日刊鹿島アントラーズニュース

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2023年12月13日水曜日

◆“名門”鹿島がなぜ優勝できないのか…? 5年連続無冠の要因を探る(サッカーキング)






 2023明治安田生命J1リーグの全日程が終了。鹿島アントラーズはリーグ5位となり、YBCルヴァンカップ、天皇杯と合わせて、5年連続の無冠に終わった。Jリーグ最多のタイトルを獲得してきた名門は、なぜ苦しんでいるのか。答えのない問いではあるが、ヒントを探して、ここまでの軌跡を振り返ってみた。

 鹿島の礎を築いたのは、“サッカーの神様”ジーコだった。クラブ創成期に圧倒的なリーダーシップを発揮し、黎明期の日本サッカーでいち早く鹿島をプロフェッショナルなクラブへと昇華させた。そして、ジーコの影響力もあり、レオナルドやジョルジーニョといった世界的スーパースターの獲得に成功。それが日本人選手の台頭にもつながり、国内屈指のチームへ成長を遂げた。

 その後、強豪として名を馳せたことで、有望な高卒選手の獲得につながった。ここから鹿島は、「ジーコの影響力を活用した強力なブラジル人選手の獲得」、「有望な日本人若手選手の育成」という2つの軸で、チームを継続的に強くすることに成功する。その成果として、国内最多となる通算20個のタイトル獲得につながった。

 しかし、時は流れ、日本サッカーのレベルアップとともに、海外挑戦する日本人選手が増えていった。鹿島も例外ではない。長い時間をかけて育成しても、チームの主力になる頃には海外へ流出し、チームのレベルを維持することが難しくなった。近年でいえば、三竿健斗や町田浩樹、上田綺世ら、チームの中心選手が世界へと羽ばたいた。そして、それを補うはずの強力なブラジル人選手も、資金面や世界のサッカー情勢の変化などで、徐々に獲得が難しくなっていった。

 この時代の流れに抗うためには、何か手を打つことが必要だった。そこで鹿島はこれまであまり行ってこなかった国内クラブからの補強を進め、同時に若手選手の育成速度を早めることを目指した。

 2020年には奈良竜樹、永戸勝也、杉岡大暉、和泉竜司、広瀬陸斗ら、J1の主力級選手を次々に獲得。2021年は新型コロナウイルス感染症の影響による減収もあり、目立った国内補強はなかったが、2022年には中村亮太朗、樋口雄太、キム・ミンテ、仲間隼斗、今年は藤井智也、知念慶、佐野海舟といった、他クラブで実績を残した選手を加えている。

 そして、新卒選手も毎年のように逸材を獲得することに成功した。高卒では2020年に松村優太、荒木遼太郎、染野唯月、2021年には小川優介、須藤直輝、2023年には津久井佳祐が加入。大卒では、2021年に早川友基、常本佳吾、林尚輝、2023年に師岡柊生を加えた。

 さらに、新たな血を加えたことによる「鹿島らしさ」の減少を食い止めるべく、鈴木優磨、安西幸輝、昌子源、植田直通、柴崎岳といった黄金時代を知るメンバーもチームに復帰させた。

 上記のとおり、クラブは無冠の間も積極補強で策を講じている。Jリーグの中では上位とはいえ、大都市のクラブと比較すると、限られた予算、土地的な不利のなかで、特大のポテンシャルを秘めた選手たちを揃えていった。

 しかし、優れた能力、将来性を秘める選手たちが集まったものの、個性を融合させることができなかった。チームを継続的に強化できず、過去最長となる7年連続の国内無冠に終わった。現在の補強戦略、選手編成をすべて肯定することはできないだろう。

 とはいえ、予期せぬアクシデントが頻発し、トレンドの移り変わりも激しいサッカークラブの運営において、選手編成の正解はあってないようなもの。方針が間違っているとも言い切れない。昨今はマンチェスター・シティや横浜FMのように、各ポジションに求める役割やチームの方針(プレーモデル)が明確に決められているクラブがトレンドとなりつつあるが、レアル・マドリードや鹿島が行ってきた、異なる個性を持つ優秀なタレントを集め、個と個を融合させることで強力なチームを作る手法も、十分に合理的だ。時代遅れと断ずるのは尚早だろう。

 では、選手の個性を活かしきれなかった原因はどこにあるのか。これも複雑な要因が絡み合った上での結果だろうが、毎年のように監督交代を余儀なくされたことは見逃せない。

 2020年から指揮を執ったザーゴ監督は「攻守両面で主導権を握るサッカー」を目指し、攻撃的な姿勢をチームに根付かせようとした。しかし、勝利が義務付けられたクラブで、ハイリスクなスタイルを実現することは容易ではない。2021シーズンの序盤、負けが込んだことで、チームの自信は失われ、志半ばで解任された。

 後任に就いたのは、コーチから昇格した相馬直樹監督だった。相馬監督はザーゴ監督とは正反対ともいえる手堅いスタイルに舵を切り、攻守のバランス、特に守備の整備を進めた。最終的にはリーグ4位まで浮上したが、「主導権を握る」サッカーとは程遠く、契約満了で退任した。

