にした濃野。その言葉が出てくるのも周りがはっきりと見えているからこそだが、そうした状況判断力は0-1の後半12分に決まった同点ゴールのシーンにも表れていた。
同点ゴールの場面はMF佐野海舟の縦パスを内側寄りで濃野が受け、フリックしたボールを大外の名古に私たのが起点。そこからのクロスボールがFWチャヴリッチを経由し、ファーサイドのFW鈴木優磨に届いていた。「監督からも内と外の使い分けは口酸っぱく言われているし、同レーンに並ばないというのもずっと言われている。サイドハーフとの関係性は活かし合うコンビネーションが増えてきていると思う」(濃野)。そんな手応えが結果に結びついた逆転劇だった。
そんな濃野は早くも今季5ゴール目。DF起用の選手としては超異例の年間2桁ゴールが視野に入ってきたほか、新人DFとしては2004年の岩政大樹氏(当時鹿島)の4ゴールを上回る歴代最多記録を打ち立てた。
「こうやって目に見える結果を出せているのは自分としてはいいのかなと思っているし、シーズン始まる前に想像していたよりもはるかにいい結果を得られているのは間違いないので、それは自信につなげていきたい」。大津高時代まではアタッカーとしてプレー。育成年代から磨き上げてきた得点力には、プロの舞台でも確かな手応えを感じられているようだ。
ところが濃野は表情を引き締めつつ、さらに言葉を続けた。
「でも今回のU-23代表にも入っていないし、目に見える結果だけじゃなく、目に見えない結果にもフォーカスしていかないと上には行けないんだなとあらためて感じている。目に見える結果は上手く出せているかもしれないけど、もっともっと選手としての質を上げられる部分はたくさんあると思う」
2002年生まれの濃野はパリ五輪の出場資格を持つ世代だが、ここまで大岩ジャパンの招集歴はなし。J1リーグで結果を出し続けているにもかかわらず、本大会メンバー発表前最後の活動として週明けから始動する6月のアメリカ遠征にも選出されておらず、大学時代から目標に掲げてきたパリ五輪行きは厳しい状況となっている。
もっとも濃野はこの現状を冷静に受け止め、自身の成長に繋げようとしている。取り組んでいるのは守備面のレベルアップだ。
「守備の不安定さは間違いなく僕の弱みだと思うし、日本を代表して世界と戦っていくことに関しては力不足なのかなと。そこに不安定さを持っている選手はそういう舞台に自信を持って送り出せないんだなというのを感じている。だからといってそこに気負う必要があるかというと、そうじゃないのかもしれないけど、もっともっと上に行くという観点から行くと、そこにもしっかり目を向けてやっていかないといけないと思う」
これまでもJリーグのウインガーとのマッチアップを通じて守備面の成長は突き詰めてきた。その結果、試合を通じて安定的なパフォーマンスを出せるようになっており、「強度に慣れてきて力を使うべきところがわかってきたし、守備意識は間違いなくシーズン始まった当初より良くなって、自分のところからやられないことも考えながらプレーできている。むやみやたらに上がっていたところもちょっとバランスを見たりという頭にもなれている」という手応えも得つつある。
この日も攻撃参加を繰り返す一方でFW井上健太、FW宮市亮という横浜FMのスピード自慢のウインガーを制圧。「前にあれだけ出て行くぶん、スペースを空けているのも自覚しているし、それを運動量でカバーしないといけないというのもすごく感じている。攻撃から守備の移り変わり、切り替えは意識している」。しかしそれでもなお、まだまだレベルアップの余地はあると前向きに捉えているようだ。
目指すはサイドで数的不利になっても、攻守を安心して任されるような選手になることだ。
「悲観的になっているわけではないけど、もっともっと上に行くにはそこを磨いていかないといけない。どの環境にも知念くん、(佐野)海舟くんがいるわけではないし、一人で守れて一人で攻められる人じゃないと日の丸は背負えない」
いまはボランチの知念と佐野のカバーリング力も含めたチームバランスが堅調だが、いずれはそれすらも必要としない境地へ。そのためにもまずは「これを続けることが一番。サッカーにおいて継続することが一番難しいので、できていることをしっかり続けて、それプラス少しずつ積み上げをしていくことがこれからの鹿島には必要」と地に足をつける濃野。チームとともに、目の前の試合に全ての力を注いでいく構えだ。
(取材・文 竹内達也)
◆ルーキーSBが早くも5ゴール目!! J1で大活躍もパリ世代招集歴なし「目に見える結果だけじゃなく…」鹿島DF濃野公人が目指す境地(ゲキサカ)