J1リーグは17日、第5節の9試合を各地で行った。今季から導入されているビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)は合計4回のレビューを実施。鹿島アントラーズ、横浜F・マリノスは直前の反則によってゴールが認められず、川崎フロンターレはゴール認定とゴール取り消しを1試合でどちらも経験する形となった。
<第4節 なし>
■ゴール直前のファウルが問題になった2事例
鹿島と横浜FMのケースでは、いずれもゴールシーンから一定時間遡った時点でのファウルがVARの介入によって咎められ、ゴールが取り消されていた。
<事例1>J1第5節 福岡 1-0 鹿島 @ベススタ(ゴールに関する判定)
福岡の1点リードで迎えた後半アディショナルタイム、鹿島はMF松村優太が福岡DFエミル・サロモンソンからスライディングでボールを奪い、攻撃を開始。FW染野唯月、MFレオ・シルバ、DF広瀬陸斗と右につないだボールが、再びレオ・シルバ、DF町田浩樹、染野を経由して左サイドに渡り、ドリブル突破を試みた松村のクロスからDF犬飼智也が左足ダイレクトでゴールにねじ込んだ。
しかし、ここでVARが介入。福岡のキックオフがいったん制止された。問題になったのはゴールから25秒ほど前、松村がスライディングタックルでボールを奪った場面だ。今村義朗主審は当初、ノーファウルだったとしてプレーを流していたが、ピッチ脇のモニターでオン・フィールド・レビューを実施。ファウルがあったとして判定を覆し、ゴールを取り消した。
松村にはイエローカードが提示された後、合計約6分間の中断を経て、福岡のFKで試合が再開された。
主審:今村義朗
VAR:松尾一
AVAR:川崎秋仁
<事例2>J1第5節 横浜FM 1-0 徳島 @ニッパツ(ゴールに関する判定)
横浜FMの1点リードで迎えた後半14分、横浜FMは敵陣でプレッシャーをかけたMFマルコス・ジュニオールが徳島FW河田篤秀からボールを奪い、相手の最終ライン裏に浮き球のミドルパスを供給。これは徳島DF福岡将太に頭でクリアされたが、すぐさまFWエウベルが奪い返し、こぼれ球を拾ったFW前田大然がカットインから右足でゴールに流し込んだ。
ここでVARが介入。徳島のキックオフが制された。問題になったのはゴールから10秒ほど前、マルコスがボールを奪った場面だ。清水勇人主審は当初、ノーファウルとしてプレーを流していたが、ピッチ脇のモニターでオン・フィールド・レビューを実施。マルコスが河田の足を踏みつけていたとして判定を覆し、ゴールを取り消した。
マルコスにはイエローカードが提示され、異議を申し出た松崎裕通訳にも警告。選手交代を含めて約5分30秒間の中断を経て、徳島のFKで試合が再開した。
主審:清水勇人
VAR:中村太
AVAR:鶴岡将樹
■「VARはどこまで遡るのか」問題
VARは①ゴール②PK③一発退場④人違いの4事象に関する「はっきりとした、明白な間違い」「見逃された重大な事象」に介入する仕組み。上記の2事例はいずれも①ゴールが対象となったが、10秒以上前のプレーに遡ってまでレビューが行われる形となった。
果たしてどれくらいの時間、VARはプレーを遡ることができるのか。ここで重要になるのが「アタッキング・ポゼッション・フェーズ」(APP)というVAR制度特有の枠組みだ。
APPとは「ゴール、PK、得点機会の阻止にあたる反則が起きたとき、レビューができる期間」を指す概念。一般的に「攻撃が始まった時」に、APPも始まるとされる。もっとも、単に自陣でボールキープしている時間帯はその対象とはならず、ゴールや相手のペナルティエリアに向かって前進する、すなわち名前どおり「アタッキング・フェーズ」に移行している必要がある。
