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20歳ながら日本代表に招集され、コパ・アメリカ2019(南米選手権)2試合に出場した安部裕葵に、先日、バルセロナからオファーが来ているという報道が出た。昨年のAFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)制覇、クラブワールドカップ出場など、20歳にして多くの経験を積んできた鹿島アントラーズの背番号10の凄さはどこにあるのだろうか。(文:西部謙司)
バルセロナからのオファー報道
安部裕葵にバルセロナからオファーが来ているという報道が出ている。久保健英のレアル・マドリー移籍の後に、安部へのバルサからのオファーとは、昔日の日本サッカー界を思うとめまいがしそうなほどである。
現時点では、まだ安部がオファーを受けるかどうかも決まっていないようだし、移籍は最後の最後までわからないところはある。移籍するとしても、久保もそうだがスタートはBチームだろう。それでも、そこはレアルとバルサのトップチームに直結している最短距離ではある。
東京都出身。S.T.FCから広島県の瀬戸内高校へ進んだ。広島で行われたインターハイに県予選2位で出場し、4試合3得点の活躍でスカウトの目にとまった。鹿島アントラーズに入団すると、ルーキーイヤーからJ1出場。昨年はACLを制し、クラブワールドカップでもプレー。今季は背番号10をつけている。そしてバルサからのオファー。
まるでこうなることを知ったうえで広島行きを選択したようにさえ思えてしまうが、実際には先のことなど何もわからなかったはずだ。中学生のときに「プロになる」と決意したが、年代別の代表はおろかトレセンとも無縁だった。
とても聡明な印象がある。インドネシアで行われたAFC・U-19選手権に10番を着けてプレーしていたが、試合後のコメントを聞くかぎり十代の選手とは思えなかった。
U-20ワールドカップを戦ったこの年代は、安部だけでなくしっかりとした受け答えのできる選手が多い。自分の考えを自分の言葉で表現できる。Jリーグが始まったころは、敬語を使って話せないのでろくに受け答えができない人も珍しくなかったものだが、こういうところもずいぶん変わったものだ。
クールなインスピレーション
インドネシアでのU-19日本代表で、安部はチームの中心だった。橋岡大樹、齊藤未月とともに、この年代らしからぬ大人びたプレーをしていた。俊敏でプレーに強度もあり、キレのあるドリブルはエデン・アザールのよう。
最初に強い印象を受けたのは、セビージャが来日して鹿島アントラーズと親善試合をしたときだ。ボールタッチやドリブルの巧さが光っていたが、どこか知性を感じさせるプレーぶりだった。
試合の流れを読むようなインテリジェンスとは少し違っていて、瞬間的に選択するプレーに研ぎ澄まされた鋭さがあった。瞬間のプレーなので本能的といっていいはずなのだが、その裏側に積み上げてきたものがあるように思えたのだ。軽快そのものなので、ある種の思考のウエイトが乗っていた。
自らを飛躍させていく強さと賢さ
U-19選手権のタイ戦のアシストで、それを思い出した。カットインして相手とぶつかりそうになった瞬間、安部はタイのディフェンスラインの裏へボールを「置いた」。斉藤光毅がそれを拾ってゴールしている。左足アウトサイドで上手くボールを逃がしたラストパスは予め狙っていたものではなく、まさに瞬間的なヒラメキなのだが、「DFが来たので裏は空いていると思った」(安部)
DFが目の前に来た、半ば不意をつかれた感じで衝突する寸前だった。そのコンマ数秒で「裏は空いている」と感知して実行に移せる。反射でありセンスということになるかもしれないが、動きだけでなく思考にキレがある。
このタイ戦の1点目も安部のアシスト。しかし、こちらは結果オーライだった。味方にパスしたところ意図が合っておらず、安部が離したボールは誰もいないところに転がった。ところが、安部は素早くDFの横をすり抜けるドリブルに変更。先に体を入れられたのを強引にむしりとって突破してしまった。
見た目は「裏街道」のドリブルなのだが、実はパスミス。しかし、それを無理矢理にでもゴールに結びつけた臨機応変の頭と体の瞬発力。意図したドリブルにしか見えなかった。
聞くところではスカイプを使って外国人とコンタクトをとり、語学の勉強をしているという。自分で考え、実行し、1つ1つステップアップしてきた。バルサかどうかはともかく、自らを飛躍させていく強さと賢さのある選手だと思う。
(文・西部謙司)
【了】