J1第8節を終えて2勝1分5敗――まさかの15位と低迷する鹿島アントラーズ。名門はなぜ苦しんでいるのか? 番記者として17年、チームを取材してきた筆者がその原因を探る。
鹿島が苦しい戦いを強いられている。今季は神戸にホームで28年ぶりとなる5失点の大敗を喫するなど、ここまで15位に低迷。7シーズンぶりの国内タイトル奪還を目指し、昨季途中からクラブOBきっての策士、岩政大樹を監督に据えたが、歯止めがかからない。
今年5月に3O周年を迎えるJリーグにあって、8度のリーグ優勝を数える名門。勝負強さが憎らしく思われる一方で、他クラブから手本とされていた。その鹿島に今、何が起きているのか。
岩政監督が口にする「ツケ」とは?
岩政大樹は「ツケ」という言葉を用いて、現状を分析する。現代サッカーへの適応が遅れた、という意味でとらえることができる。後方からのビルドアップで攻撃を組み立てる。ポジショニングでスペースを作りながら、タイミング良くパスを差し込んで、相手陣内へと入っていく。こうした戦術の時流に乗り遅れ、着手できなかったことが「ツケ」となって、クラブワーストとなる6シーズン国内主要大会無冠の状況を引き起こした。
理由は明確だ。クラブはOBの日本人監督で黄金時代を築く、という野望を持っていた。かつてジーコが「献身・誠実・尊重」のスピリットでチームの土台を作り、レオナルド、ジョルジーニョらの現役ブラジル代表が「勝利の哲学」を叩き込み、小笠原満男ら日本人選手が定着させた。クラブは監督人事でも同じ絵を思い描いた。強みである「勝負強さ」を引き継ぐために、日本人の指導者を育て、自給自足で維持していく。それが目指す道だった。
実際に石井正忠(2015年途中~17年途中)、大岩剛(17年途中~19年)と日本人を積極的に起用した。クラブからのリクエストは、タイトル獲得と「鹿島イズムの継承(=勝利にこだわる姿勢、勝負強さ)」。だが、それは身につけるためのレシピが存在するものではない。結果を残すことで、育まれる側面がある。裏を返せば、結果が出ないと積み重なっていかない。
主力の海外流出に伴い、戦力は他クラブからの獲得に頼らざるを得なくなった。「鹿島に来れば、勝ち方が分かる」と移籍を選んだ選手たちには特に伝わりづらく、次第に選手側から「戦術」「策」を求める声がフロントに届くようになった。
この声を受けて、クラブはザーゴ、レネ・ヴァイラーと特徴的な戦術を持った外国人指揮官を招へいした。しかし、ザーゴは守備戦術に問題があり、選手との関係も良くなかったことで相馬直樹(21年途中〜同年)にバトンが託された。ヴァイラーはフロント、選手との意思疎通ができない状態になった。いずれも成績不振で監督交代。結果を残してきたクラブの監督にはどの国でも高いノルマが課せられる。総じて結果を出すまでの猶予は短い。こうした厳しい視線がチームの力を押し上げることがある一方、完成形にたどり着けないこともよくある。鹿島は今のところ後者だ。
そんな風向きを変えるべく選ばれたのが岩政だった。プロの監督は未経験ながら、ヴァイラー監督時にはコーチの立場で、コロナ禍の影響でヴァイラーが入国できなかった昨季の序盤には代行監督としてチームをまとめ上げた。現役時代から研究熱心で、身体能力を発揮するだけではなく、深く考えてプレーするタイプだった。引退後は解説者、大学サッカーの指導者としてサッカーを学んだ。何よりも、多くの言葉を交わさずとも鹿島がどうあるべきか、どこを目指すかを知っていた。託す根拠はあった。「ツケ」を払い終えられる期待感もあった。
「時間がかかる」と理想は追わず
岩政は昨年8月、「監督として(日本代表監督などへのステップアップする)野心は持っていない。鹿島を立て直したい」と引き受けた。後方からのビルドアップに取り組んだが、「そういう文化がない。時間がかかる」として理想は追わず、現実を見る。結果を求められるクラブということは身をもって理解していた。
ロングボールを使い、セカンドボールに素早くチャージする。上田綺世のような決定力があるストライカーがいた時はチームは循環したが、今季はその不在が響いて失速した。相手は構えて守れば対処しやすく、もう一つ先で相手を崩す絵が必要になった。
