若くしてビッグクラブのキャプテンという重責を担った。チームの仲間を叱咤激励して牽引し続ける彼が今望むのは、今シーズン、優勝を果たしてみんなで喜び合うことなのだ。(雑誌『ターザン』の人気連載「Here Comes Tarzan」、No.797〈2020年10月8日発売号〉より全文掲載)
24歳という若さで担う重責。
鹿島アントラーズは日本を代表するビッグクラブ。Jリーグ創設時から参加しているチームでも、とくに活躍はめざましい。
J1リーグでは、3連覇を含む8度の優勝、Jリーグカップでは6度の優勝。さらに天皇杯、アジアチャンピオンズリーグを加えると、20個のタイトルを奪取している。その他の大会でも“強い鹿島”の印象は変わらず、他のチームを圧倒しているといっていい。
ところが今、この常勝チームが、3年間国内タイトル無冠という状況に陥っている。攻守の要であるボランチというポジションを受け持ち、またキャプテンでもある三竿健斗は、まずこう語る。
「今までは、選手がピッチの中で状況判断をして、互いに話しながら、個々の能力を最大限に生かすというスタイルで戦っていました。ただ、ここ2年ぐらいで、選手が海外移籍したり、3連覇したときよりは、選手の能力だけでやるには厳しくなってきたと感じています。
これまで、特徴のあるチームが勝ってきたというのがあるので、自分たちも監督の求めるサッカーでベースを作って、それに加えてピッチの中で自分たちで考えてできるようになれば、強くなっていけるんじゃないかなと考えていますね」
三竿がキャプテンに任命されたのは今シーズンからである。鹿島のキャプテンといえば、古くは本田泰人、最近では三竿と同じポジションの小笠原満男、今年引退した内田篤人など日本を代表するプレーヤーがずらりと顔を揃える。
三竿も彼らに引けをとっているわけではない。ただ、24歳という若さでこのような重責を担うことは、相当なプレッシャーではないか。本人はどのように考えているのであろうか。
「僕が見てきたのは、(小笠原)満男さんと(内田)篤人さんで、2人とも多くを語らないというか、ピッチの中で誰よりもカラダを張って、誰よりも戦うというタイプでした。それを周りが見て、“オレもやらなきゃ”と思わせる存在だった。
僕も誰よりも一生懸命練習に取り組んだり、試合をしたり、そういう姿勢を大事にしたいと、キャプテンになって思いました。2人は世間からビッグネームとして認知されていますが、僕もそれに負けないぐらい、将来的には大きな選手になるつもりなので、若いうちからキャプテンをやらせてもらって、いい試練を与えてもらっていると、今は感じているんです」
ただ、三竿の場合無口というのではない。鹿島は今年からブラジル人のザーゴ氏が監督に就任し、サッカーの方向性がこれまでとはかなり変わった。
三竿は監督の意を汲み取り、他の選手に伝えたり、アドバイスしたりとこまやかにチームの統率を図っているのである。チームの全体練習中、幾度も三竿が大声で指示を出していたのが印象に残っている。
「賢くプレイしなさい」、常に父親に言われた言葉。
三竿のポジションのボランチは、前述した通り、攻守の要である。相手の攻撃を切り、反撃へのきっかけを作るのが大きな役目となる。三竿はスキを見抜く感覚が図抜けている。危険な場所を見つけ、スルリと入って相手のパスをカット。即座に、縦パス一本で攻撃の起点を作り出す。
「小さい頃からサッカーをやっている他の子に比べたら、足は速くなかったんです。それで父から“賢くプレイしなさい”といつも言われていた。頭を使いなさいということですね。それが、自分のサッカー人生に活かされていると思います」
また、181cmという長身を生かしたパワフルな守備も大きな魅力だ。ガンガン相手とやり合うような力強く激しいプレイスタイル。その素地が作られたのが、小学校5年生で入団した、東京ヴェルディジュニアだった。このチームはこれまで名だたる名選手を輩出している。
「子供の頃はセンターバックをやっていて、中学2年のときにボランチになったんです。センターバックは守備に徹するようなポジションで、ボランチのように攻撃に転じる起点となることは少ない。だから、ボランチに変わったときは、ボールを捌くことしかできなかった。
そんなとき、トップチーム(このとき三竿は下部チームにいた)のコーチである冨樫(剛一=現・東京ヴェルディ強化部ダイレクター)さんに“捌いているだけで楽しいか。もっと攻撃に絡んでいけ”と言われたんです。その時から、ゴールを意識するようになった。これは大きかったですね」