またAPPが始まってからの間、相手選手がセーブやクリア、ディフレクションなどの不可避的な動作を行ったとしても、APPがただちに終わるわけではない。ボールロストやインターセプトなどでボールの保持(名前どおりに「ポゼッション」)が入れ替わった場合のみ、相手チームのAPPに入れ替わる。
こうした枠組みがあるため、VARが遡る範囲は「時間」ではなく「攻撃態勢が続いていたか」で決まることになる。
鹿島の<事例1>では、松村がボールを奪った際に福岡から鹿島にボールポゼッションが移行。ボール奪取が自陣だったことはやや割り引いて考慮に入れる必要はあるが、すぐさま攻撃態勢がスタートしたことで、トランジション時点でAPPに入ったと解釈されたとみられる。
その後、鹿島はすぐに敵陣に侵入し、ゴールが決まるまでは一貫して攻撃態勢を継続。ボール奪取からゴールまで約25秒が経過していながらも、APPが続いていたと解釈され、VARが遡って介入することができたようだ。
また横浜FMの<事例2>では、敵陣アタッキングサード付近でボールを奪っており、そのままマルコスが攻撃姿勢に入っているため、ここでAPP開始。またマルコスのフィードを相手がクリアしているが、クリアではAPPが移行しないためなおもAPPは続く。そしてエウベル、前田とつないでゴール。APPは一度も途切れておらず、VAR介入時にボール奪取時まで遡ることが可能となった。
なお、今回の2つの事例ではいずれも、オンフィールド・レビューが行われた後に、ファウルを犯した選手にイエローカードが提示されていた。本来、イエローカードはVAR介入の対象とはならないはずだが、ここは例外。見逃されていたファウルがVARによって確認され、そのプレーが悪質だったり大きなチャンスを潰すものであった場合、通常の運用どおりにイエローカードが提示される。
この原則はゴール、PKに繋がる場面でも同じ。J1開幕節ではC大阪のDF丸橋祐介のハンドが当初は見逃され、ゴール判定が下されていたものの、VARで判定が変更。その後、ハンドを犯した丸橋にはイエローカードが提示されていた。
■レアンドロ・ダミアンのオフサイド、オンサイド
川崎Fはこの日、FWレアンドロ・ダミアンのゴール関連で2度のレビュー対象となった。
<事例3>J1第5節 神戸 1-1 川崎F @ノエスタ(ゴールに関する判定)
0-0で迎えた後半8分、川崎FはMF田中碧のスルーパスに抜け出したMF家長昭博がゴール前にハイクロスを送ると、レアンドロ・ダミアンがヘディングシュートでネットを揺らす。だが、ここでVARが介入。副審はオフサイドフラッグを上げていなかったが、家長のオフサイドが映像で確認され、VARオンリーレビューでゴールが取り消された。
担当副審:鈴木規志
VAR:荒木友輔
AVAR:谷本涼
<事例4>J1第5節 神戸 1-1 川崎F @ノエスタ(ゴールに関する判定)
0-0で迎えた後半17分、神戸GK前川黛也のクリアボールを受け止めた川崎FのDF谷口彰悟がダイレクトで前線に縦パスを送ると、これに反応したFWレアンドロ・ダミアンが振り向きざまに右足一閃。約45mの位置からロングシュートを沈めた。副審はダミアンがトラップした時点でフラッグを上げていたが、映像でオンサイドだったことが確認。VARオンリーレビューの末にゴールが認められた。
担当副審:鈴木規志
VAR:荒木友輔
AVAR:谷本涼
これら二つの事例はいずれも副審の視野内でパスの出所と受け手が大きく離れており、難しい判断を強いられた中での誤審をVARに救われた形。川崎Fにとってはゴール認定1回、ゴール取り消し1回で“プラスマイナスゼロ”となった。
(文 竹内達也)
◆“25秒前”のファウルでゴール取り消し事例も…VARはどこまで遡る?:J1第5節VARまとめ(ゲキサカ)