チームを先進的に変化させながら、結果を残す。名将と言われる監督でも難しい作業を新米監督がチャレンジしている。すべてがうまくいかないのはクラブも折り込み済みだが、ここまで低迷することは想像していなかったようだ。歴史的大敗(1-5)を喫した神戸戦後、強化責任者の吉岡宗重フットボールダイレクターが報道陣の前に立った。「岩政続投」「サポート」を明確に打ち出した上で問題点を口にした。
「攻撃面の崩し、どこにスペースを作る、使う。そこはまだまだ改善の余地がある。監督は練習で言葉には出している。指導の中では出ているんですが、まだ落とし込みが、(選手に)習慣化されていない。本当にやりたいサッカー、落とし込みたいサッカーをスタッフも含めてやっていく必要があるかなと思います」
意図を伝える、人を動かす。それがコーチを含めたスタッフの課題になっているという。真意が伝わっていないと思われる点は他にもある。指示と自己判断の割合だ。
「指示を守ったプレーをやっていれば試合に出られる。指示通りではなく、自分の判断でプレーしたら試合に出られなくなるかもしれない。それ(指示通りにプレーする)だけでは勝てないのは分かっているけど、それができない選手もいる」
そんな言葉が複数の選手から聞かれた。
岩政監督は選手の判断を尊重している。現役時代、リーグ3連覇(2007〜09年)を勝ち取ったチームは、選手の判断力で成り立っていた。監督に就任後、勝利後の記者会見で「選手たちが判断してくれた」とたたえる姿もある。
ただ、共通理解として伝わっていない。指示通りのプレーはいずれ対策され、行き詰まる。対応、対策の応酬がサッカーというもの。どんなサッカーを目指しても「伝える」はチーム作りの基幹。経験の浅い監督を据えたクラブも、スタッフの人選、補充、監督への助言などサポート態勢強化を検討する必要があるだろう。
「必ず改善すると思っている」
「選手たちはすごく良いものを持っていると思う。その中で、共通理解、チーム全体の戦術もそうですが、各グループでの戦術のところ、意思疎通ができていないと選手の能力は最大限発揮できないと思っている。選手の距離感だったり、サポートのタイミングだったり(がうまく行かず)、まだそれぞれがそれぞれでがんばっている(段階)。苦しんでいるところがある。意思疎通を図ってどのタイミングでスペースを作って、どう生かすのか。そこに関しては岩政監督と話しているところでもあるので、整理されてくると必ず改善すると思っている」(吉岡フットボールダイレクター)
強度の高い練習。高い競争意識。選手間派閥のない一体感。鹿島が20個のタイトルを積み重ねてきた最大の根拠が、選手の意識向上、クラブ運営の成熟で他クラブとの差にはならなくなった。長らく国内タイトルから遠ざかる理由に、こうした外的要素が影響していることも最後に付け加えたい。
結果は出ていないが、鈴木優磨は鹿島復権にすべてを捧げる覚悟のプレーを見せる。口数が少ない植田直通からはふがいない内容、結果に対する怒りの空気を感じる。昌子源は黄金時代を支えた先輩に倣い、空気を引き締める“嫌われ役”を買って出る。岩政監督だけではなく、次の30年も鹿島が常勝であるために、それぞれの立場で向き合う姿がある。
解説などで勝負強さを見せた試合で使われる「鹿島らしい」は、もともとは「泥臭さ」や「あきらめない姿」を指して使われていた言葉だったという。今まさに、鹿島らしさが問われている。
◆まさかの5失点大敗…名門・鹿島で何が起きている? 岩政監督「野心はない」発言の誤解…番記者が見たウラ側「昌子は嫌われ役、植田は怒り」(Number)
スポーツ報知の鹿島番記者、内田さんがNumberに寄稿。少し長いけどみなさんに読んでほしいです。
— 日刊鹿島アントラーズニュース (@12pointers) April 22, 2023
↓
◆まさかの5失点大敗…名門・鹿島で何が起きている? 岩政監督「野心はない」発言の誤解…番記者が見たウラ側「昌子は嫌われ役、植田は怒り」(Number) https://t.co/BSWL3ih60c pic.twitter.com/Nfwst9sa5M