日刊鹿島アントラーズニュース

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2023年12月6日水曜日

◆東京Vを16年ぶりJ1復帰へ導いた染野唯月。鹿島同期の松村優太にも大きな刺激を(サッカーキング)






 東京・国立競技場という大舞台に5万3264人という超満員の大観衆を集める中、12月2日に行われたJ1昇格プレーオフ決勝。16年ぶりの最高峰リーグ復帰を目指すJ2・3位の東京ヴェルディはキャプテン・森田晃樹の不運なハンドによるPK献上で1点をリードされ、終盤を迎えていた。

 後半アディショナルタイムは8分。東京Vは相手ゴール前目がけて蹴り込む形で懸命に活路を見出そうとした。迎えた98分、清水エスパルスの吉田豊が出したボールを神谷優太がコントロールした瞬間、東京Vは3人がかりで囲んでボールを奪取。谷口栄斗が中原輝に出し、一気に相手DFの背後を突くタテパスが供給された。

 ここで反応したのが背番号39をつけるFW染野唯月。彼が強引にゴール前まで持ち込もうとしたところで相手DF高橋祐治がスライディングタックルをお見舞い。これがファウルと判断され、PKが与えられた。

 名門クラブの生死が懸かったワンプレー。染野は「自分がこのチームを助けたい」という一心でペナルティスポットに立った。「正直、今までで一番緊張した」というシュートは右隅へ。GK大久保択生に読まれたが、見事にネットを揺らし、1-1に。そのままタイムアップの笛が鳴り、彼らは悲願のJ1昇格を達成したのである。

「この試合が自分の分岐点になると思っていた。そこで点を取れたのがよかった。シンプルに仕事ができて、結果につながったことが大きかった」と22歳の点取屋は安堵感を吐露した。

 尚志高校から鳴り物入りでプロ入りしてから4年。鹿島アントラーズでは思うように出番を得られず、2022年と2023年に2度、東京Vにレンタル移籍した苦労人はついに高い壁を乗り越えることができたのである。

「1試合通して出続けるってことは鹿島にいた時はなかなかできなかった。ヴェルディに来て最後まで使ってもらえるようになって、裏抜けとか足元で受けるとか、いろんなことができるようになった。自分を起用してくれた城福(浩監督)さんに一番感謝したいかなと思います」と彼はしみじみと語っていたが、サッカー選手はやはり試合に出てナンボ。鹿島では鈴木優磨、上田綺世ら先輩FWがいて、彼らを越えられなかったが、異なる環境で新たな自分を構築できた。そして重圧のかかるPKを決めきった。その事実は染野に大きな自信をもたらしたはずだ。

 その一挙手一投足を凝視していたのが、鹿島同期入団の松村優太だ。2020年加入組は荒木遼太郎、山田大樹含めて4人。荒木はルーキーイヤーから出番を得て、2年目の2021年は10ゴールをマーク。ベストヤングプレーヤー賞に輝いている。その傍らで、染野や松村、山田は苦しい時間を強いられた。染野と山田はレンタルに赴き、松村と荒木は鹿島に残る道を選んだが、今回の染野の成功に松村は大きな刺激を受けたという。

「これがサッカー人生だなと思ったし、誰がどこで何をするかは行ってみないと分からないこと。僕だって正直、今年の夏に外へ出ようを考えた。岩政(大樹)監督に引き止められましたけど、染野は染野で環境を変えてチャレンジすることを選択し、J2で得点を重ねて最後の最後にチームの歴史に残るパフォーマンスをした。そういうのを見て自分も切磋琢磨しようと思えるんです」と最高の仲間の存在に感謝していた。

 リスペクトを示してくれる同期のいる鹿島に戻るのか、それとも東京Vに残留してJ1で勝負するのか…。それは今後の染野を左右する重要テーマと言える。本人は「ノーコメントです。ただただチームを勝たせるFWになりたい」と発言するにとどまったが、どういうキャリアを歩むにしても、ここからもっと勝負強い点取屋へと飛躍しなければならないことだけは確かだ。

 もともと染野は尚志高校時代から「2001年生まれの中でパリ五輪世代のトップFW」と位置づけられていた。少なくとも鹿島入り時点では五輪代表候補筆頭だったはずだ。それが試合に出られなかったことで細谷真大や藤尾翔太、植中朝日、福田師王といった面々に抜かれる格好になってしまっている。

 しかしながら、彼はまだ22歳。ここからが本当の戦いだ。伊東純也や伊藤涼太郎のように25歳を過ぎて海外挑戦に踏み切り、大きな飛躍を遂げる選手もいるのだ。本当の意味でプロフェッショナルの一歩を踏み出した染野が大ブレイクを果たす可能性も少なくないと言っていいだろう。

 実際、プレーオフ決勝でも、キャプテン・森田がPKを献上した時、染野は「晃樹、負けるな」と呼び捨てで鼓舞したという。そういったタフさや闘争心を重要局面で見せられるようになったのだから期待大だ。人間的成長を大いに感じさせた彼には、大一番を通過点にして、ゴールを量産できる日本屈指のFWへと上り詰めてほしいものである。

取材・文=元川悦子





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