明治安田J1リーグ第7節、FC東京対鹿島アントラーズが7日に国立競技場で行われた。連敗を避けたい鹿島だったが、ミスが目立つなど立ち上がりから流れを作れず、後半に入り2点を失って0-2の完敗を喫している。一体なぜ、屈辱的な連敗という結果になってしまったのだろうか。(取材・文:元川悦子)
「鹿島はキツそうだった」
3月の代表ウィークが終わり、3月29日から4月7日にかけて3連戦となった2024明治安田J1リーグ。A代表とU-23日本代表に選手派遣をしなかった鹿島アントラーズは2週間じっくりと調整でき、今季就任したランコ・ポポヴィッチ監督の目指すゴールに直結したサッカーを突き詰められたはずだった。
鈴木優磨のPK 1本で1-0と勝利した3月30日のジュビロ磐田戦では成果の一端は見られたものの、続く4月3日のアビスパ福岡戦は0-1と完敗。指揮官も「あれだけイージーなパスミスが出るのは技術・メンタルの両方がいい状態ではなかった」と苦言を呈した。
悲願のJ1タイトル奪還を目指すなら、リーグ戦連敗は許されない。しかも7日のFC東京戦は5万人超の大観衆が集まる東京・国立競技場での一戦。そこで勝ち点3を手にし、鹿島らしい強さと老獪さを示す必要があった。
今回、ポポヴィッチ監督がスタメンに抜擢したのはトップ下の樋口雄太と左ワイドの仲間隼斗。チャヴリッチは右ワイドに配置した。ただ、3試合を通して見ると、変化を加えたのは2列目の組み合わせだけ。最前線の鈴木優磨とボランチより後ろは全て同じで、選手たちの疲労が気がかりだった。
案の定、この日の鹿島はスタートから疲れが見て取れた。相手ボランチの高宇洋も「鹿島は疲れていてキツそうだった」と言う。佐野海舟と知念慶の両ボランチを軸にボールを奪って速く攻めようという姿勢は感じられたが、ミスパスが目立ち、逆襲を食らう場面が散見された。
主力への負担が大きすぎるのか
「自分たちが攻撃している時こそ、リスクマネージメントにはこだわりたいけど、引っかかる時もあるし、それがカウンターになるのは僕の中では仕方ないかなと思う部分。そこは割り切って、1対1になるシーンも増えてくるので、個人の力を出すことが大事。それは自分に任せられた仕事だと思う」と最終ラインを統率する植田直通も強調していたが、それができているうちはまだよかった。
しかしながら、後半に入ると守備陣中心に跳ね返せばOKいうわけにはいかなくなった。象徴的だったのが、55分の1失点目だ。
樋口がボールを失ったのをきっかけに、FC東京は俵積田晃太がドリブルで持ち上がり、これを佐野が寄せたものの、セカンドボールが再びFC東京にこぼれた。そしてエンリケ・トレヴィザンからバングーナガンデ佳史扶、松木玖生とつながり、次の瞬間、仲川輝人が植田と関川郁真の間に侵入。打点の高いヘッドを叩き込んだ。これは鹿島にとって致命的な1失点目だったと言える。
そこからポポヴィッチ監督は重い腰を上げ、藤井智也を投入。ラスト10分となったところで土居聖真、松村優太、新助っ人のミロサヴリェビッチを3枚替え。攻撃に迫力をもたらそうと試みたが、後半アディショナルタイムにミロサヴリェビッチのパスをカットした原川力に松木とのワンツーから豪快な2点目を決められたのだ。
「今、失点が続いていて、そこはすごく腹立たしいというか、そこはすごく責任を感じてます」と植田も苦渋の表情を浮かべた。相手の鋭いカウンターに鹿島は屈し、まさかの連敗を喫することになったのである。
「終わり方が非常に悪い。ゲーム自体は我々がコントロールしていたが、前節と同じように決められてしまった」
ポポヴィッチ監督は悔しさをにじませたが、やはり主軸メンバー固定の弊害が出たと言わざるを得ない部分もありそうだ。今季の鹿島は始動時から主力とサブをある程度、固定してチーム作りを進めてきたため、今回のような過密日程になると、一部の主力に大きな負担がかかる。いくら鈴木優磨や植田、佐野らタフな面々でも、出ずっぱりだとパフォーマンスが落ちて当然だ。
「いくら崩しても…」
指揮官はFC東京戦前日のオンライン会見で「シーズンを半年で消化したコロナ禍の2020年に私はFC町田ゼルビアで指揮を執っていたが、保有人数もそれほど多くない中、ローテーションをほとんど使わず、ケガ人もほぼ出さずにリーグ戦を戦い抜いた。それを考えると、今の鹿島で『ローテーションを使った方がいい』というマインドになると選手たちが必要以上に疲れを感じる」と発言。固定起用でも問題ないと考えていたことを明かす。
ただ、この日の鹿島はチーム走行距離・スプリント回数といったデータ面でもFC東京を下回っている。今後は大型連休の連戦も控えるだけに、チームの幅を広げていかなければいけないのは確かだろう。
もう1つ、気がかりな点は3試合で鈴木優磨の1点しか取れていないこと。
「いくら崩しても最後のパスと最後のシュートがよくなきゃ点は入らないんで、そこの質は自分含めて、1人1人が上げる必要があるかなと思います」と背番号40は反省を口にした。が、彼自身のシュートが2試合続けてゼロというのは直視しなければいけない重大な課題だ。鈴木優磨が最前線にいて、彼のところが攻撃の起点だということは対戦相手もよく分かっているから、徹底的にマークする。今回のFC東京も真ん中に人数をかけて包囲網を作っていた。そうなった時に「次の手」がないのが今の鹿島なのだ。
開幕3戦はチャヴリッチを中央に置いていた分、ひと味違った攻めの迫力が感じられたが、彼はもともとウインガー。3月17日の川崎フロンターレ戦以降はサイドに主戦場を移している。そこでチャヴリッチが前向きにプレーできる回数が多くなれば、サイドをより効果的に攻略でき、鈴木優磨の決定機も増えるはずなのだが、そういった形にも思うように持ち込めていない。
だからと言って、指揮官はチャヴリッチを中央に戻す考えはない様子。この3試合を見ると、鈴木優磨の背後にいるトップ下を名古新太郎、土居、樋口と入れ替え、攻撃に変化をつけようと試みてはいるものの、フィニッシュやラストパスの質が上がり切らない。
土居は「今はまだ攻撃陣全体が同じ絵を描ききれていない」と指摘したが、アタッカー陣の誰が出てもいいリズムで攻撃し、相手のギャップを突いていけるような高いレベルに引き上げていく必要がある。それは簡単ではないだろうが、今の壁を乗り越えない限り、鹿島の上位浮上、優勝争い参戦、ひいては常勝軍団復活は難しいと言うしかない。
「今はポポさんのスタイルにどんどんチャレンジして精度を上げていこうとしている。パスがつながっていればチャンスになるのは間違いないんで、自分たちのクオリティを上げていかないといけないと思います」と鈴木優磨自身も強調したが、彼らは前向きな方向に進めるのか。ポポヴィッチ監督体制発足、最初の厳しい局面に立たされた鹿島がここからどういった軌跡を描いていくのか。それを慎重に見極めたい。
(取材・文:元川悦子)
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