日刊鹿島アントラーズニュース

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2016年6月28日火曜日

◆常勝鹿島を取り戻した強化部長の喝。 1stステージ優勝で感じた懐かしさ。(Number)


http://number.bunshun.jp/articles/-/825942

27分、柴崎岳が蹴ったCKに山本脩斗がヘディングで合わせ、先制点を決めた。練習の成果が出たセットプレーだった。

 歓喜の瞬間から遡ること、約2カ月半前のお話。4月4日、鹿島アントラーズのクラブハウスで、たまたま鈴木満・常務取締役強化部長とすれ違った。アウェーでの川崎フロンターレ戦から2日後のことだったから、こう声をかけた。

 一昨日、惜しかったですね。

 スコアは1ー1のドローだったものの、内容面では川崎を圧倒し、決定機の数でも上回った。だから、きっと手応えを得ているはず。ポジティブな言葉が聞けるはず、と思っていた。ところが、鈴木強化部長の口調は厳しかった。

「全然ダメだね。本当に強いチーム、優勝できるチームっていうのは、一昨日のような展開になっても、セットプレーで点を取る。逆に内容が悪いときにも、セットプレーの1点で勝ちきれる。今年はセットプレーで点が取れていないから。まだまだ、だよ」

「常勝軍団・鹿島」らしくなかったシーズン中盤。

 確かに、その後のファーストステージ中盤の戦いぶりは、「常勝軍団・鹿島」に似つかわしくなかった。4月10日の第6節で昨季王者サンフレッチェ広島を4-1で圧倒したかと思えば、4月24日の第8節柏レイソル戦では、主審の判定に抗議している間にカウンターを浴びて失点。“幼い”試合運びによる自滅で、早くも今季2敗目(●0-2)を喫した。

 さらに、前回王者として臨んだナビスコカップ(現ルヴァンカップ)では、1勝しか挙げることができなかった。5月18日の第5節湘南戦に破れ、グループステージ敗退が決定。ジュビロ磐田との第6節、大宮アルディージャとの最終節では、クラブ史上初めてナビスコ杯で“消化試合”を戦う屈辱を味わった。

 ナビスコ杯敗退決定後、初めての全体ミーティングで、鈴木強化部長のカミナリが落ちた。

「タイトルに対する自覚がなさすぎる。もっと一人ひとりが、サポーターの思いやチームへの責任を感じて戦わないとダメだ!」

 この“喝”が選手たちの心に響いたかどうかは、精神論の部分だから、我々メディアにはわからない。ただ結果として、リーグ戦では5月14日の第12節横浜F・マリノス戦から5連勝を記録。特に5月29日の第14節ヴァンフォーレ甲府戦以降は3試合でわずか1ゴールしか許さず、第16節終了時点でついにトップの座に立った。

勝てば優勝のアビスパ戦、“嫌な予感”も。

 最終節、勝てばステージ優勝決定。しかも相手は、最下位アビスパ福岡。優勝に向けて鹿島が優位なのは間違いない。だからこそ、プレッシャーのかかる中で確実に勝ち切ることができるのか、鹿島が本当に「優勝できるチーム」なのか、真の力が問われる試合になった。

 案の定、序盤の鹿島の動きは硬かった。前線から積極的にプレッシャーをかけてくる福岡に主導権を握られると、開始5分に左サイドを金森健志に破られ、ウェリントンにシュートを許す。8分にもCKから古部健太に際どいヘディングシュートを放たれた。

 明らかな福岡ペース。前節、川崎も福岡の先制攻撃に2失点を喫し、引き分けには持ち込んだものの、勝ち点3を取り逃している。少なからず、カシマスタジアムには“嫌な予感”が漂った。ところが、先制点を奪ったのは鹿島だった。そして、試合を動かしたのは、やはり「セットプレー」だった。

今季序盤の鹿島にはなかった武器。

 27分、柴崎岳が蹴ったCKを、ファーサイドに走り込んだ山本脩斗が頭で叩き込んだ。

「今週はかなりセットプレーの練習を積んできたので、その成果が出て良かった。CKの時、福岡はゾーンで守るので、それを想定しながら練習していた」(山本)

 このゴールには伏線があった。山本は17分にもCKで惜しい場面をつくっている。このときはニアに走り込み、ヘディングはヒットしなかったもののフリーになっていた。山本は、2つのCKでの修正について、こう語っている。

「CKをゾーンで守る福岡を攻略するポイントは、ニアだと思っていました。いかにニアのストーン(フリーマンとしてクロスを跳ね返す選手。この試合ではウェリントン)を越えるボールを蹴って、そこに合わせられるか。1本目は僕がストーンの前に走り込みましたけど、2本目はブエノに『ニアに行ってくれ』と伝えて。僕はファーに、(植田)直通の後ろに遅れて入りました」

 試合の流れを掴めないときのために、また、流れを掴んでもなかなかゴールをこじ開けられないときのために、綿密にセットプレーの準備をし、試合の中で的確にそれを修正していく。今季序盤の鹿島にはなかった武器で、先制点をもぎ取った。

3連覇の頃を思い出す、懐かしい景色。

 こうなれば、勝ち方を知り尽くす彼らの得意な展開である。その後はピッチを幅広く使って福岡の守備ブロックを横に広げ、相手サイドバックとセンターバックの間に次々と選手が走り込んでいく。37分には金崎夢生の折り返しを土居聖真が押し込んで2-0。後半は高い守備意識を保ったまま冷静にボールを保持し続け、試合を終わらせた。

「ここ数試合もそうだし、今日も良い内容じゃなかった。でも、鹿島というチームはそういう中でも、みんなでピッチの中で話をして、勝機を見出して、勝つための術を持っている。でも、理想を言えばもっと内容を良くして、セカンドステージも、チャンピオンシップも勝ち続けたい。まだファーストステージを獲っただけで、本当の意味でのタイトルとは言えないし、Jリーグで優勝したときの喜びというのは、こんなもんじゃないから」

 これは試合後に小笠原満男が語った言葉である。流れが悪くても勝利に結びつけるゲーム運び、それを3万人を超えるサポーターが後押しするスタジアムの雰囲気、トロフィーを掲げた直後なのに先を見据える選手たちの言葉。どれもこれも、'07~'09年のリーグ3連覇の頃の鹿島の景色に似ていて、とても懐かしかった。

 取材対応も終わり、スタジアムの駐車場へと向かう鈴木強化部長に声をかけた。

 今日の試合展開と雰囲気、なんか懐かしくなかったですか?

「うん。懐かしかったね。中学生、高校生みたいだったチームが、ようやく勝ち方を覚えてきて、大学生ぐらいにはなったかな。これから先、もっと強くなるよ」

 2カ月半前と違って、強化部長の柔らかな笑顔も3連覇の頃みたいだ。

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