神戸のキャプテン・山口蛍も「鈴木選手がいなかったのは僕たちにとってすごく大きかった。やっぱり彼がいるいないでこれだけ鹿島っていうチームは変わるんだなと改めて思いました」としみじみ語っていた。
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「彼がいるいないか鹿島というチームはこれだけ変わるんだ」と神戸主将・山口も実感。優磨不在の鹿島はなぜ逆転負けしたのか
6月26日のガンバ大阪との上位対決を勝ち切れず、3戦連続ドローと足踏み状態の鹿島アントラーズ。首位を走る町田ゼルビアを凌駕していくためにも、6月30日のヴィッセル神戸との一大決戦をモノにしたかった。
しかしながら、今回はエース・鈴木優磨が累積警告で出場停止。ガンバ戦後に植田直通が「誰が出てもしっかり勝てるチームを見せていかないといけない」と語気を強めたように、中核選手が抜けた時こそ、真価が問われるのは確かだ。
ランコ・ポポヴィッチ監督は5月以降、スーパーサブと位置づけていたチャヴリッチを鈴木が担っている最前線に抜擢。右MFもこのところ出ずっぱりだった師岡柊生に代えて樋口雄太を起用し、攻撃の活性化を図ろうとした。
開始早々の8分に名古新太郎の右CKを、いきなりそのチャヴリッチが頭で叩き込んで先制点を奪った鹿島。試合の入りとしては最高だった。が、5月19日に敵地で苦杯を喫した昨季王者がそのまま黙っているはずがない。彼らは”鈴木優磨不在の弱点”を突くような戦い方を仕掛けてきたのだ。
■山口蛍が感じた「鈴木優磨の不在」
「鹿島の外国人FW(チャヴリッチ)が走れない、ちょっと強度が足りないっていうのは分かっていたので、しっかり後ろから回すというのが狙いだった。そうなると相手のプレスもハマらず、焦れていく。そうやって相手を引き出しながら間で受けて、そこから展開していく形を見せたかった」と武藤嘉紀はしたたかさをのぞかせたが、まさに鹿島はその術中にハマり、前半18分に安西幸輝の背後に飛び出した武藤に裏を取られて同点弾を浴びる形になってしまった。
そこからはゲームコントロールもできなくなり、主導権を握られた。神戸のキャプテン・山口蛍も「鈴木選手がいなかったのは僕たちにとってすごく大きかった。やっぱり彼がいるいないでこれだけ鹿島っていうチームは変わるんだなと改めて思いました」としみじみ語っていた。
山口が続けて語ったことだが、やはり鈴木優磨は前線で起点を作れるし、チャンスメークもできるし、決定的な仕事を全て担っている存在だ。「正直、彼がいないゴール前の怖さはほとんどなかった」とも発言していたが、鹿島としては優磨不在の戦い方を見出しきれなかった。そのまま前半38分に右CKからマテウス・トゥーレルに逆転弾を決められるという最悪の流れを余儀なくされたのだ。
「優磨が抜けて、チャッキーを入れたからといって、全く同じことはできない。優磨の特徴はいいタイミングでライン間に落ちてきてボールを収めて、周りの選手が背後に動くのを生かすというプレースタイルです。
チャッキーは背後に抜けるのが特徴の選手ですから、チャッキー以外の選手がいかにライン間でボールを受けてタメを作るかが今日の試合では必要でしたが、それが前半うまくいかなかった」とポポヴィッチ監督も問題点をズバリ指摘していたが、彼らは最適解を見出しきれずに流れを持っていかれてしまった。
■武藤嘉紀「今日は完璧な試合運びだった」
そうなると昨季王者の試合巧者ぶりがより発揮される。後半は鹿島も藤井智也ら持てる駒を投入し、巻き返しを図り、やや内容的にも改善されたが、またも武藤が右サイドを攻略し、最終的には相手エース・大迫勇也がニアの狭いところで右足を一閃。これがいったんはオフサイドと判定されたが、VARで覆り、3点目が生まれ、この時点で勝負ありという状況になってしまった。