 翌年、新たに就任したのはレネ・ヴァイラー監督だった。相馬監督とも色が異なる、縦に早いサッカーを志向し、ロングボールを多用。強度を前面に打ち出し、上田綺世と鈴木優磨の強力2トップで、シーズン序盤に勢いよく勝ち点を稼いでいった。

 しかし、7月に上田が海外移籍すると、個に依存した戦いに限界が見え始める。ゲームをコントロールする時間帯もなく、夏場にチーム全体が疲弊し、急失速した。そして、強度に劣り、足元の技術を武器とする選手は、まったく特長を発揮できなかったこともあり、8月には「強化部との選手評価の違い」で解任され、岩政大樹コーチが監督に昇格した。

 岩政監督はレネ監督とまた異なるアプローチでチームの修正を図った。「新しい鹿島を創る」と宣言し、改革を実行。ポゼッションもカウンターも、ハイプレスもミドルプレスもリトリートも、トランジションも…すべてができるチームを理想に掲げた。各ポジションに凝り固まった役割を与えるのではなく、出場する各選手の個性によって立ち位置や役割を修正し、互いの良さを引き出せるようなチームを目指した。チームを一つの型にはめることは、誰かを切り捨てること。選手全員を見捨てず、誰が出場しても、個性を発揮できるような、柔軟なチーム作りを理想として描いていたのだろう。

 しかし、Jリーグの中で最もサポーターからの要求レベルが高い鹿島で、理想のスタイルを実現することは容易ではない。勝ち点を1つでも落とせば、重圧は高まり、選手は不安に苛まれ、プレーの質に影響してしまう。

 当然、クラブOBである岩政監督は、鹿島特有の重圧や、目に見える短期的な結果を強く求められていることも理解していた。そのため、選手に特定の役割を指示することこそ控えたものの、強度を特長とした選手を試合で多く起用。試合ではあくまで結果を追い求め、トレーニングではポゼッションやビルドアップなど、チームの総合力アップを目指した。

 しかし、指揮官のなかで進むべき道は見えていても、肝心な勝ち点を積み上げられなかった。今季J1最終節の試合後、強化責任者である吉岡宗重フットボールダイレクター(FD)は、今季のチームを次のように分析している。

「岩政監督には『方向性を示すが、ピッチの中で判断するのは選手たち』という考えがある。これはどの監督も同じだと思う。ただ、グループ戦術やセオリー、立ち返るものを、もっと強烈に出してよかったと思っている。結果的にこういう順位に終わったが、シーズンのはじめ、神戸に大敗したあと、岩政監督とずいぶん話をした。『自分たちがこうあるべきだ』、『こういうことをやろうとしているよね』と整理して、チームが少しずつ良くなってきた。横浜FM戦で勝てれば、また状況は変わってきたのかもしれないが、そのあと6試合勝てなくなり、立ち返る部分が見えづらかった。相手に合わせた部分も多かったので、自分たちのスタイルが明確にならなかったかなと思う」

 岩政監督の理想は叶うことなく、今季限りでの契約満了が決まった。他のクラブであれば、実質的な就任1年目でリーグ5位進出は、悪くない結果なのかもしれない。しかし、鹿島では違った。

 「毎年のように監督が代わり、チームスタイルに一貫性がない」。「短期的な結果を求めすぎている」。そういった意見も多い。ただ、鹿島には勝ち続けなければいけない事情もあることを最後に記しておく。

 鹿島がホームタウンを構える茨城県の鹿行地域は人口約27万人。スポーツビジネスでは圧倒的に不利な立地に本拠地を置く。鹿島のサポーターは、首都圏に在住している比率も高く、「遠方まで足を運ぶ価値」を示さなければ、収益が減少し、衰退の一途をたどることになる。これまで鹿島は勝ち続けることにより、魅力を保ち続けてきた。クラブはカシマスタジアムを中心とした街作りと地域の活性化など、“試合結果に左右されない魅力”を高めるべく努力を続けているが、トップチームが勝たなければ、クラブ存続の危機にもつながり得る。吉岡FDも次のように話していた。

「上位に残っていればいいと考えていれば、中位、残留争いに巻き込まれる可能性がある。難しいミッションではあるが、このクラブは『すべては勝利のために』という精神が根付いている。ファン・サポーター、鹿島に関わる人すべてが、タイトルを求めている。だから、今年は残念な結果になったが、このクラブの目標設定を変えてはいけない。タイトルを獲ることが、このクラブに関わる人間の責任だと思う。これからもタイトルを求めていく」

 ここまで表層的な視点ではあるが、近年の流れを簡単に振り返ってきた。5年に渡る無冠の原因は、一つではないし、明確な答えはない。振り返れば、天皇杯準優勝や準決勝敗退、上位対決での敗戦、あと一歩でタイトルを逃した場面もあった。あの試合に勝ち、あの一つのタイトルを獲れていれば、また違った歴史になっていたかもしれない…。しかし、サッカー界に「たられば」は禁物。今後、クラブは継続すべき点と変化すべき点、短期的強化と長期的強化、正解のない難しい問いに答えていく必要がある。
 
取材・文=高橋 羽紋




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