明治安田J1リーグ第12節、柏レイソル対鹿島アントラーズが6日に行われ、1-2でアウェイチームが勝利している。これで鹿島は大型連休3連戦を3連勝で終えることに成功し、順位を首位・FC町田ゼルビアと勝ち点3差の3位に上げることになった。その原動力となったのは。(取材・文:元川悦子)
非常に難しいと分かって…」
大型連休の3連戦ラストとなった5月6日のJ1第12節。首位・FC町田ゼルビアと2位・ヴィッセル神戸が連勝する傍らで、セレッソ大阪とサンフレッチェ広島が敗戦。順位を落とす中、ガンバ大阪、湘南ベルマーレに連勝してきた鹿島アントラーズは上位戦線に加わる絶好のチャンスだった。
その相手は柏レイソル。細谷真大、関根大輝の両U-23日本代表コンビはコンディションを考慮され、ベンチ外となったが、観客席とピッチが一体化している三協フロンテア柏スタジアムの重圧というのは、やはり凄まじいものがある。
「このスタジアムで勝ち点を持って帰るのは非常に難しいと分かっていた」と鹿島のエースFW鈴木優磨も語っていたが、2023年4月9日の三協柏でのゲームも0−1で敗戦。サポーターが試合後、スタンドに陣取って抗議する事態に発展している。その苦い過去を払拭すべく、確実に勝利を手にする必要があった。
ランコ・ポポヴィッチ監督は前節からスタメンだった樋口雄太を下げ、師岡柊生を起用。右FWに今季初先発させた。仲間隼斗、名古新太郎、師岡の2列目は強度と推進力を出せる組み合わせ。実際、彼らを軸に序盤から凄まじい勢いでハイプレスを仕掛けていった。
それが開始わずか4分に結実する。相手のクリアボールを佐野海舟が頭で落として仲間に預け、リターンを受けると、前線を走る名古に鋭いスルーパスを出した。これを受けた背番号30は相手右サイドバック・川口尚紀をかわして左足を一閃。待望の先制点を奪ったのである。
「海舟に渡る前にスペースを確認できてて、海舟も見てくれてたんで、そこを信じて走り込んで、あとは落ち着いて決めました」と名古はしてやったりの表情を浮かべる。早い時間帯の一撃で鹿島は勢いに乗った。
チャヴリッチのスーパーサブ起用が希望に
そこから前半は終始、鹿島ペース。彼らはタテに速い攻撃を意識し、ロングパスや大きなサイドチェンジを多用。師岡や鈴木優磨が次々と決定機を迎えた。しかし、それを決めきれないのが、今の鹿島なのだろう。
中盤・守備陣をメンバー固定した中での連戦・3戦目ということで、後半になれば必ず体力的に落ちてくる。だからこそ、前半のうちに勝負を決めておく必要があったのだが、それが叶わず、1−0で前半を折り返すことになってしまった。
迎えた後半。長身FW木下康介を投入し、風上の強みを生かしてロングボールを蹴り込むようになった柏に対し、鹿島は劣勢を強いられ始める。そして後半65分に島村拓弥にワンチャンスをモノにされ、同点に追いつかれたのだ。
さらにこの5分後には、マテウス・サヴィオのスピーディーなドリブル突破を止めようとした植田直通がペナルティエリア内でハンド。PKを献上してしまう。これを決められたら困難な状況に追い込まれるところだったが、サヴィオがまさかのPK失敗。九死に一生を得た鹿島は希望を持って戦うことができた。
一進一退の攻防が続く中、彼らにとって大きかったのは、途中出場で送り出されていたチャヴリッチの存在だ。ポポヴィッチ監督の秘蔵っ子である助っ人FWは、今季開幕から鈴木優磨と並ぶ攻撃のキーマンと位置付けられたが、4月の連戦でコンディションが低下。小さなケガにも見舞われたという。そこで、この大型連休3連戦では先発から外れ、後半からギアを上げるスーパーサブの役割を託されていたのだ。
「監督とコミュニケーションを取った時、『自分はスタートから出れる』と言ったんですけど、監督は違う結論を出した。それには少しビックリしました。僕はキャリアを通してスタートで出ることが多かったですし、途中出場のウォーミングアップの仕方すら分かっていなかったので」
本人が苦笑するように、途中出場はサプライズだったようだが、湘南戦で鈴木優磨とのホットラインからスーパーな3点目をゲット。短時間でも仕事ができる能力の高さを印象付けており、今回も連発が期待された。
「チャヴリッチは今日、あんまり…」
「チャッキー(チャヴリッチ)は今日、あんまり入りがよくなかったと思う」と鈴木優磨は言う。それでも「ああいう選手は一発を持っているから、彼が上がったタイミングでボールを出せば、得点の確率は上がると思っていた」とチャヴリッチの決定力の高さを信じて、虎視眈々とゴールチャンスを狙い続けたという。
後半アディショナルタイムにその瞬間が訪れる。GK早川友基のロングフィードを濃野公人がヘッドで落とし、鈴木優磨がキープした瞬間、チャヴリッチがスルスルと前線を駆け上がったのだ。
「ワン君(犬飼智也)が触れなくて、チャッキーが触れるようなボールを狙った。あと風向きも難しかったんで、ワン君を越えたら、チャッキーなら絶対に追いつけると思ったし、目が合ったんで、いいボールを入れることができた」と鈴木優磨が送った浮き球のロングパスに背番号7は確実に反応。DFの間を抜け出し、GK松本健太の位置を見ながら右足でゴール。鹿島は苦しかった後半を乗り越え、2−1で勝ち切ることができたのだ。
やはり終盤に決め手のあるFWが登場し、力を発揮するというのは、優勝を目指すチームにとって不可欠なポイント。今季の鹿島は知念慶がボランチ起用されていることで、FWのジョーカーが明らかに足りなかった。こうした現状を踏まえ、ポポヴィッチ監督がチャヴリッチを先発にこだわることなく控えに回し、後半勝負に持っていく采配を見せたのは、今後に向けて前向きな要素と言っていい。
「チャッキーには(得点力とスピードという)絶対的な武器がある。それをどう生かしてあげるかだと思う」と相棒の鈴木優磨も力を込めていたが、2人のホットラインが築かれつつあるのも朗報だろう。
この3連勝で鹿島は3位に浮上。首位・町田と3ポイント差に迫ってきた。これまで苦手だった連戦を乗り切ったことで得られた自信も大きい。ここから先は東京ヴェルディ、サンフレッチェ広島、ヴィッセル神戸という厳しい相手との3連戦が待っている。これを乗り切ることができれば、王者奪還への道も見えてくるかもしれない。
ポポヴィッチ監督率いる新生・鹿島にとって、5月は今季の成否を左右する極めて重要な時期。チャヴリッチの先々の起用法を含めて慎重に見極めていきたいものである。
(取材・文:元川悦子)
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