「今日は完璧な試合運びだったし、今季のベストゲームだったんじゃないか」と4ゴールに絡んだ武藤が満面の笑みを浮かべていた通り、鹿島は神戸に力負けした印象だ。
「鈴木優磨依存」という昨季からの課題を克服しつつあったはずだったが、大一番で再び問題点がクローズアップされることになった鹿島。何とか2位を死守したものの、町田との勝ち点差を5に広げられた彼らがここからどう這い上がっていくのか――。そこが大きな注目点と言っていい。
(取材・文/元川悦子)
(後編へ続く)
佐野海舟移籍で選手層アップは必須――夏場以降、いかにして首位・町田を追走していくのか
6月は結局、1勝3分1敗と思うように勝ち点を積み上げられなかった2位・鹿島アントラーズ。町田も2勝2分1敗と足踏みしたことで、まだ首位を捉えられる位置にはいるものの、自分たちの戦いを突き詰めていかなければ、2016年以来のJ1タイトルには手が届かないだろう。
7月はコンサドーレ札幌、横浜F・マリノス、FC東京との3試合が控えているが、このタイミングで佐野海舟のドイツ1部・マインツ移籍が本決まりになる見通しで、1日にはチームを離脱が発表された。ゆえに、ボランチのテコ入れに可及的速やかに着手しなければならない。ご存じの通り、今季は知念慶のコンバートによってここまで何とかバランスを保ってきたが、彼1人では足りないのだ。
30日のヴィッセル神戸戦では1-3になった後半20分から出てきたキャプテン・柴崎岳が右サイドを駆け上がる濃野公人目がけて一発で決定機になるロングパスを出したが、ああいう仕事ができるのはやはり彼だ。
ランコ・ポポヴィッチ監督は守備強度や推進力を重んじるため、ケガから復帰して1か月が経つ柴崎の先発起用を躊躇している様子が見受けられるが、ここからはそれも考えていく必要もありそうだ。
■夏場に懸念されるフル稼働
神戸戦で直面した「鈴木優磨依存」に関しても、解決策を見出していかなければならないだろう。札幌戦から彼は復帰するものの、夏場の厳しい環境下ではつねにフル稼働できるとは限らない。
そこで、チャヴリッチが最前線に陣取る機会も増えるだろうが、神戸戦のようにライン間をうまく使った攻めを仕掛けられなければ、同じ轍を踏むことにもなりかねない。これから対峙する相手も神戸の戦い方を分析・研究し、鹿島用にアレンジしてくる可能性もあるだけに、もっとブラッシュアップすべきだろう。
2列目に関しても、今は師岡柊生、名古新太郎、仲間隼斗という組み合わせが基本になっているものの、彼らがその役割を十分にこなせないのなら、違った選手の起用も模索していくべきなのかもしれない。神戸戦でいい仕事を見せた樋口雄太の抜擢も一案かもしれない。とにかく今の鹿島は2列目の得点力が低すぎる。そこも含め、改善していくことが、後半戦の浮上のポイントになるはずだ。
■夏の補強の動向
クラブ側ももちろん7月8日からオープンする夏の移籍市場で補強を考えているはず。現状、植田直通と関川郁万しかいないと言っても過言ではない手薄なCBはもちろんのこと、SB、ボランチ、FWのところは足りない印象が強い。そのあたりを的確に補える人材が数人取れれば理想的だ。
だが、かつてのように「鹿島へ行って代表を目指したい」と思う選手が減っているのは気がかりだ。同じJ1トップクラブからオファーが来た場合、今の若い世代は都心に近く、環境面にも恵まれている川崎フロンターレや浦和レッズ、横浜、町田あたりを選ぶ傾向が強まっている印象もある。
その現実を直視しつつ、鹿島のフロントはどんなアクションを起こすのか。そこも含めて、7月の動向を注視していきたいものである。
(取材・文/元川悦子)