吉岡さんが監督と話をすると、『俺は本気で考えている』と言われたらしくて(苦笑)。吉岡さんからも『監督は本気だから、ボランチでがんばってくれ』と伝えられ、自分も『監督、ガチなんだぁ』と思いました。それだけ期待されているなら、と決意も固まりました」
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◆J1鹿島・知念慶がボランチで才能開花! FWからの「ガチのコンバート」でデュエル王を独走中(Sportiva)
知念慶(鹿島アントラーズ)インタビュー前編
2024シーズン、Jリーグのデュエル勝利数で2位を大きく引き離す1位に立っているのが、鹿島アントラーズの知念慶(29歳)だ。
今季途中からJリーグ公式サイトのデータページがリニューアルされ、詳細な『PLAYER STATS』(選手スタッツ)が公開されるようになった。走行距離やスプリント回数などともに目がいくのが、デュエル勝利数である。
第29節を終えて、ダントツともいえる104回の勝利数(2位は岡村大八の85回)を誇る知念は、今季より鹿島を率いるランコ・ポポヴィッチ監督によって、FWからボランチへとコンバートされた。ボランチ転向の経緯に加えて、ボランチとしてどのような成長曲線を描いているのだろうか。Jリーグデュエル王の現在地に迫る。
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── 知念選手にとってアントラーズに加入して2年目の今季、ポポヴィッチ監督が就任しました。どのような心境でシーズンを迎えたのでしょうか?
「新しい監督のもとでスタートするということで、自分もどこでチャンスをもらえるかはわからない。それが楽しみでもありました。
ただ、シーズン開幕前のキャンプではFWではなくトップ下でプレーしていたんです。紅白戦ではいわゆるサブ組で、当時はカキ(垣田裕暉/現:柏レイソル)と組むことが多かった。その状況から、FWとしてはおそらく4番手。チーム内での序列は低く、厳しいスタートになったなと思っていました」
── そうした状況で、ボランチにコンバートされる転機があった。
「キャンプ中に岳くん(柴崎岳)が負傷して、練習試合でFWとして出場する予定だったのが、急遽、ボランチでプレーすることになりました。最初はチームメイトも笑っていたくらいなので、自分自身も『さすがに俺のボランチはないでしょ』って思っていました。
ただ、その後の練習でも、ほかにボランチができそうな選手はいるのに、監督はその選手たちをボランチで起用するのではなく、自分を起用しました」
【チームに迷惑をかけないように必死】
── 戸惑いながらも、与えられたポジションで全力を尽くそうと?
「そうですね。ただ当初は、リーグ開幕直後くらいには岳くんが復帰できるのではないかと聞いていました。そのため、自分がボランチで出場するにしても1、2試合くらいだろうと。
そこまではチームのために乗りきろう、がんばろうと思っていたんですけど、開幕が近づき、岳くんが復帰に時間を要するかもしれないと聞いて、自分のなかでも腹をくくりました。チームのためにも、自分のためにも、ボランチで勝負しようって」
── ポポヴィッチ監督は大分トリニータを指揮した時代に、川崎フロンターレではチームメイトだった家長昭博選手をボランチで起用した実績があります。そうした事実を、知念選手も知識として持っていたのでしょうか?
「そのことはポポさん(ポポヴィッチ監督)が直接、自分にも話してくれました。当初、吉岡(宗重)さん(フットボールダイレクター)は僕がFWでプレーしたいという気持ちを考慮して、『ボランチの補強も考えているから』と言ってくれたようです。
ですが、そのあと吉岡さんが監督と話をすると、『俺は本気で考えている』と言われたらしくて(苦笑)。吉岡さんからも『監督は本気だから、ボランチでがんばってくれ』と伝えられ、自分も『監督、ガチなんだぁ』と思いました。それだけ期待されているなら、と決意も固まりました」
── とはいえ、FWとボランチでは求められるプレーや役割は大きく異なります。
「開幕戦からボランチで先発出場しましたけど、当時はとにかく必死で、チームに迷惑をかけないようにしよう、としか考えられなかったですね。ただ、昨季も含めてアントラーズは、ボールが落ち着く時間が少なかったので、最初はボールをキープして落ち着かせることを意識していました。
でも監督は、そうしたプレーを求めていなかった。はっきりと、いつかは覚えていないですけど、プレーしていくなかでそこに気づき、自分のプレーを変えました」
【知らない間にデュエル王になっていた】
── 不慣れなポジションを務めながらも、監督が求めるプレーを理解して、アジャストさせていったんですね。
「その繰り返しなので、ここまでシーズンを戦ってきたなかでも、細かいプレーは変わってきています。ポポさんは、いいプレーの時は『ブラボー!』と言い、ダメなプレーに対してははっきりと『違う』と指摘してくれる。
落ち着かせようとしたプレーに対して、『ブラボー!』と言われる機会はなかったので、そこは求められていないなと思って、がっつり守備に切り替えました。ボールを奪ったら素早く前につける、セカンドボールを拾った時も前線の(鈴木)優磨を見つけて展開する。攻撃では、速くて、直線的にといったプレーを選択するようになりました」