これが契機となったのであろう。三竿は同世代のトップ選手へと上り詰め、2013年にはU-17のワールドカップに出場する。世界の強豪が一堂に会し、熱戦を繰り広げるこの大会で、三竿はしかし相手の強さをそれほど感じなかったという。
「もっとスーパーな選手がゴロゴロいると思っていたのですが、僕たちとやった相手にそういう選手はいなくて。僕らのサッカーが相手にとってイヤなサッカーだったようで、相手が自分たちの特徴を出せなかったというのもあるんですが。でも、そのときにMVPだった選手はマンチェスターシティに行きましたけどね。(※ナイジェリアのケレチ・イヘアナチョ選手)
17歳ぐらいのときには、日本も海外もそれほど差がないと思いました。ただ、そのあとの成長が違うんです。彼らは世界のビッグリーグのユースに所属しますから、環境がまったく違う。それに、カラダが出来上がってくると、身体能力も日本人は劣ってしまうんです」
15年にヴェルディのトップに昇格した三竿は1年目でレギュラーに定着し、翌年鹿島からオファーが届く。このビッグクラブがトップで1年過ごしただけの選手の獲得を決めたのは、これが初めてだった。さらに当時のヴェルディはJ2で鹿島とは実力に大きな開きがあった。
「最初の紅白戦から、自分がJ2で通用してきたプレイが、全然通じなかったです。プレッシャーの強さ、球際の速さ、全部違った。すごくとまどいましたし、慣れるまで時間がかかりました。でも、人ってすごいと思う。だって、その環境に入ると時間が経てば慣れるんですからね」
1年目は控え。しかし、言葉通りに2年目は26試合に出場するなど存在感を発揮し始め、やがてキャプテンを任せられるまでに、大きく成長を遂げていく。
日本人らしいカラダの使い方が重要。
ところで三竿はトレーニング、ケアにはかなりのこだわりがあるとチーム内でも有名だ。前述した通り、外国人に比べ、日本人は身体能力が劣ってくると三竿は考えている。それをカバーするには、日本人に合ったトレーニングこそが必要だと言う。
「日本人がもともと持っている骨格は、ヨーロッパやアフリカの人たちとはまったく違うと思うんです。だから、彼らと同じことをやっても、差は縮まらない。日本人らしいカラダの使い方ができるようになる。そんなトレーニングをしています。具体的には話せないんですけど(笑)。
あとは、ケガをしないように今持っている筋力を最大限に発揮できるようなトレーニングをしています。そのために、股関節まわりは重要。とくに尻の筋肉にスイッチを入れることで、カラダの連動を生み出すことができる。筋肉がバラバラに働くのはダメ。上手く連動させることができれば、筋力がそれほどなくても大きな力を出すことができるのです」
ケアにも独自のやり方がある。
「練習前にはしっかりと日焼け止めを塗ります。直射日光をまともに浴びると、カラダに熱がこもってよくないんです。塗るだけでだいぶ違いますね。それでも暑い時期は練習後に熱を持ってしまう。なので、まず風呂に水を張って氷を入れ、それに10分入る。水温は10~15度ぐらいですね。
それにプラスして圧迫とアイシングを同時にできる機械を使い、カラダの熱を取っています。それでも疲れが取れないときは、クライオサウナを使います。これは最大マイナス190度の低温環境を作り出すことができる機器で、その中に3分間入ります。
すごく冷たいんですが、細胞から元気になるというか、その日はぐっすり眠れますし、翌日はカラダが軽くなる。冷えて血管が収縮し、一気に拡張することで血液とともに老廃物が多く排泄されるからでしょうね。まだまだあるんですけど、企業秘密です(笑)」
今シーズンの鹿島は開幕から4連敗とまずい出だしだったが、直近では5連勝して5位まで順位を上げてきた(9月12日現在)。ようやく、新監督のサッカーに慣れ、三竿が語るようにピッチの中で個々の選手が輝き始めたようである。三竿はこれからの鹿島を、そして自分を、今どのように思い描いているのだろう。
「一番はJ1リーグでの優勝です。勝ち点差は離れているんですが、ここから追い上げて、最後にひっくり返すつもりです。あっ、今、ひっくり返すのをイメージしたら鳥肌が立っちゃった(笑)。世間が無理だと思うことをやるのは面白いでしょ。少しずつみんなで成長して最後に喜び合いたいですね。
篤人さんはよく“海外に行きたい選手は多いけど、日本で結果を出してから行け”って言っていたんですが、その通りだと思います。僕も海外には行きたいんですが、鹿島ではACL(アジアチャンピオンズリーグ)でしか優勝していないので、できるだけ多くのタイトルを獲りたい。そして、その先に日本代表だったり、ワールドカップが見えてくると思っています」