YBCルヴァンカップは早々と敗退してしまったものの、最重要タイトルのJ1はというと5月の6試合で無敗と調子を上げている鹿島アントラーズ。16試合終了時点で勝ち点32と首位・町田ゼルビアと3ポイント差まで迫っており、頂点が見えつつあるところまで来ている。
とはいえ、6月は1日の横浜F・マリノスを皮切りに、浦和レッズ、ガンバ大阪、ヴィッセル神戸といった難敵が続く。3連戦が3回もあった4月終盤からの1か月に比べると日程的に余裕があるのは確かだ。
まずは最初の横浜戦を勝利で踏み出すことが先決。東京・国立競技場に5万2000人超を動員した大一番で、しかも横浜には過去2年間勝ちがない。23-24AFCチャンピオンズリーグファイナリストの相手に今回こそは白星がほしかった。
強度とハードワークを前面に押し出し、試合に入った鹿島だが、前半10分にパスカットした関川郁万がボールを引っかけられ、井上健太のシュートを許し、最終的にアンデルソン・ロペスに押し込まれるという苦いスタートを強いられた。
「自分がゲームを壊してしまったので、申し訳なさもありますし、何とかしてチームを救いたいっていう気持ちはありました」と関川本人も奮起を誓ったという。
■鈴木優磨の心を盛り立てたもの
その後、横浜に主導権を握られたものの、徐々に修正。関川自身が奪ったと思われた同点弾がVARで取り消され、師岡柊生の決定機も阻止されるなど、チャンスは作ったものの、追いつけないまま45分を終えることになった。
そこでランコ・ポポヴィッチ監督はいつも通り、ハーフタイムに檄を飛ばし、チャヴリッチを早めに投入。しかも彼をサイドではなくトップに配置。鈴木優磨をトップ下に一列下げ、右に名古新太郎、左に仲間隼斗という変則的な並びに変更したのだ。
これが奏功し、攻撃のギアが一気にアップ。後半12分に右の名古のクロスをチャヴリッチが頭で落とし、ファーから鈴木優磨が豪快な左足シュートを決め、同点に追いつく。
「上(のコース)はなかったんで、いかに下を狙うかだった。正直、かなり運もあったんですけど、何とか相手の股を抜けて、いいところに行きました。
誰だか忘れちゃったんですけど、相手に煽られたおかげですごい力が発揮できましたね(笑)。『絶対に勝ってやる』『絶対に点取ってやる』って心に決めていたので。僕はそういうタイプなんで力が入りました」
いかにも鈴木優磨らしい物言いで今季8点目を喜んだ。エースが得点ランキング上位に挙がってくるとチーム全体に弾みがつくのは事実。13点のレオ・セアラとはまだ5差あるものの、したたかに一発を決められる技術と戦術眼があれば、その領域に辿り着ける日も近そうだ。
■「幸輝に依存しているところがあって」
彼が後半29分の2点目をお膳立てしたのも特筆すべき点。背番号40が左の大外の低い位置まで下り、ボールを受けて、フリーになっていた知念慶に展開。13番がドリブルで持ち上がった瞬間に右の名古がダイヤゴナルで中に走って永戸勝也を引きつけ、空けたスペースに濃野公人が飛び込み、今季5点目を叩き出すという理想的な流れだった。
「キミ(濃野)が点を取っている大きな要因としては今年の(安西)幸輝のパフォーマンスがすごくいいことがある。ビルドアップに関しては幸輝に依存しているところがあって、あそこでボールが止まる瞬間があることがすごく大きい。そのおかげで左から崩れて、キミが取れていると思う」と鈴木優磨も説明していたが、「左から右」は鹿島の必殺パターンになりつつあるのだ。
最終的には関川のリスタート弾が飛び出し、3-2で横浜を振り切った鹿島。首位・町田と勝ち点35で並び、いよいよトップが見えてきた。鈴木優磨が8点、チャヴリッチが6点、濃野が5点、名古が4点というように、得点源が分散できているのが、今の鹿島の強さ。そこは昨季と比べると大きな前進と言っていい。
エース中心に攻撃陣に自信が生まれている今、この流れを加速するしかない。6月代表ウイークの2週間を有効活用すべきだろう。
(取材・文/元川悦子)
◆【首位・町田に勝点で並んだ鹿島の「好調の要因」(1)】鈴木優磨が8点、大卒新人・濃野が5点と「左から右」の崩しが具現化……鈴木が説明する要因は「幸輝のパフォーマンス」(サッカー批評)