日刊鹿島アントラーズニュース
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2016年12月5日月曜日
◆【コラム】明暗を分けたレギュレーションと采配…際立ったのは鹿島の“無類の勝負強さ”(サッカーキング)
https://www.soccer-king.jp/news/japan/jl/20161204/523313.html?cx_cat=page1
キックオフからわずか7分で、真っ赤に染まった埼玉スタジアム2002が揺れた。大歓声が降り注ぐピッチで、浦和レッズのFW興梠慎三が歓喜の雄叫びをあげる。右サイドからMF高木俊幸があげたクロスの落ち際を、鮮やかなボレーで叩き込んだ直後の光景だ。
3日に行われた明治安田生命2016Jリーグチャンピオンシップ決勝第2戦。今シーズンのJ1年間王者を決める最後の90分間は、ホームの浦和がいきなり先制。敵地・茨城県立カシマサッカースタジアムで先勝している11月29日の第1戦と合わせて、さらに大きなアドバンテージを得たかに見えた。
しかし、実際は違った。鹿島アントラーズの最終ラインを束ねる昌子源は、電光石火の先制ゴールを喫した直後にこんな言葉をチームメイトたちに発している。
「大丈夫、大丈夫、落ち着いてやろう」
決して空元気でも、ましてや意気消沈した自分自身やチームを鼓舞しているわけでもなかった。鹿島が1点を先に失っても大勢に影響を与えない理由があったと、昌子は試合後に明かしている。
「ちょっと時間帯が早すぎたことでびっくりはしたけど、1点取られたことで、どちらかと言えば苦しくなったのは浦和さんだったんじゃないかな、というのが正直な思いですよね。僕たちはより早い時間帯で攻撃のスイッチを入れなきゃいけないと、よりはっきりさせることができたし、浦和さんは変な話、守りに入る可能性もあったので」
初戦を落としたチームが、第2戦で再び劣勢に立たされても全く浮き足立たない。ピッチ上で起こっていた摩訶不思議な現象は、優勝チームを決定する際のやや煩雑なレギュレーションと密接にリンクしている。
2試合を通じて勝利数の多いチームに凱歌が上がり、並んだ場合は(1)2試合の得失点差(2)2試合におけるアウェーゴール数――の順で決まるところまでは、昨季と変わらない。
それでも同じ場合、昨季は(3)第2戦終了後に15分ハーフの延長戦を行う(4)PK戦――で王者を決めたが、今季はそれらが廃止された上に、「年間勝ち点1位チーム」が(3)に書き換えられた。
つまり、第2戦で鹿島が1-0で勝利しても(1)と(2)でともに並ぶため、(3)が適用されて年間勝ち点1位の浦和が美酒に酔う。これが2点以上を奪っての勝利となると、例えば2-0のスコアならば(1)が、2-1ならば(2)が適用されて、年間勝ち点3位の鹿島が下克上を成就させる。1点を失っても動揺しなかった理由がここにある。昌子が続ける。
「あの1失点が正直、あまり意味をなさないことはわかっていた。僕だけでなく、みんなそうなって(先に失点して)もいい心の準備をしていたので」
戦い方がより明確になったことで、ある意味で開き直って残りの時間に臨める。もちろん、これ以上の失点は許されない。センターバックを組む元韓国代表のファン・ソッコとともに、昌子は自軍のゴール前で闘争心をむき出しにした。
例えば26分に迎えた絶体絶命のピンチ。DF西大伍のクリアをMF遠藤康が拾おうとした背後から、浦和のMF宇賀神友弥に奪われてスルーパスを通される。MF武藤雄樹が抜け出し、右足アウトサイドでシュートを放った直後に、昌子がトップスピードでスライディング。間一髪でコーナーキックに逃れた。
「一歩遅れてしまったのでダメかなと思いましたけど、『ここで届かんかったら終わりや』と本当に気持ちで滑りました。そうしたら足の先に微妙に当たってくれた。そういうところでちょっとずつ、流れが傾いてくれたんだと思います」
迎えた40分。鹿島に待望の同点弾がもたらされる。自陣から右サイドへファン・ソッコが送ったロングボール。宇賀神と競り合った遠藤が巧みに体を入れ替え、ファウルをアピールした宇賀神を置き去りにして前へと抜け出す。
この時、先発復帰したMF柴崎岳がスプリントをかけて、DF遠藤航をニアサイドへ引きつけていた。果たして、遠藤は利き足とは逆の右足でぽっかりとスペースが空いたファーサイドへ絶妙のクロスをあげる。走り込んできたFW金崎夢生が、執念のダイビングヘッドをねじ込んだ。
「最初は足で行こうと思ったけど、入らないと思ったので。頭で行ってよかったです」
クロスの落ち際を頭でピッチに叩きつけ、バウンドさせて日本代表GK西川周作の牙城に風穴を開けた金崎が自画自賛する。同点とされても、状況的には浦和が優位に立っていることに変わりはない。それでも、忍び寄るプレッシャーを感じていたとDF槙野智章は試合後に打ち明けている。
「ハーフタイムに全員で統一したのは、ゴールを奪いに行く戦術と相手ゴールへ向かうプレー。決してこのまま1-1で逃げ切ろうとは思っていなかったけど、後半の鹿島はさらに勢いをもって点を取りに来るだろうと思っていた中で、それを跳ね返す力と我慢する力が今日はなかった」
