日刊鹿島アントラーズニュース

Ads by Google

2019年1月3日木曜日

◆現実主義のオズ&大槻体制の浦和、 最重要な補強ポイントはサイド。(Number)


オズワルド・オリヴェイラ Oswaldo Oliveira


 まるで往年の鹿島アントラーズのような戦いぶりだった。天皇杯を制した浦和レッズのことである。

 12月5日に行われた準決勝では、その鹿島のお株を奪うかのように、セットプレーで得た虎の子の1点を守り抜き、9日のベガルタ仙台との決勝でもセットプレーの流れから宇賀神友弥のスーパーボレーで先制。早くも62分には柏木陽介に代えて“クローザー”の柴戸海を送り出す。

 アディショナルタイムには相手のコーナー付近でボールをキープしながら時計の針を進め、1-0ながら盤石の勝利でタイトルと来季のアジア・チャンピオンズリーグの出場権を掴み取った。

「(試合終了を告げる)笛が鳴ったあと、自分たちらしくないな、ってみんなが言っていた」と槙野智章は苦笑したが、闘う姿勢や勝負強さ、試合巧者のゲーム運びは、鹿島の元指揮官で、4月に途中就任したオズワルド・オリヴェイラ監督が植え付けたものだ。

 '12年から昨季途中まで指揮を執ったミハイロ・ペトロヴィッチ監督が理想を追求するロマン主義なら、現体制は超がつくほどの現実主義。スタイルは完全に切り替わったと言っていい。

'18年序盤戦は苦しんだ。

 それにしても、わずか5節で堀孝史監督が解任されたとき、このようなシーズンのエンディングをいったい誰が予想できただろうか。

 もっとも、シーズン序盤に躓く予兆は、確かにあった。昨季、ACLを制したとはいえ、リーグ戦は3連敗で幕を閉じていた。しかも、始動後しばらくして、得点源として期待していたラファエル・シルバが中国へと電撃移籍を果たす。そのうえ、本格的に導入した4-3-3の攻撃的なスタイルが一向に形にならず、指揮官は求心力を失った。

“大槻組長”で劇的な改善。

 そんな浦和に幸運だったのは当初、新監督への“繋ぎ”と考えられていた、大槻毅暫定監督が予想以上の成果を残したことである。

 浦和ユースの監督から内部昇格した指揮官は、慣れ親しんだ3-4-2-1へと戻して若手を抜擢。指揮を執った公式戦6試合4勝2分の成績をあげてチームを立て直したばかりか、オールバックの風貌と過激な檄で“組長”“アウトレイジ”と親しまれ、大原グラウンドや埼玉スタジアムにポジティブな雰囲気をもたらしたのだ。

 槙野が言う。

「ひと言で言えば、ファンタスティックでしたね。言葉の力で人を動かせる方。練習を終えてクラブハウスに引き上げるとき、選手よりも人気があるくらいでしたから」

 その後、バトンはオズワルド・オリヴェイラへと引き継がれた。就任当初こそ黒星がかさんだが、守備戦術やセットプレーなど足りないものを整理し、夏の中断期間にフィジカル面を鍛え直すと、中断明けから白星が先行していく。16節の名古屋戦から5試合負けなしをマークすると、26節の横浜戦からも4勝1分で順位を上げた。

人材が合わず3バック継続。

 後半戦における巻き返しに向けて大きかったのは、指揮官が形にこだわらず、陣容に合った最適解を見つけたことだろう。

 浦和での就任会見で指揮官は「4バックが私の好む形」と明かし、「夏の合宿中に多くのメッセージを選手たちに伝えられる。より大きな変化をもたらすことができる」と、3バックから4バックへの変更を示唆していた。

 だが、純粋なサイドバックの人材がいないといった事情を考慮したのだろう、中断後も3-4-2-1を継続。さらに、それを進化させ、秋に青木拓矢、柏木、長澤和輝を中盤に並べる3-5-2という最適解を見出すのだ。それは、形にこだわって崩壊した堀体制との大きな違いだった。

W杯直後の槙野と遠藤が天皇杯に。

 また、指揮官の勝負への飽くなきこだわりも、浦和に勝負強さをもたらした。

 7月11日の天皇杯3回戦。松本山雅とのゲームでロシア・ワールドカップを終えて帰国したばかりの槙野と遠藤航を、指揮官はスタメンで送り出すのだ。

 日本代表の吉田麻也がツイッターで「Jリーグ組オフ少なすぎだよー。もっと選手の事労ってよー。笑」と投稿したことでも話題になったこの起用。オズワルド・オリヴェイラ監督は、天皇杯で優勝するために力を貸してくれと訴え、ふたりは了承したという。その試合で松本に2-1と競り勝つと、それ以降の4試合で1点も許さずに頂点へと駆け上がるのだ。

 槙野が振り返る。

「おそらく鹿島にもこういうことを落とし込んだんだろうなっていう勝ち方、勝ちグセを監督は僕らにも植え付けてくれた。苦しくても身体を張って我慢すれば、必ず1点取って勝てる。チームとしてピンチのときこそ楽しむことができたと思います」

ブッフバルト時代への原点回帰。

 一時代を築いたミシャ時代とは真逆のスタイルだが、それはある意味、タイトルを積み重ねた'04年~'06年のギド・ブッフバルト時代のスタイルへの原点回帰と言えるかもしれない。あのときも、固い守備というベースの上に築かれた破壊力のある攻撃によって、タイトルを掴み取ったのだ。

 ベースは築かれた。あとは、それに合った選手補強ができるかどうか。

 12月26日までに浦和が発表した選手補強はFW杉本健勇、MF汰木康也、DF鈴木大輔の3人。もともと前線には興梠慎三、武藤雄樹、アンドリュー・ナバウト、ファブリシオ、3バックも槙野智章、岩波拓也、マウリシオ、阿部勇樹、森脇良太と揃っているため、選手層の充実が図られた。3ボランチも青木、柏木、長澤に加え、柴戸、山田直輝が控えている。

アウトサイドの即戦力が欲しい。

 それゆえ、補強すべき最重要ポイントは、アウトサイドだろう。平川忠亮が引退したため、計算できる選手は、宇賀神友弥、菊池大介、橋岡大樹、荻原拓也の4人しかいない。

 しかも、橋岡と荻原はU-20日本代表に招集される可能性が高いのだから、なおさらだ。アウトサイドの即戦力を獲得できるかどうか。

 再びアジアチャンピオンに輝くために掴み取ったACLの出場権がチームにとって重荷にならないためにも賢い補強が必要となる。

 この2年間、シーズン終盤でなんとか帳尻を合わせてきたが、3年続けてスタートダッシュの失敗は、もう許されない。




◆現実主義のオズ&大槻体制の浦和、 最重要な補強ポイントはサイド。(Number)




Ads by Google

日刊鹿島

過去の記事