── なるほど。
「俺と(佐野)海舟(現マインツ)のダブルボランチは、お互いに相手からボールを奪いきれる強みがありました。だから、ボールを奪ったら前に速い攻撃を仕掛けることができていました。ここ最近は、試合に出ているメンバーも代わり、ボールを握ってからどう相手を崩していくかというフェーズに変わってきているので、そこで自分のよさをどう発揮していくかを考えています」
── その結果が、J1リーグにおけるデュエル勝利数で1位という数字にもつながっているんですね。
「でもそれは、Jリーグがスタッツを発表するようになってから自分も知りました。それまではただただ、がむしゃらに守備をがんばっていただけでした。
自分なりにチームに迷惑をかけないために、貢献できるプレーを選択していたら、Jリーグがスタッツを発表して自分がデュエル勝利ランキングで1位だと知り、自分が守備に特徴があることに気づきました。それからは、守備の強さを武器にしていこうと思ったくらいです」
── FWでプレーしていた時から、守備に定評がありました。
「途中出場する機会が多かったことが、守備力に磨きをかけてくれたと思います。途中から試合に出る選手は、攻撃以上に守備を求められることが多い傾向にあります。
みんなが疲れてきた時間帯に、どれだけ守備でがんばれるか。間延びしている状況や時間帯に、守備で貢献することを求められていたので、自然と守備が得意になっていったところもあったのかもしれません」
【相手からボールを奪う秘訣は...】
── ボランチでプレーするようになった時にも、今までの経験が生きていたわけですね。
「それは間違いないと思います」
── 学生時代には複数のポジションでプレーした経験があるように、適応能力が高いように思います。
「個人的に、ユーティリティーというと賢い選手というイメージがあるのですが、自分の場合はある程度、基礎身体能力があるので、そこで補えてしまうところがあるんですよね。どのポジションにも順応できる技術や頭脳、戦術理解があるわけではなく、フィジカルの強さでどこでも戦えて、一定のプレーが計算できる。
だから、自分のなかではユーティリティープレーヤーとは違う認識を持っています。適材がいなければ、あいつががんばってくれるだろう、くらいな(笑)」
── でも......と否定するようで申し訳ないのですが、前線で求められる守備と、中盤で求められる守備は違います。そこに適応できることは、ひとつの能力では?
「たしかに求められる守備は、ポジションによって違いますね。最初は、プロとして求められるボランチの守備がわからなかったので、監督からは『常にポジショニングを意識しろ』と、言われていました。そのうえで、『球際に強くいけ』と言われていたので、そこを意識しました。
ボランチでコンビを組む相方が前に出たら、自分は下がる。自分が前に出たら、相方が絞る。疲れてくると、どうしてもボールばかりを見てしまい、横並びになってしまうので、そうならないように注意しろとアドバイスを受けました。
それを意識するようになると、相方が前に出ていったスペースに相手がボールを入れてきた時、自分がボールを奪えたんですよね。その成功体験が、より守備とポジショニングに目を向けるきっかけになりました」
── 自分なりに相手からボールを奪う秘訣みたいなものはあるのでしょうか?
「正直、自分の感覚なので、言葉で説明できないところがあります。ただ、あまり相手を見て下がらないようにというか、構えないようにはしています。
相手に突っ込んでいって、身体をぶつけて奪いきる。身体をぶつけられなくても、相手に触れて、相手の自由にさせないようにしているというくらいです」
【佐野海舟との間に約束事はなかった】
── シーズン前半戦でコンビを組んでいた佐野選手とは、どういった関係性を築いていたのでしょうか?
「海舟とはお互いを補って助け合うというよりも、お互いにボールを奪うのが得意だったので、ふたりとも積極的にアタックしていました。それでボールを奪いきれなかった時には、もう一方がフォローする。
お互いにプレーエリアが広かったので、前に出ていける範囲も、カバーできる範囲も広かったんですよね。それこそ、ふたりとも前に出ていった先でボールを奪いきれる場面も多かったですから」
── それこそインターセプト総数でも、ふたりは上位にランクインしていました。
「あいつもいっちゃうし、自分もいっちゃうみたいな(笑)。お互いにあまり相手のことを気にしていなかったかもしれません。だから、『ボランチふたりの関係性や約束事は?』と聞かれても、これといった決まりはなかったというか。
お互いに好きなようにプレーしていたら、ボールを奪えるので、自分がいけるタイミングで出ていこうと思っていました。仮にカウンターを仕掛けられても、スペースを埋めるのではなく、それでも取りにいく。自分が奪いきれなかったとしても、『海舟がいるしな』って思っていました」
── それを信頼関係と言うのかもしれないですね。
「ただただ、監督が求めていることを忠実に体現しようと取り組んでききたら、どんどん、できることや強みが増えていったように思います」
(後編につづく)