こういう状況で鍵を握ってくるのが選手交代となる。まず58分に鹿島が動いた。肩を脱臼した影響で第1戦のメンバーから外れていたFW鈴木優磨を、遠藤に代えて右MFの位置に投入する。浦和の左サイドの運動量が落ちたと判断した石井正忠監督が、鈴木の馬力に活路を見いだそうとした。
1分後には浦和が動く。高木に代わってボランチの青木拓矢を投入。柏木陽介をシャドーへ一列上げて攻撃力を高める采配は、シーズン中もよく見せていた。さらに2分後の61分には、右ワイドの関根貴大に代えて、同じドリブラーの駒井善成を投入する。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の指示を、駒井はこう明かす。
「攻守両面で、アグレッシブにいけと言われました」
さらに71分には、接触プレーで腰を痛めていた興梠に代えてFWズラタンを投入。引き分けではなく、あくまで追加点を奪っての勝利を求めて先に交代のカードを使い果たした。対照的に鹿島の石井監督は一発勝負用の采配に徹する。73分にキャプテンのMF小笠原満男を下げ、DF伊東幸敏を投入した。
「かなり悔しそうな、『エッ、何で』という顔を見せていた」
同点の状況でピッチを去る大黒柱の一瞬のしぐさを見逃さなかった昌子は、同時にこんな思いを胸中に抱いてもいる。
「(小笠原)満男さんがおらんようになったピッチで1点を取られる、というのもまたできない。満男さんとソガさん(GK曽ヶ端準)が、言うたら今の鹿島の伝統だし、2人についていったら優勝できるんじゃないかな、という背中をいつも見せてくれるので」
第1戦の終盤にも同じく小笠原をベンチに下げ、右サイドバックの西をボランチに回す采配をふるっている石井監督は言う。
「ウチが同点に追いついたことによってレッズさんの方に逆にプレッシャーがかかって、後半に入ってからは前半と違って勢いがなくなってしまった」
常に100パーセントの準備を怠らない百戦錬磨のベテラン、DF那須大亮というカードをもちながら、引き分けをも視野に入れる采配を振るわなかったペトロヴィッチ監督との差と言えばいいのだろうか。ゴールを目指してくる浦和の背後を、鹿島はしたたかに狙い続けた。
迎えた78分。運命を分け隔てる一瞬が訪れる。自陣での浦和のボール回しに金崎がプレッシャーをかけ、こぼれ球を柴崎がワンタッチでFW土居聖真へ。土居が一度落としたボールを、左サイドバックの山本脩斗が前線へ。これが斜めに走り込んできた鈴木への絶妙のスルーパスとなる。
ペナルティエリア内へ入り込んだ鈴木を、背後を取られた槙野が必死に追走してくる。この時、西川は槙野にコースを限定させ、最後は自らが飛び出して食い止めるイメージを瞬時に思い描いていた。しかし、自ら「我慢する力がなかった」と述懐した槙野は、残念ながら考えを共有できなかった。
背後から鈴木を押し倒した直後に、PKを告げる佐藤隆治主審のホイッスルが鳴り響く。キッカーは金崎。西川はコースを読み切ったが、それ以上に「最初からあっちに蹴ると決めていた」という金崎が迷うことなく、強烈な弾道をゴール左隅に突き刺した。
シーズン中とは全く異なる石井監督の采配は、槙野との接触で足を痛めた鈴木を88分にFW赤崎秀平へ代えたところにも象徴される。槙野のパワープレーを受けて「ナオ(植田直通)が入るのかな」と考えていた昌子は、3枚目のカードが切られた瞬間、覚悟を決める。
「あとは僕とソッコですべて弾くぞ、と」
言葉通りに、遠藤のクロスをこん身のヘディングで弾き返した直後に、シーズン中につけられた勝ち点15差を覆す、史上最大の下克上を告げる試合終了のホイッスルが鳴り響いた。狂喜乱舞する鹿島の選手たちとは対照的に、浦和の選手たちは呆然としたまま動けない。
「点を取りに行くことを心掛けていたけど、なかなかチャンスを作れなかった。正直、勝ち点であれだけ離した相手に負けるのは悔しいし、何もできなかった自分に対してイライラが止まらない」
シャドーとしてチャンスを演出できなかった柏木が自らに怒りを爆発させれば、痛恨のPKを献上した槙野はそのシーンに触れることなく、悔しさを押し殺すように取材エリアを立ち去った。
「個人的にはリーグ戦とチャンピオンシップは別物だと思っているし、もちろんチャンピオンシップでは鹿島が川崎を倒して、アウェーゴールの差ではありますけど、僕たちも上回られた。チャンピオンシップの王者は鹿島だと認めざるをえない、と思っています」
精いっぱいの敗者の弁に聞こえた。10シーズンぶり2度目となる浦和の年間王者獲得の瞬間を分かちあおうと、5万9837人で埋まった埼玉スタジアム2002を沈黙させ、アウェーゴール裏の一部を狂喜乱舞させた90分間。7シーズンぶり8度目の栄冠をもぎ取り、国内三大タイトル数を他のクラブの追随を許さない「18」に伸ばした鹿島の伝統、つまりは一発勝負における無類の強さが、両チーム合わせて3つのゴールが刻まれるたびに際立っていった。
文=藤江直人
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