攻撃陣の活性化によってリーグ4連勝・8戦無敗という快進撃を見せている鹿島アントラーズ。ランコ・ポポヴィッチ監督の強度と推進力を前面に押し出すスタイルが着実に浸透し、ACL準優勝の横浜F・マリノスと対峙しても互角の戦いができることを改めて実証したのだ。
こうした中、進境著しいのが、今季からボランチにコンバートされた知念慶。ご存じの通り、彼は昨季までFWとして長いプロキャリアを生き抜いてきた選手。ボール扱いやパスの出し入れにこだわる川崎フロンターレで長くプレーし、中村憲剛(JFAロールモデルコーチ)や守田英正(スポルティング・リスボン)、田中碧(デュッセルドルフ)といった面々と間近で接し、自分なりのボランチ像を描きやすかったところはあるだろうが、29歳の選手が運動量や寄せ、球際の部分で負担が大きく増える中盤に下がるのは簡単なことではない。
それでも1日の横浜戦を見る限りだと、知念はコンビを組む佐野海舟と相手両インサイドハーフ(IH)の天野純と渡辺皓太を警戒。さらにサイドバック(SB)の位置から中に絞ってくる永戸勝也らの位置も見て、要所要所でボールを奪っていた。
■「絶対に自分は負けちゃいけない」
「今、鹿島の特徴として、両サイドバックが高い位置で攻撃参加してチャンス作ってくれてるので、相手のヤン・マテウス選手、逆のウイングも攻め残りする選手が多いんで、そこのカバーを意識してやりました。
前半は天野選手の立ち位置がすごく賢くて、やりづらかった、自分としては苦戦したんですけど、後半はちょっとオープンな展開になって、自分たちの攻撃で上回れたんで、そこは良かったかなと思います」と本人も90分間通して自分らしさを出せたという。
「危険な場所には必ず知念がいる」と言ってもいい状況を作った背番号13。この日の最たるシーンと言えるのが、鈴木優磨がアンデルソン・ロペスから奪ったボールを知念が運ぼうとして、逆に後ろからタックルされた後半26分の場面だろう。普段温厚で感情の起伏が少ない背番号13が熱くなってロペスに向かっていき、木村博之主審が止めに入ったほどだった。
「球際だったり、デュエルだったりの部分では、絶対に自分は負けちゃいけないと思ってやってるんで、そこは持ち味出せたかなと思います」
本人も語気を強めたが、5月30日時点の2024シーズン・デュエル勝利数は68とダントツのトップ。鹿島のデュエル王というと、佐野海舟を思い浮かべる人も多いだろうが、佐野は30で知念の半数以下。このデータを見ても分かる通り、「ボランチ・知念」が今季鹿島に大きなプラスをもたらしているのだ。
■知念の割り切りがいい方向に
「正直、課題はいっぱいあると思いますし、ビルドアップなんかも割り切ってあんまり関わらないようにしているんで(苦笑)。奪ってそこから攻撃に繋げる部分に振り切って今はやっているんで。周りが自分が足りない部分をサポートしてくれるし、逆に周りができないことを自分がサポートしてあげるようないい関係が今、作れてるかなと思います」と本人もできる仕事を徹底的に遂行するというスタンスを貫いているという。
この守備強度は5月22日のYBCルヴァンカップ・町田戦から復帰した柴崎岳にも出せない部分。柴崎が戻ってきたら知念がどう扱われるかというのは1つの疑問ではあったが、指揮官はこのまま知念・佐野をベースに戦っていくつもりだろう。柴崎は横浜戦終盤にトップ下に入ったが、より攻撃的な役割を担う可能性も少なくない。いずれにしても、知念抜きにポポヴィッチ監督のサッカーは具現化できないということなのだ。
「今のところ信頼して使ってもらってるんで、その期待に応えないといけないなっていうプレッシャーや責任感はあります」と知念は神妙な面持ちで言う。29歳にして新境地を開拓し、才能を開花させつつある男が今後の鹿島を支え続けていくことになりそうだ。
(取材・文/元川悦子)
◆【首位・町田に勝点で並んだ鹿島の「好調の要因」(2)】新デュエル王誕生。ボランチコンバートから3か月で守備強度が増した知念慶効果……ビルドアップの割り切りも良い方向に(サッカー批評)